表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/28

第四章『亡友のために』(4)



「遼っっ!!」



 一陣の風が吹き、時雨は遼平から距離をとった。片膝を付いて今にも倒れそうな遼平の前に、白銀の髪の少年が立ち塞がる。

「純也!? お前、なんでココに……!」

「話は後だよ! 遼、まだ生きてるよね!?」

「バカが! そこをどけっ」

「できないよ! どうして死にに来たのさっ!」

「俺は……うるさいっ、どけ!!」



「いやだっ!!!」



 今までの純也に無い激しい拒絶に、遼平は一瞬怯む。背を向けて時雨を見る瞳はいつになく鋭かった。

「時雨さん! 復讐は僕を倒してからにしてもらいます!」

「仕方ありませんねっ」

 両者が地を蹴って激しい攻防が始まる。何故か、女の口元が僅かに引き上がって。

 距離が限られている薙刀より、やはり風を操る純也のほうが有利だった。純也の作り出した見えない風の刃が三日月の刃を受け止め、弾き返す。その勢いで時雨に一瞬隙ができ、そこで鳩尾に純也が一発当てようとした瞬間。


 少年と女の狭間に、銀の一閃!?


 純也の拳に何かが物凄い速さで当たり、軽く裂いていく。風さえも切ったその物体は、銀色に輝くロザリオだった。

「っ!」

 純也は切られた右手を押さえ、そのロザリオが飛んできた方向へと顔を向ける。右斜め上……ちょうどビルの屋上辺りからだ。

「……ん〜、ボーイ二人でレディの相手をするのハちょっとイタダけないナ〜」

 ビルから着地してきた長身の影に、純也は見覚えがあった。朝会ったばかりのあの情報屋――――フェイズではないか。

「フェッキー!?」

「誰だ、あいつ……?」

 何故かどんどん人数が増えてくるこの状況に、遼平は頭を抱えた。どうしてこうも、すんなりヤボ用が果たせないのか。

「情報屋さん! 助太刀は無用です!」

「そう言われテもネ時雨サン、こー見えてボクはジェントルマンだからサ、見逃せないンだよネ〜」

「いや……ですがこれは私と遼平の問題でして……」

「マぁマぁ、細かいコトは気にしないネー。楽しソウだからサ、ボクも混ぜてよ」

「フェッキー、これ全然楽しくないよ?」

 真剣だったムードが一転、フェイズのせいで何やら変なテンションになってしまった。その場にいた全員が肩すかしを喰らう。

「とりあエズ! ボクは時雨サンの味方だからネン。さ、ショーブショーブ!」

「え……う、うん……」

 時雨の脇に立っていかにも楽しそうに構えるフェイズ。彼が加わったことで『復讐』はどこかに吹き飛んでしまったように思える。



「純也、本当に逃げてくれ……もういい」

 出血で息も絶え絶えな遼平が、地に膝をついたまま言う。

「……そうやって、僕をまた独りにする気?」

「いいか純也、お前はスカイとは関係無いんだ……関わってはいけないんだ。それに俺は人殺しで……」

「違うよ。遼は人殺しなんかじゃない」

「お前は知らないんだ! 俺は血を愛し、死をもたらし、破壊を求め――――」




「嘘つきっ! そうやって自分に嘘ついて、勝手に悪者になって、そのまま独りで……逝かないで……。僕、ずっと遼を信じてるよ。迷惑でも、傲慢でも、ずっと」



「やめろ、純也……俺は……やめてくれ……お前が傷つくだけなんだ……」



「……遼はね、人を愛して、命を大切にして、護りたいだけなんだよ? 自分でも気づいてるんだよね?」



 しばらく遼平は不意をつかれたような間の抜けた顔をしていた。……ただ、その愚かさが自分によく似ていると、気づいた。


「生きてよ」

『生きてね』


 また、声が聞こえた。今度は純也の声と重なって。友の最期の言葉……なんでこんな時に思い出す?

「ね、遼?」

「……バカだろ、お前……」

「うん、そーだよ。馬鹿でいいよ、遼といられるなら」

「あー、バカにはつきあってらんねぇな」

 遼平はゆっくりと立ち上がり、腕を染めている血を振り払う。あの軽い笑みを取り戻した男の顔は、何か吹っ切れていて。


「本気を出しなさい、遼平!」


「わあったよ、後悔するなよ?」


「ヤッホー、楽しミだネー!」


「だからフェッキー、なんか間違ってるって……」



 四人がそれぞれの表情で地を蹴る。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ