散り散りゆくも
彼は私にたくさんの贈り物をしてくださいました。
海で拾ったという澄んだ青色の麗しい貝殻や、ある時には光の反射を小瓶に詰めて渡してくださいました。
青色の貝殻は波音が閉じ込められておりましたので、耳にそっとあてると心地よく響きわたりました。
また、光を詰め込んだ小瓶の蓋をゆっくりと開けては得意げに説明をする彼の顔を思い浮かべました。
ただ、私には彼に秘密にしていることがございました。
それは彼と出会う、ほんの少し前。
私はある人のことをとてもお慕いしておりました。それはまるで青空の中の青白く光る月のような、どうしても惹かれてしまう初めての感情でございました。
その人はたばこを嗜む人でありましたので、少しよれて皺になったワイシャツの胸ポケットに、これまた少し潰れたたばこの箱が入っておりました。
遠くを見ながらぼんやりとたばこを吸っていた姿が脳裏に焼き付いております。
またその人の話し口調は穏やかであり、また荒々しくもあり、一貫しているのはひとつひとつの言葉を丁寧に紡いでいくような人でございました。
私はその人と会話する時には一言一句逃すまいと前のめりで聴いておりました。今思い返せば赤面してしまうほど必死でございました。それほどその人の言葉は魔法のようでございました。
そしてあれからどれほどの時が経ちましたでしょうか。あの人は私に貝殻や小瓶など大層美しいものなど何ひとつもくれませんでしたのに。
どうしてあの人のことは今でも色鮮やかなままでございましょうか。
さて、そんな思い出話もこのあたりで。
私は本日彼と夫婦になるのです。
あの日くださった貝殻は加工してネックレスにしております。純白のドレスに一層映える青色はまるで夏の青空を思い浮かべるような美しさがございます。
小道具も用意しました。
あの光を詰め込んだ小瓶でございます。
小瓶の中には二つの金属でできた輪っかを入れております。それをひとつひとつ取り出して彼の薬指と私の薬指に嵌め合うのです。
これも彼の提案でございます。
彼は私に秘密で計画しておりまして、ドレスに着替えた時に意気揚々と加工したネックレスをつけてくださいました。
小瓶も今し方彼から渡されまして、なんてロマンチックなんでしょうと目元が熱くなるのを感じました。
私は幸せ者です。将来彼と過ごすことになんの不安も感じません。私はただ彼の隣で微笑んでいればいいのです。
ふと私は招待した人々を見渡しました。
その大勢の中にあの人の姿を探しましたが、みなと同じ様相でしたので区別がつきませんでした。
今でも思い出すのです。
あの人が吸っていた、たばこの箱のへこみかたも。
ぼんやりと宙に漂わせていた憂いを帯びた視線も。
あの人の存在すべてを。




