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第三章『事実と追憶』(5)


 風も北風になってきた夕暮れ。

 何故か、アイツとの思い出はいつも陽が暮れる時だった。


「ねぇ、遼平は夢とかってある?」

「は? なんだよいきなりまた……」

 唐突の翼の問いに、俺は訊き返した。

「いや、遼平は何の為にスカイにいるのかと思ってさ」

「てめぇで俺を誘っといてよく言うぜ。俺は……そうだな、夢なんかねぇよ」

「無いの? 一つも?」

「……あぁ」

 僅かに驚いた表情で翼は俺を見てくる。なんだかムカついて俺は視線を逸らした。

 『夢』なんて、物心ついた頃から持ったことなど無かった。そんなモン、持つだけ重荷。何の希望にもなりはしない。だいたい、やりたい事など無いんだ……ただ生きてるのだって面倒臭いのに。

「そっか……じゃあ俺の夢にかけてみない?」

「あ? お前の夢? なんだよ、ソレって」

 興味があって俺は訊いた。俺が持ってねぇモンを持ってるのが、実は羨ましかったのかもしれない。


「スカイに孤児院を作るんだ。俺達で」


「孤児院? お前本気かよ?」

 いままで空を見上げていた翼が、今度は俺を真っ直ぐ見つめてくる。瞳は何より真剣さを語っていた。

「もちろん本気だよ。今の状況が一段落して裏社会に秩序が出来たら……俺は孤児院をスカイに作りたい」

「……そういやお前、親いねぇんだよな」

「まぁね。俺もこの裏路地で育った人間だからさ、一人で生きる辛さは充分知っている。だから……もう『生きる』のに苦労させたくないんだ、これからの子供達には」

「…………」

「馬鹿らしい、かな」

 おどけた顔だが、瞳は俺をじっと見据えてくる。よほど強い夢なのだろう。俺は、翼の静かな熱い意志に正直驚いていた。そうか、『夢』ってのは……そーいうモンなのか。

「……いいんじゃねーの、別に。ただそれは相当金がかかるんだろ?」

「あ、あぁ……まあそれだけは仕方無いよね」



「かけてやるよ」


「え?」

「お前のその夢、悪くねぇじゃん。資金集めは俺に任せろよ」

「遼平……いいの?」

「てめぇから言ってきたんだろうが。俺夢って持ったことねーからよくわかんねぇけどよ、面白そうじゃねえか」

 壁にもたれながら、俺はいつもの軽い笑みを浮かべた。『夢』か……まぁ他人の夢だが、やってみるのも退屈しないかもな。

「じゃ、約束だね」

 翼は笑って手を上げた。俺も手を上げて軽く打つ。手と手が打つ感覚に、何故か俺は心地良さを感じていた。


「それはそうと翼、お前ソレをリーダーに言ったのか?」

「あ……しまった、まだ言ってなかった」

「……お前なぁ……」

 俺は変なところで抜けてる翼に、頭を抱える。俺より六つも年上のその男は、平和そうに笑っていた。


     ◆ ◆ ◆



「ホレ、とっとと起きろー!」



 思いっきり布団のシーツごと引っ張られ、遼平はホコリかぶった床に朝から投げ出される。

「いってえ〜! 獅子彦っ、てめぇ病人相手にナニしやがんだよ!?」

「病人〜? そんなのドコにいるんだ?」

「あ?」

 身体を曲げて一瞬で立ち上がり、そこまで言って遼平は身体が自由に動くことに気づいた。流石裏社会の闇医者、一日で毒は完全に抜けきっている。

「治ってやがる……」

「俺にかかれば一発だって言っただろう。そこまで動けりゃもう退院していいぞ」

「純也は帰ってきたか?」

「いや。家に帰ったんじゃないか?」

「そうか。……悪ィが今回もツケにしてくれよ」

「しょうがないな、まぁ、今回だけは大目に見てやる。……そうだ遼平、言い忘れてたんだがな、」

 上着を羽織って早速出て行こうとする遼平に、獅子彦が声をかける。遼平が振り返ると、壁に背中をもたらせて煙草をくわえながら天井を見る闇医者がいた。



「俺ンところはスカイとは違う。孤児院じゃねぇよ、子供は預からん。……それと今までのツケ、払わなかったら承知しないからな」



「……わあってるよ、じゃあな」

 もう振り返らずに遼平は薄いドアから出ていった。一度も、獅子彦と瞳を合わせずに。






「……死ぬなよ……」

 紫煙を吐きながら無意識のうちに獅子彦は呟いていた。直後、彼の通信端末が鳴り出す……。



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