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第二十四話

-A.K.S.P.本部 会議室-


 史上最悪のテロ計画の情報が舞い込んだA.K.S.P.は混乱を極めていた。

 それにはとんでもない理由があった。

「西川さん!」

 会議室に駆け込んできたのは徳屋だった。

「……警察庁(サッチョー)、……やはり動かないです……」

「そう……。真田さん!自衛隊は?」

 部屋の端で電話をかけていた真田は、頭の上で手を交差させバツというジェスチャーをしてみせる。

「……緒賀さん、神奈川県警……、いえ、真中さんは?」

「動いてくれるそうです。でも、APEC前であまり警備部の人間を割けないと言ってました」

「それでも良いわ……。だけど、さすがに呆れるわね。”信憑性が無いから動けない”とはね……」

 西川はゆっくりと椅子に腰をかけ、深くもたれかかりため息を一つついた。

「全くです……」

 徳屋はコーヒーの入ったカップを西川に差し出す。西川はそれを受け取り一口すすったが、あまり味は感じないし、湯気が立っているにもかかわらず、温もりもどこか遠く感じた。

 こうなったのはおよそ三時間前にさかのぼる。


――結局あの後、日本に正規の外交ルートを通して情報はが渡ることはなかった。

 と言うのも、そもそもあのメールを部外者に見せることをCIA高官は知らされておらず、結局は単純な情報漏洩となってしまったのだった。またよりにもよってその漏洩相手は、ここ数年信頼を損ない続けた口の軽い日本だということが大統領の逆鱗に触れて、情報を公開せずにCIA独力で解決する方針が固められた。

 その上で、情報を無断で取得した虎藤達は事実上の軟禁状態にあった。そこで虎藤らが監視の目を盗み、と言うよりは若干例の男に手引きされる形で西川に直接連絡をし、それを日本政府に伝える形がとられた。

 だが、政府はその情報が事実ならばアメリカから正式に連絡が来るはずだと全く相手にしなかった。もっと言えば、そのような不確かな情報で動いて空振った場合の責任と、リーク情報を基に正式に動きアメリカにいよいよ見切りをつけられる可能性を恐れたのだ。そしてさらにその奥には、万が一何か起きてもアメリカが情報を渡さなかった、A.K.S.P.からも含め何も聞いていなかった、と言い張り責任を転嫁しようという狡猾な打算と、そのようなことが起きるわけがない、起きたとしても甚大な被害は発生しないという浅はかな楽観が見え隠れしていたのだった。それが今までいくつもの悲劇を生み出してきたことを忘れてしまったかのように――


「……にしても、あんたってどこにでもパイプがあるのね」

「ははっ……」

 徳屋は曖昧に笑ってごまかしコーヒーを口に含む。徳屋も色んな意味でコーヒーの味が遠い。

「でも、なんでカンパニーが何か隠してるってわかったの?」

「あぁ、それは簡単なことです。ここ数日、日本に潜ってる連中の動きが活発になったんで、ちょっとアメリカの友人を揺さぶってみました」

 徳屋は頭を掻きながら話した。

「なるほどねぇ……。で、揺すりのネタは?」

「かつてのツケを……。まぁ、詳しくは国家機密に関わりますので……」

 徳屋は軽く頭を下げた。

「なら追及はしない。私も警察官……、分別はついているつもりよ」

 西川はそう言って立ち上がり、大きく伸びをした。徳屋は本能の赴くままに、突き出た胸を凝視する。

「どうしたの?そんなに死にたい?」

「すいません……」

「全員注目!ブリーフィングを始めます!」

 各々作業の手を止めて、それぞれの席に着く。

「今後予想されるテロに対し、アメリカ、日本、両政府の聡明な判断により、我々以外の国内治安維持部隊は出動しないこととなりました。しかし、敵戦力は非常に強大であると考えられるため、当該施設へは特戦班とヘリ一のみを送り、残り各班は半島の付け根で警戒行動をしてもらいます」

 もともとその為に自衛隊特殊作戦群に参加してもらったとはいえ、いざ外されるとなかなか痛い。特急班の面々の眉間に深いしわが刻まれる。反発心と忠誠心がせめぎあっていた。そしてかろうじて忠誠心が勝り、結局は口をつぐんだ。

「犯行予測日時は明日。最短で今から十二時間後です。とにかく時間がありません。各員装備を整えた後、ヘリポートへ集合。移動媒体の割り振りをします。以上解散!」

 西川の解散の声を聞くと同時に、全員が立ち上がり走って部屋を出た。


-立川駐屯地 ヘリポート-


 ヘリポートでは既にA.K.S.P.所属のヘリがローターを回し暖機してスタンバイしていた。

「では、特戦一班はヘリ二、ヘリ三に分乗。特戦二班はヘリ四、ヘリ五に分乗してください。特急班及び狙撃班、機捜班はヘリ六に搭乗してください。その他の班はそれぞれの車両で……」

 そこまで言ったところで、次第に大きくなってきたヘリの羽音が気になり、西川は空を見上げた。すると、上空で二機のティルトローター機がホバリングしている。やがて二機はゆっくりと高度を下げ、滑走路に着陸した。

「V―22……」

 真田がポツリと呟くが、ヘリのエンジン音にかき消される。

 機体からパイロットが降り立ち、西川の元に駆け寄った。

「在日アメリカ海兵隊第三海兵遠征軍第一海兵航空団所属ビリー・エーカー以下パイロット四名整備士二名及びV-22、CIAザック・ゴドレイ氏の要請により只今よりA.K.S.P.捜査員の輸送支援を行わせていただきます!」

 パイロットは敬礼をしたまま息継ぎもそこそこに一気に喋りきる。

「……海兵隊?っていうかザックって……」

 さすがの西川も理解が追い付かないでいた。

「それはほら、さっきの揺すったカンパニーの人間ですよ西川さん」

 徳屋はニタニタとV-22を眺めながら答えたが、ハッとして振り返る。

「でも、在日米軍はまだV-22を導入してないはず……」

 今度は徳屋の理解が追い付かなくなっていた。その一方で西川はようやく色々と合点がいったようだ。

「……なるほどね。戦果をあげてまず日本の危機を救う。そして認可されてない機体を配備していた問題をうやむや……、いえ、あわよくば新しく配備してアメリカの危機を救う。こうしてザックって人の問題もうやむや……。全部計画の内だったみたいね……」

 西川は自嘲的に笑った。つまりは全てその男の掌の上だった訳だ。

「まぁ良いわ。残りの班はこの二機に分乗。時間が無いわ、行くわよ!」

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