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第二十五話

-高速増殖炉みらい 正門前警備詰所-


 高速増殖炉みらい唯一の出入口にある警備詰所には、福井県警察の機動隊員と民間の警備員がそれぞれ警備にあたっている。そこへ、迷彩服を着込み重武装した数十人の男達が近寄ってきた。一瞬にして浮き足立つ詰所内。機動隊員は銃器保管庫からMP5を取り出してその手に携える。半ば棒立ちで窓口前にいた警備員が、自らの震えをかき消すように大声で尋ねる。

「何なんだ?君達は!」

 警備員の問いに一人の男が歩み出てくきた。男は被っていた深緑の鉄帽と、真っ黒なフェイスマスクを取って笑みを浮かべる。しかし、武骨で精悍な顔立ちのせいか表情にあまり柔らかさはない。

「驚かせてすみません。私A.K.S.P.特殊作戦班の真田と申します」

 真田は懐から支給されたばかりの警察手帳を出す。警備員と機動隊員はそれをまじまじと凝視した。もっとも最近の模造品はかなり精巧なので、見ただけでは全く信用に値しない。

「実はここを標的にしたテロが起きる可能性があり、我々はその警備の為に来ました」

「しかし、県警本部からは何も……」

 機動隊員の一人がまさしく半信半疑といった様子で呟いた。

「それに関しては高度な政治的判断が下されたと御理解ください」

「……だからと言って無許可の人間を中に入れる訳には……。我々に柔軟な対応をできる程の権限はないが?」

 警備員は露骨に顔をしかめる。その顔は面倒だから早く帰れと言っていた。

「あぁ、それなら大丈夫です。我々が命じられているのはあくまでも外周警備なので、施設内に入ることはありませんし、そのような事態にも陥らせません」

「では何故わざわざここに?」

「やはりこういう施設ですし、黙って立っているだけだとしても一言言うべきだと判断したまでです。何せこんなナリですから。」

 真田は手に持っていた小銃をちらつかせた。詰所の蛍光灯の灯りに照らし出され、八九式小銃が妖しく黒光りする。改めて目の前で見せられた重厚な火器に、機動隊員は自分の持つ武器の矮小さを感じた。万が一戦っても勝てない。いや蹂躙される。それはこの武器の威力だけではない、この武器を手に持つこの男達が先ほどから放っているただならぬオーラが、彼らの戦力としてのポテンシャルの高さを物語っている。そして彼らもよく訓練されているからこそ、その戦力差を肌で感じていた。

「では、我々はこれで」

 姿勢を正し敬礼をしてから、くるりと踵を返し歩き出す。だが、少し歩いてすぐに立ち止まり、警備室の方に振り返った。

「あと、必ずテロは起こります。そして我々が必ず守ります。なので、皆さんはたとえ何が起きたとしても絶対にパニックを起こさない。それだけに注意していてください」

 真田の見せた鋭い目付きに、警備員も機動隊員も強い寒気を感じて思わず固まる。間違いない。この男はその時が来たら必ず引き金を引き、人を撃つことを、人を殺すことを一切ためらわない。その場にいた全員がそう感じた。

 彼らが我に返った時には、既に真田達の姿は見えなくなっていた。


-栄螺ヶ岳 麓-


 みらいは立石岬の先端に建ち、その南側には施設のすぐ側まで鬱蒼とした栄螺が岳(さざえがたけ)の森が迫っていた。そもそも栄螺が岳は岬の突端まであり、そこを切り開き、さらには若干海を埋め立ててまで建てられていた。どこの原発も得てして似たような作りではあるが、特にみらいの周辺は狭い土地に無理やり立てたため、山が迫ってくるような妙な圧迫感があった。真田はそのすぐ裏の森の中に身を隠し、無線機を取り出す。

「ヘリ一。こちら特戦一真田。送レ」

「こちらヘリ一芝。どうかしましたか?」

 階級は一緒なので、年が若干下の芝が敬語を使う。上下関係に厳しい組織なので、ごく自然なことなのだが、ふと芝や小野に敬語を使われると真田はどこか調子が狂う思いをしていた。

「芝、現況報告せよ」

「山頂部立石岬灯台脇の平地に駐機。周囲に生体反応無し。それより、敵の見張りは片付けましたか?」

「それなら山戸班の人間が片付けてくれた。ダミーの情報を流して誘き寄せる作戦らしい。それと、お前らに朗報があるぞ。今日の目的は逮捕ではなく殲滅だ。つまり、好きに殺れ。終ワリ」

「了解です。まさしく血の海にしてやりますよ。終ワリ」

 真田は珍しく上手いことを言うなと心の中で笑った。

 芝が通信を終わらせたのを確認し無線機をしまうと、八九式小銃を握り直し腕時計を見た。


 日付が変わるまで残り五分。


-みらい裏手 海岸-


 みらいの北側は、なけなしの砂浜を挟み日本海の暗闇が広がっている。

 山戸は砂浜の岩陰に身を潜め、暗視ゴーグルで海を眺めていた。

「北側監視山戸一尉。こちら北東側監視藤井です。何か見えましたでしょうか?送レ」

「いんや何にもねぇ……。そろそろ影が見えてもいい頃なんだがな……。とにかく気を抜くな!終ワリ」

「了解です。引き続き監視します。終ワリ」

 無線を切ると、波の音しか聞こえない異様な雰囲気が山戸を襲う。大きくかぶりを振って、再度暗視ゴーグルを覗く。すると、暗視ゴーグルを通し緑色になった海に、一隻の船が映った。

 山戸は興奮気味に無線機を取り出す。

「特戦二山戸より各員!こちらに接近する不審な船影を確認!総員警戒態勢をとれ!」


 時計の針は丁度零時を指していた。



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