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第三十二話

-西東京市 ビル上空-


 特急三班中杉以下十名の隊員は、ベル212の中で最終ミーティングを行っていた。

「ビルは三階立て。敵は五名。民間人無し。しかし、当該施設に対し図面が入手できていない。難易度はかなり高いが、今後の捜査のためにも必ず生け捕りにする」

「はっ!」

 中杉は整備士に合図を送る。整備士は左右のドアを開けて、班員が二本づつロープを投げ下ろした。中杉を筆頭に、まず四人の隊員が左右二人ずつ配置につき、ロープを掴んで腰の金具に通し、体を機外に出す。

「降下準備良し!」

 中杉らは整備士に向かってぐっと親指を立てた。それに整備士も親指を立てて返す。

「降下!」

「降下!」

 中杉の合図を残りの三人が復唱し、四人は宙に身を投げる。手足でロープをしっかり掴み、およそ五mの高さを一気に降りた。屋上に着地すると同時に、手早く金具からロープを抜き、肩に掛けたMP-5を構えて周囲を警戒する。辺りには人影も気配もない。

「……屋上クリア。降下開始せよ」

 中杉の制圧完了の報を受け、残りの隊員が降下を始める。中杉は全員が降下したのを確認すると、頭上で大きく手を回し、ヘリに上空待機のサインを送った。ヘリは緩やかに高度を上げていくが、辺りには僅かなヘリの羽音が残った。

 中杉を先頭にした一団は、屋内へと続く階段の扉の前に張り付く。暗視ゴーグルをセットして、ドアを開けるようにサインを送った。班員はそっとドアノブに触れ、静かに回すと、勢いよくドアを開け放つ。全員屋内になだれ込み、探るように辺りに銃口を向けるが、こちらも誰もいない。

「屋上踊り場クリア。行くぞ」

 中杉は銃口を下げ、階段を下りる。

 やがて三階の踊り場に着くと壁に張り付き、階段の左側にある廊下の様子を伺う。とりあえず廊下に人影は無い。どうやら道路側から順に部屋、廊下、階段、という作りになっているらしい。

「中杉より各員。廊下に面したドアは二つ。二班は手前、一班は奥に行くぞ」

「了解」

 十人の小隊は、それぞれ五人の班へと二手に別れ、二つのドアの前で突入準備を整える。

「突入準備よし」

「カウント五で同時に行くぞ」

 中杉は班員にサインを送り、ドアの前に立って銃を構えた。班員は手前に蝶番が無いのを確認してから、ドアノブを静かに倒す。向こう側の二班でも同じ動作が完了した。

「五秒前、四、三、二、一、突入」

 中杉の掛け声でドアが押し開けられた。

 真っ暗な部屋の中には、男が一人デスクの向こうでうなだれるようにして座っている。男は外敵の侵入に気付き持っていた銃を構えたが、時既に遅く中杉が目の前のデスクの上で仁王立ちしていた。中杉がすかさず男の手を蹴り飛ばすと、手に持っていた銃は部屋の隅に消えていった。

 男が突然の出来事と、尋常じゃない手の痛さに呆然としている間に、中杉は背後に回り男の首を一気に締め上げる。

「がはぁっ」

 男は僅かなうめき声を上げた後、意識を失った。

「クリア」

 中杉は念のために、男の口に手をあてがい呼吸を確認する。無論死んではいない。中杉の指示で班員は男の両手を背中に回し、親指を結束バンドで縛る。一通りの作業を終えると、無線が入った。

「二班より一班。班長、犯人一名を確保。各員装備、本人とも異常無し」

「こちらも一名確保した。まず我々が部屋を出る」

 中杉はそう言って班員を連れて廊下に出た。階段の方を警戒しながら、二班のいる部屋の前に着いた。

「クリア、出てこい」

 中杉の声を聞いて中から班員が出てくる。

「行くぞ」

 中杉は銃口を再度斜め下に向けて歩きだす。息を殺し階段を途中まで降りたその時、階段の下から足音が聞こえた。中杉は隊員に停止のサインを送り、一人先行する。階段の折り返しからそっと覗くと、二階の踊り場で男が一人彷徨いていた。確保の時の物音を聞き付けたのか、もともといたのかは定かではないが、厄介なことには間違いない。中杉はほんの僅かの思考の後、一気に階段を飛び下りた。

 男はいきなり人が降ってきたにもかかわらず、動じずに銃を抜いた。だが、中杉もプロである。間髪入れずに懐に入り、素早く手を伸ばして首根っこを掴むと、そのまま壁に押し付け、男のみぞおちにプロテクターの付いた右膝を捩じ込んだ。

「うぐっ」

 またも僅かなうめき声を上げた後、男は意識を失った。ただ今回はさっきと違い、力の抜けた男の手から銃が滑り落ちる。しかし、中杉はまさしく手も足も出ない。もう駄目だと思ったその時、一本の手が銃をすくい上げた。二班の副長の手だ。

「セーフ……、ですね」

 目出し帽(バラクラバ)で目元しか見えないが、副長もまたほっとしているのが伝わる。

「待ってろって言ったろ」

「すいません」

 ここで生真面目に謝られると非常にばつが悪い。

「……ありがとな」

「ツンデレですか?」

「ちょっと黙っとけ」

「はい」

 ひとしきり下らない会話が終わったところへ、他の班員が下りてきた。全員が下りたのを確認して、犯人をさっきと同じように拘束し、廊下を伺う。二階は三階と違い、中央に観音開きと思われる扉が一つしかなかった。

「二班は屋上から降下、内部偵察の後突入しろ」

「はっ」

 二班は静かに階段を上がって行き、屋上に出た。ヘリから降ろしておいたロープの片端を丈夫そうな柵にくくりつけ、もう片端を自分の体に巻き付けた偵察役の二人が、頭を下にして二階まで下りる。ゆるゆると降りていき、二階の窓のすぐ上で降下を止めると、そっと窓から中を覗き込んだ。

「偵察より各員。二階内部は一部屋。犯人は部屋の左右に一名ずつ」

「中杉了解。二班突入準備」

「了解」

 そう言うと、上からロープを伝い、残りの三人が下りてきた。偵察員と同じ位置で止まり突入準備を整える。

「突入準備完了」


-二階 階段踊り場-


 二班の突入準備が完了し、中杉らは扉の前に移る。

「一班より二班。窓からフラッシュバングを投げ込み突入せよ」

「了解」

 今度のドアも蝶番が手前に無い。中杉ともう一人の隊員がノブに手をかけ、耳を塞いだ。次の瞬間、激しい爆発音と共に、ドアの隙間から目映い閃光が漏れた。中杉はノブを掴む班員にサインを送り、ドアを押し開け一気に雪崩れ込む。白煙が立ち込める部屋の中、犯人を探し回ったが、見つけた時には既に二班によって無力化されていた。中杉は無線を取り本部につないだ。

「クリア。特急三班中杉より本部。被疑者五名全員逮捕しました」

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