第11話 報告
※本作には、心理的に重い描写や残酷な表現が含まれます。
苦手な方はご注意ください。
妃の私室から禁薬を見つけた、その夜だった。
雪瑶は突然、年嵩の女官に呼び止められた。
「来なさい」
理由は告げられない。
ただ従うしかなかった。
連れて行かれたのは見慣れない廊下。 何度も何度も角を曲がる。
右へ、左へ、また右へ。
方向が分からなくなるほどに。
——まるで、二度と同じ場所へ来られぬよう わざと迷わせているかのようだった。
やがて低く言い渡された。
「顔を上げてはなりません」
雪瑶は視線を落としたまま歩く。
足音と衣擦れの音だけがやけに響いた。
止まれ、と声がかかる。
通されたのは、 香の薄く焚かれた部屋だった。
甘さを抑えた、凛とした花の香。 清廉で、触れることを許さぬような気配があった。
ただそれだけで、 ここが下働きの者の入る場所ではないと分かる。
簾の奥に人影がある。 だが姿は見えない。
雪瑶は膝をつき、額を下げたまま動かない。
隣に控える年嵩の女官が口を開く。
「申し上げます。この者が、例の品を見つけた雑用係にございます」
沈黙。
簾の向こうの妃は、自らは語らない。
「報告なさい」
年嵩の女官に促され、雪瑶は静かに言う。
「命を受け、部屋の整えをしていた折、 香袋に混ざる見慣れぬ包みを見つけました」
「薬とは分かりませんでしたが、 香にしては重く、包み紙が新しすぎました」
「不自然に思い、女官様へお伝えしました」
余計な言葉は添えない。 知識があるとも言わない。
ただ、見た事実だけ。
しばしの静寂。
やがて簾の向こうから、 柔らかく、品のある声が落ちた。
「……そう」
それだけで、 部屋の空気が音を失った。
「わかったわ。よくやった」
短い言葉なのに、褒美より重い。
少し間があき、
「名は?」
「雪瑶にございます」
「……雪瑶」
名を確かめるように繰り返し、
「賢い子ね」
それで終わり。
それ以上の興味は示さない。
だが年嵩の女官の視線が変わる。
——覚えられた。
それが何よりの証だった。
「下がりなさい」
雪瑶は深く礼をし、静かに退出する。
帰り道もまた、 同じように何度も廊下を曲がった。
どこを通ったのか、もう分からない。
去り際、 簾の奥からの視線を背に感じた気がした。
気のせいかもしれない。
だがこの日から、 雪瑶を見る目が僅かに変わる。
“使える者”として、 見定められた。
次回更新は【金曜日22時】を予定しています。
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