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第五章『生を願え、死を想え』(2)




「純也あぁっ!」



 遼平の思考に、あの紅が蘇る。白の世界の中、少年が流すおびただしい紅。己のせいで巻き添えになった、消えかけていく小さな命。また、それを繰り返したのか……?

「また、俺のせいで……!」

 戦意を喪失して無防備にも両膝をついてしまう。俯いた顔を、上げられない。











「チョットちょっと遼平クン、ナニを勝手に早とちりシテるのかナ?」


「は……?」



 軽々しいおちゃらけた声に、遼平は思わず顔を上げてしまう。周囲にいたキラーのメンバーが目を見開いている先には……長身の外人。

「あ、ありがとう、フェッキー」

「いいヨ、気にしなくテ。お礼なんてイラナイからネ。ボク、アップルパイが大好物なんだケド」

「……今度、フェッキーにアップルパイを作るよ……」

「えッ、いいのカイ? なんだか催促したミタイで悪いナぁ〜」

 とても嬉しそうな外人の背後から、「あははは……」と少年の苦笑いが聞こえる。驚いたコトは二つ。


 一つ。純也も、その前に立ち塞がったフェイズも無傷なこと。


 二つ。フェイズの両手に握られた純白で細長い棒状の物体のこと。……その先端についているのは、大きく弧を描いた鎌。



「《マリア》……その大いナル御心に咎人を抱ケ」

 二メートル近い大鎌が一度、軽く一回転する。情報屋の足下には、全て切断された矢の残骸。

「おいマリモ外人……そんなん持ってるんだったら、最初っから出せよ!」

「エェ〜っ、ダッテこれ護身用だモ〜ン!」

「護身用の大鎌なんてあってたまるかぁっ!」

「い、今はそんな事を言ってる場合ではありません!」

 怒鳴る遼平と、大事そうに大鎌マリアを抱きしめるフェイズを、時雨が現実に戻す。

「てめぇらボヤボヤしてんじゃねぇっ、一気にかかれ!」

「は、はいっ」

「ア〜ァ、キミたち、本当に『ジェントルマン』ノ何たるかがわかッテないネ〜」 

 片腕で背後にいる純也を下がらせ、フェイズは右腕一本で重量のありそうな大鎌を後ろへ振り引き、バックステップの反動までつけて右腕を振り切って手を放すっ!


 ブーメランのように勢いよく回転する鎌が、白い円を描きながら若者の群れを蹴散らしていく……!


「なんだ!?」

「あっ危ねぇっ!」

「ホ〜ラホラ、避ケないト、その頭が身体とバイバイだヨ〜ン?」

「「「ひいぃぃーっっ」」」

 フェイズのおかしそうな言葉に合わせるように、鎌の刃が残酷な白光を放つ。そして、自在に操られているかの如く《マリア》は所持者の右手に戻って。


「いいカイ? レディ、チャイルド、そしてインジャー……怪我人には優しく接するのが、『ジェントルマン』ソウル、魂ネ」


 「Do you understand?」と、愉快そうにキラーのリーダーへ刃先を向けて。

「フェッキーっ、いくらなんでも殺しちゃ!」

「んン? よ〜く見テごらんヨ純也クン?」

 《マリア》に倒された者は皆、持ち手の棒の部分で強打されただけ。鎌の刃にやられた者が、一人もいない。

「リーダーサン、キミくらいの力を持っていれバわかるヨネ? 《敵は殺すより生かすほうが難しい》ってサ?」

「ははっ、要は、こいつらとてめぇはレベルが違うって言いたいのか、白人ヤロー? お優しい紳士様じゃねーか、いいねぇ、俺、お前みたいなヤツ殺すの大好きだぜぇ」

「……どうやらキミは、ボクが思ってイタほど力は持ってイナイらしいネ」

 舌なめずりをするリーダーと、もう一度マリアを放とうとするフェイズ。しかしリーダーが上げた手は、メンバーへ合図を送るために。



「……でも俺は、《スカイを潰しに》来たんでね。野郎共をぶっ殺すのは後のお楽しみで、まずは幹部を潰させてもらうぜ? やれ!」


 キラーの全員が隠し持っていた拳銃から時雨へ、数十の弾丸が放たれる!






「……誰が殺らせるかよ、お前らなんかに、時雨を」


「こんな卑怯なやり方、僕は絶対に許さないよ!」


「レディへの接し方ヲ、キミたちは幼稚園カラ学びなおすベキだと思うネ〜」



 時雨に背を向けて囲む男達が、全ての銃弾から女を護る。

 大鎌の刃一回しで弾丸を弾いたフェイズ。暴風を上空から突き落として遮断した純也。そして……その身を盾にして体内に銃弾を受け止めた遼平だけが、力無く崩れていく。

「遼平!? なんで……」

「っ、殺させねぇ……絶対、にスカイを……時雨を護る、って……たのまれ……」

 言葉の代わりに、男の口から血が吐かれていく。両膝と両手をついているのが限界で、身体に空いた無数の穴からじわじわと紅が流れて止まらない。

「遼っ、もう動かないで!」

「待っテ!? リーダーサンが消えたヨ!?」



「……ここだよ、バーカ」



 時雨を全員が庇おうとするのは予測内で。そして無傷で銃弾を防げる手段が無いのは遼平のみだと察して。その結果、遼平が立つ位置だけ、一斉射撃の後に無防備になるとの判断。

 それらを全て計算していたキラーのリーダーは、かがむ遼平の前方で、既に時雨の心臓位置へ矢を放っていた――――。



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