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EL『愛しき花へ』(1)

EL『愛しき花へ』



「約束だよ、俺はあなた達の組織に入る。だから、」

「あぁ、皆まで言わなくともいい。我々は『スカイ』に手を出さない。契約だからな」


 満足そうな笑みを浮かべやがる男へ、翼は決心した顔つきで俺の隣りから一歩踏み出していく。

 ちくしょう……『翼が組織に入ればスカイを潰さない』なんて条件……俺は反対したのに……!

 それでも行っちまうのかよ、翼……俺達のために、お前は……。

「本当に、本当に、絶対にスカイには手を出さないよね?」

「まったく、そんなに我々が信用できないかね? ではこうしよう、もうこちらは『スカイ』の名を口にすらしない」

 「どうかね?」と、どこまでも余裕ぶった笑みをしやがって……! 殴りかかりたい衝動を、必死に抑える。

「……わかりました。俺は、あなた達に従います」

「ふむ、嬉しいよ。では白鷹翼、早速なのだがね、」

 たった今から翼を従わせた男は、その後ろに大勢連れた人間達を見事に隊列させたまま、とても愉快そうに次の言葉を放った。





「命令だ、蒼波遼平を殺せ!!」


「え……っ!?」


 男は俺を指差し、翼へ最初の命令を下した。それは、俺の消去。

「どういう事ですかっ、もうスカイには手を出さないって……!」

「おや? 私は、《君が昔居たグループの名》は口にしていないが? 君の後ろにいる、その男を殺せばいいのだよ。入試試験のようなものだ」

 翼が歯を食いしばり、拳をぎゅっと握る。普段は温厚な翼が発する怒りの空気に、男の背後にいたやつらが微かに震えているのがわかる。

「私の命令に従わないならば、契約違反ということで、《君が昔居たグループ》を潰すが?」

 なるほどな……最初からその気だったのかよ。なら、俺の選ぶ手段は一つだ。

「翼」

 俺が呼ぶと、翼はまだ悔しそうで困惑した顔のまま、こちらへ振り返る。そんなアイツに、俺はいつものにやけ顔をして。



「翼、俺を殺せ」



「遼平……!」

「なにシケた顔してんだよ、俺なんか『スカイ』の名を汚す破壊者だ、出て行くついでに俺を消していけよ」

「違う……違うよ、遼平は破壊者なんかじゃ……」

「……これが、スカイを護るお前の最後の仕事だ、翼」

 そんな泣きそうなツラすんなよ……それでもこの裏東京で最強とかって呼ばれてる男だろ? 俺一人殺せなくてどうするんだよ。

 東京最強である今のスカイでも、あいつらの組織とぶつかれば勝率は五割……確実に大勢の死者が出る。それを避けたくて、お前は組織に入ることにしたんじゃねーか。

 ……迷うな。俺を、殺せ。


「遼平、俺、決めたよ」

「あぁそうだ、俺をころ――――」


 アイツは、ずっと昔から変わらない優しい笑みを俺に向けて。



「遼平……俺はお前を裏切るよ。だから、お前は俺を殺して」



 ……は?

「バッ、お前何言って……!」

「ね、俺からの一生のお願いだからさ!」

 ガキみてぇな、悪戯っぽい笑みになって、両手を合わせる。

「もう何度目の……『一生のお願い』だよ……」

「ごめん、今度で本当に最後だと思うからさ。だから……リーダーを、時雨を……『スカイ』を、頼んだよ」



 俺の口が、《音》を紡ぎ出す――。


 やめろ! 俺は翼を殺したくない!!


 《音》は《禁じられた歌》になり、翼の笑顔が苦痛に歪んでいく――。


 やめてくれ! 嫌だっ、嫌だっ、翼は俺の……!


 《禁じられた歌》が終止符まで近づいていき、翼が激痛に耐えて、「ありがとう」と――。





 歌い終わってしまった……禁術歌のために俺にも疲労の反動が来る。俺の前に倒れた男は、まだ意識があった。

 なんでだ! なんで俺は歌ったんだ!? どうして……。


「遼平……俺の最期の頼みを聞いてくれないかな……?」

「翼っ、俺は!」

 急いで駆け寄って、翼の上半身を抱える。その額に内出血の紫が広がっていく……もう、死は止められない……。

「また遼平にお願いしちゃうね。遼平は優しいか、ら……つい甘えちゃうんだよね……」

「お前の願いなら、何だって、何回だって、必ず叶えてやる! 俺の……親友の頼みなら……!!」

 「初めて俺のコト、『親友』って呼んでくれたね」と、すごく嬉しそうな笑顔をしやがって……そうだ、俺はお前のこと、ずっと親友だと思ってた……。


 そうか……だから、お前に頼まれると、願われると、俺は断れなかったんだな……だから、歌ったんだな……。


「コレを――――――――」

「あぁ、必ず、必ず。だから、安心してくれ」

「ありがとう……遼平。遼平が親友で、本当によかっ……」

 不意に途切れる言葉。はっとして翼の瞳孔を覗くと、もう光を失っていた。……なのに。



「生きてね」


 確かに、最期にアイツの口はそんな音を出した。もう意識は無いはずなのに、最後まで……最期まで、お前は俺のことを……。






「ふん、白鷹は我らの手駒にするには甘すぎたか。ならば、蒼波遼平も始末しろ!」

 男の命令で、大勢の武装したやつらが俺を殺しに近づく。そっと、翼の亡骸を地面に下ろして、俺は立ち上がった。



 翼、俺は今から、《人間》じゃなくなる……同時に、お前の親友である権利もなくなる…………ごめんな。



「壊してやるよ……てめぇら全員俺が壊すっ! 苦しみ、泣き、鮮血を噴いてここで……っ、死ねえええ!!!」


 正直、その後のことはよく覚えてねぇ。ただ、悲鳴と生温かい液体と紅を、俺は身体で感じていて…………気が付いたら、俺は数多の屍の上に立っていた。





 これから……どうすればいいんだ?

 この契約のことは、スカイのメンバーは誰も知らない。リーダーさえも。

 《真実》を知ったら、メンバーのやつらは、時雨は、絶対にあの組織に復讐をしようとする。そうなったら、翼の願いが、水の泡じゃねえか。

 なら、どうすれば…………スカイが、時雨が死なない方法……あの組織の存在に、あいつらが気づかなければ……。




 《俺》が敵になれば……!

 それだ、翼の仇が《俺》なら、絶対に誰も死なない! 俺が『裏切り者』になって、生き続ければいいんだ。そうすれば、スカイは、時雨は、《俺》への憎しみが生きる糧になる。翼の死に絶望しても、《俺》への復讐が、生きる支えになる!



 たとえどんなカタチでも……俺は、スカイを護る。

 ああ、俺が《破壊者》に生まれた罪は、同時に大切なヤツの願いを叶えられる力になるんだ。



「翼……俺はもう、愛を求めねぇよ。もう、誰も求めない。もう、誰も俺の犠牲にさせねえ」






 それが俺の、《定め》なんだ――――。




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