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第五章『生を願え、死を想え』(4)


「は……はははははっ、ガキ一人の命が何だってんだぁ? だ、からスカイは堕ちたんだよ……!」

 無理にキラーのリーダーが余裕を保とうとしているのがわかる、震える声。もう誰もが本能で理解しているのに……『次元が違う』のだと。


 一歩、ゆっくり、また一歩。

 《鬼》は黙したまま、一直線にリーダーへ歩んでいく。その闇の双眸を、向けながら。


「か、かかれ! 全員であいつを潰せっ!!」

「でっ、でもリーダー……!」

「うるせえ! いけえぇぇぇ!!!」

 あまりの空気に狂ってしまった若者が、パニック状態で《鬼》に飛びかかる。前後左右、あらゆる方向から、一気に。



 悪魔の翼を持つ《鬼》の同胞達の甲高い叫びと、耳だけが感じる不自然な風―――!!



 地を蹴り、飛びかかっていた者達の身体が、何かに弾き返されたようにアスファルトへ叩きつけられるのは、刹那の出来事。

 その瞬間だけ立ち止まっていた《鬼》は、再び一歩ずつリーダーへ歩み寄っていく。瞳は一時も逸らされていない。その、瞳に映るのは怒りでも憎しみでもなく……ただ、虚無。心など、無い。


「今の……遼平クンに誰一人トして指一本触れテないヨ……!」

「むしろ、遼自身も、誰にも触れてはいないんだよ……『音』だけで、人を弾いた……っ」

「あれが……仲間にさえ恐れられた《邪鬼の権化》なのです……。心を闇に浸した、破壊の生き物……」

 フェイズ、純也、時雨の誰も動けない。あの男は、今はきっと《遼平》ではない……振り返らせてはいけない。



「《鬼》を呼んだのは、お前だな?」

 その声は、確かに純也のよく知る男の声なのに……重々しさで呼吸が止まりそうになる。その言葉を向けられたリーダーの男などは、もはや表情が恐怖を隠せていなかった。

「久々の力だからな、存分に味わわせたいが、」

 淡々と重苦しいその声色が、《遼平》ではない。恐怖に打ち勝ってボーガンの引き金に力を込める速度は、《鬼》にとって永久と同等の長すぎる時間。


「……お前などには、味わう余裕……いや、価値すら無いみてぇだ」


 放たれた全ての矢は左手に掴まれ、右手でリーダーの首を絞めたまま持ち上げる。鉄製の矢数本が、男の首より先に握力で粉砕される。

「っ、ぁぁ……にがあぁぁ……!」

 もはや音にならない言葉は、強くなっていく握力に抵抗するように余力を振り絞って叫んだ。

「このっっ、鬼があああぁぁっ!!!」

 傷口深い《鬼》の腹部へ至近距離で矢を発射、全てが刺さり、残された僅かな血液が流れ出す。

 されど。


「お前に一つ、俺から教えてやろう。聞こうが聞きまいが、どうでもいいけどな」


 痛覚などもはや存在しないのか……歪んだ口元は、確かに微笑んでいた。狂乱の笑み。

 掴んでいた首を離し、落ちてきた身体の足が地面に着く前に鳩尾へ左拳で突き上げる!

 それだけで吐血をしながら上空へ飛ばされる男の身体は、あまりに無防備。《鬼》の姿が消えたのを確認するのは、リーダーの身体より高く跳躍した影が踵落としをその背へ喰らわせた時と同時。重力よりも数倍の勢いで、アスファルトへ叩き落とされるっ!


 骨や内臓が潰される音が、キラーのメンバーに更なる恐怖を与える。恐怖の、果て無き奈落の底へと……。

 うつ伏せでもう指一本動かすことの出来ない男の襟首を持ち上げ、《鬼》は言葉の続きを。




「人間の命なんざ、脆くてすぐ壊れる。……だがな、弱いくせに、それは何よりも尊いモノなんだよ。何故だかわかるか? それを大切にするヤツには、《人間の》強さが宿るからだ。つまりな、命を嘲笑うお前はな、」




 振り上げる動作さえ見えない、渾身の左ストレート……!!

 右胸に直撃を喰らい、怯えきっているメンバー達まで吹っ飛ばされていくリーダー。微かな意識が、消えていく。その朦朧とした視界に、全身が紅に染まった《鬼》を映して。






「俺と同じ、《人間》じゃねえ《劣悪動物》なんだよ」



 最後の言葉が聞こえたかは、わからない。ただ、《鬼》が左腕を上げた合図で一斉に蝙蝠達が路地へ降下、それに怯えてキラーの者達は倒れた者を引きずって逃げていく。





 襲撃者達が消え去った頃、蝙蝠が寄り添い慕うように、《鬼》が闇を愛するように、男の周囲だけが漆黒だった。


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