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第三十三話

-A.K.S.P. 第五取調室-


 薄暗い五つの取調室の中では、先日中杉班が捕まえてきた男達が取り調べられていた。そんな中ここ第五取調室では、捜査班に応援要請された加山による、キツイ取り調べが行われている。

「いい加減吐いたらどうだ?ん?楽になっちまえ」

 胸ぐらを掴まれた若い男の口は、既に赤く血に染まっている。

「なぁおい、トカレフにマカロフにAK-47……、オマケに手榴弾まで持って……、ただのヤク中とは言わせねぇぞ!」

 加山はそのまま男を壁に投げ付けた。男は頭を打ち付けたらしく、左手で頭を押さえる。その腕には、確かに無数の注射の痕があった。素人が見ても常習性の高さがわかる。

「おい!お前ら一体どこの誰だ?」

 加山はうずくまる男の頭を小突く。

「なんか答えろ。ん?喋れんだろ。はぁ……、イライラさせんなや!」

 生気を失わんとする男の脇腹に、さらに激しい蹴りを加える。男はもう呻く体力もないのか、黙って崩れ落ちた。それでも加山は一切構わない。

「クライアントを教えろ。まさかあんなもん自分で買った訳じゃないだろ?……誰かに男の子を襲う任務と一緒に与えられた……。違うか?」

 時として優しく声をかけるが、やはり男は押し黙ったままだ。脅しでもなんでもなく本当にイライラし始めた。

「……なめてんじゃねーぞガキが!」

 加山は髪を鷲掴みにして、強引に男を立たせる。男は痛みに若干顔を歪めながらも、何か抵抗する様子もなく立ち上がる。頑なに口を閉ざすわりに無抵抗な様子も腹立たしい。

「おい!テロリスト風情に人権があると思ったら大間違いだぞ!あぁ?まだ話さねぇか?……なら、……その綺麗な鼻へし折ってやんよ!」

 加山は渾身の右ストレートを男の左頬に放った。男は血を吐いて力なく床に転がる。ここでようやく、取り調べ監督官である班員が加山を止めた。が、やり過ぎを咎めるわけではない。

「加山さん、そろそろ街頭警戒の時間です」

「……わかった。こいつを留置場にぶちこんどいてくれ」

「はい」

 加山が取調室から出ると、他の取調室からも派手な物音がした。

「やってるやってる……。一番凄そうなのは……、虎藤んとこか……。うーん、さながら怪しい店だな」

 加山はぶつぶつと軽口を叩きながらふと自分の手を見た。男の血がべっとりとついている。さすがにこのままではまずいと思い、もっともそれは暴行がばれるからではなく、マナーとしてではあるが、一度トイレに立ち寄り手を洗ってから指揮官室に向かった。


-指揮官室-


 西川は一人部屋の中で、うず高く積み上げられた捜査資料を見返していた。すると、ドアが軽くノックされる。資料から目を離さずに入室を促すと、加山がドアを開け一礼してから中に入ってきた。もうそんな時間かと思い時計を見ると、気づけば資料を読み漁り始めてから二時間近く経っていた。手元のファイルを閉じて首を回すとパキパキと乾いた音がした。気遣わしげな加山に気遣われる前に西川は声をかけた。

「お疲れ様です。どうでしたか?」

「ダメですね。教育の行き届いてない下っぱだと思ってたんですが……」

 加山はわざとらしく肩を落としてみせた。わざとらしい動きとは裏腹に、その落胆ぶりはかなりのものだった。初めて生け捕りにできた犯人であることもそうだが、相手はまだ若い男。組織の中心にいるような人間ではなく、あくまでも実行部隊としての末端の人間だと思われた。そうであるならば、重要な情報こそ知らずとも、高い忠誠心などなく知りうる限りは何でも話させられると踏んでいた。だが現実は違った。

「喋らない?」

「はい。意外と忠誠心があるようで……」

 加山の言葉に西川は鋭い視線を送る。

「恐怖心……、じゃなくて?」

 加山はその視線にも思わぬ言葉にもぎょっとしてしまったが、にわかには信じられなかった。

「脅されてるってことですか?まさか……」

「自分が喋ったことがバレたら本人……、いえ、大切な人に危害が加えられる……。とか言われてたら黙るんじゃない?」

「そんな、内通者がいなくなった今、そんな脅し……」

 西川は意味ありげな笑みを浮かべ、加山もその意図にすぐ気づいた。

「……まだ、いるってことですか?」

「可能性はなくないわ。自慢じゃないけど敵は多いの」

「本当に自慢じゃないですね。それはそうと、早めに対策を練らないと……」

 焦って身を乗り出す加山をしり目に、西川は椅子の背もたれに体重を預けた。

「それなら心配ないわ。私が監察に、徳屋補佐官が公安に探りを入れさせてるから」

「仕事が早いことで」

 加山の口調は呆れを含んでいる。この人は一体何手先まで見通しているのだろうか。それともこの人の先行捜査に事件がついてきているのか。

「それより、その口の固い坊やの取り調べ、私が……」

 西川の目がどことなく輝き、口元からは欲望という名の涎が滲み出ていた。

「西川さん、目がマズイです。あと口元拭ってください」

「そう?」

 西川は持っていたハンカチで口元を優しくおさえる。

「とにかく、取り調べは我々でやりますので」

「あら、残念……」

 西川はおどけて肩をすくめてみせた。

「では、街頭警戒に行って来ます」

「気を付けて」

「くれぐれも……」

「わかってるわよ」

 そう言う西川の口元はさっきより一段と艶やかだったが、加山はもう見て見ぬふりをすることにした。

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