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第二十三話

-カンパニー使用車 車内-


 目隠しをしてから車に揺られること数時間。途中もう一度アイマスクの隙間から周囲を窺おうとしたが、面倒に巻き込まれる気がして止めたのは余談である。

 やがて車は速度を落とし、エンジン音が反響して聞こえるようになった。

「……着いたの?」

「あぁ……、勘がいいな」

「日本のお巡りさんも優秀でしょ?」

 男はそれには答えず、黙って虎藤らを車から降ろした。


-アメリカ某所 施設内-


 建物内をしばらく歩かされていると、にわかに周囲が騒がしくなった。

 だが、当然話されているのは英語。しかも聞いたことの無い、暗号らしき単語も飛び交っている。

「外していいぞ」

 男は相変わらず無機質な声で言った。

「ここは……」

 目隠しを外した虎藤の目に飛び込んで来たのは、警察の通信指令所のような大きな部屋だった。ただ、日本のそれとは違い部屋は薄暗く、向かいの壁面にメインであろう巨大なモニターを中心に据えて、左右に二列ずつ、下に一列小型のモニターが並んで埋め込まれている。中央のモニターには東アジアの衛星写真が写っていた。そのモニターに向かっていくつものディスプレイの並ぶデスクが二十席近く整然と並んでいた。

「ここはCICFEだ」

 男は部屋を見渡しながら言った。

「CICFE?」

 虎藤も部屋を物色するように見渡しながら鸚鵡返しで尋ねる。右下の小さなモニターの中で人の頭がはじけ飛んだように見えたが気のせいだろう。

「the Central Information Center of Far East。中央情報センター極東部の略だ」

「CIA極東支部の本丸に何故俺達を?」

 フジモトが国民性か本人の性格か、何の迷いもなく単刀直入に尋ねた。

「国家機密を持ち歩けるか?」

 男も単刀直入に。かつどこか小馬鹿にしたように答える。

「あっそ。で、話は?」

 虎藤はつまらなそうに腕を組んで近くの壁にもたれかかった。気づけば短気の集まりである。班員達は自分達が万が一の時の安全弁であることに、遅まきながら気づいて冷や汗が背中を伝った。

「これを見てくれ」

 男はそんな緊張感に気付くはずもなく、近くに座っていたオペレーターの女性に指示を出す。女性はデスクのパソコンを操作し、画面に何かを映し出した。

「君達は”エシュロン”という名前を聞いたことがあるか?」

「あぁ、あの趣味の悪い盗聴システム……じゃなかった、あのクールな諜報システムね!」

 虎藤は無理矢理笑った。

「そう、その趣味の悪い盗聴システムだ」

 が、やはり男は聞き逃していない。

「で?それが?」

 そうなればもう隠しはしない。

「先週、エシュロンが日本のブラックリスト登録者と、例のクマダがやり取りしていたメールをキャッチした。これが引っ掛かったメールの一文だ」

 男は人差し指でディスプレイを小突いた。虎藤はそのパソコンの画面を覗き込む。

「……子熊の尾の先を我が物にする……。何コレ?」

「分からない。ただ我が物にするというのが、テロリストにおいて、略奪、拉致、もしくは占拠、すなわち対象を支配下に置くことを意味する隠語であるということでエシュロンがピックアップした。そこで念のため極東部総出で調べているんだが、どうにも子熊の尾の先の意味がわからん……」

 全員低く唸ったあとにしばし沈黙の時間が流れた。それぞれに記憶の引き出しを片っ端から開けていくが、そう簡単に思い当たるものではない。誰も何も言葉を発さずに頭を抱えていると、やがて虎藤の部下の一人が突然叫ぶ。

「あっ!思い出した!」

「何?何を思い出したの?」

「自分、以前福井で銃器対策部隊(銃対)してたんですが、その時機動隊の中で”子熊”って隠語が……」

「それは一体どういう意味だ!」

 男は班員を掴み激しく揺する。元とはいえ機動隊員だった彼だが、男の手にかかるとまるで首の座らない赤ん坊のように首を揺さぶられる。

「言います!言いますから落ち着いて!……福井の若狭と敦賀には重要拠点がたくさんあるのは知ってますよね?」

 虎藤達はもちろん、意外にも男も頷いた。フジモトだけが置いてきぼりを食らった形だが、丸呑みするから進めてくれと言わんばかりに、片手をあげて応じた。

「機動隊……、というより、広く福井県警の警備部では、その配置を”こぐま座”に当て嵌めてたんです。下から、敦賀火力発電所、若狭湾エネルギー研究センター、海洋発電研究所、美浜原子力発電所、高速増殖炉もんじゅ、敦賀原子力発電所、そして子熊の尾の先にあるのが……、最新型高速増殖炉の”みらい”です……」

 そう言って班員は俯いた。その顔はまさに絶望したような力の抜けきった表情をしている。

「そんな……」

 虎藤も力なく座り込む。

「おい待て、原発が重要施設なのはわかるが、何がそこまで問題なんだ?」

 男は虎藤達を問いただす。男の横でフジモトも理解できないといった顔をしていた。

「一般的な原発が占拠されるだけで一大事です。それにも関わらず、狙われていると判明したのは、政府と原子力発電機構が巨額を投じて建造した、世界最大の最新型高速増殖炉です。しかも、そこには今……、250tものプルトニウムが貯蔵されてます……。これは世界中の核兵器に使われているとされるプルトニウムの総量と同等です……。さらに、その近くには3つも原発があります。もし、万が一のことがあれば……、日本は……、いや、アジア……、最悪、世界が死の灰に覆い尽くされます……」

 核アレルギーともいわれる、唯一の被爆国である日本の正体などこんなものだ。実情は世界屈指の核保有国である。そして国民に知らされぬうちに膨らみ続けた核保有の現実が、今最悪の形でまさしく破裂しようとしていた。

「そんな……、とにかく!正式な外交ルートを通じて日本に警戒情報を伝えるよう上に掛け合う!」

「お願いします」

 虎藤は柄にもなく深々と頭を下げる。事はそれぞれ個人のプライドや信条などを飛び越えた領域に入っていた。

「それと一つ、聞いてもいいですか?」

「何だ?」

「何故私達にこんな情報を伝えたんですか?」

 この問いに男は少し驚いたようだったが、すぐに納得したという顔になった。

「……トクヤという男に頼まれてね。彼には大きな借りがあった。これでいいかい?」

「はい……」

とは言ったものの、虎藤には新たな疑問が浮かんだ。


――あの男は一体どうやってカンパニーに貸しを作ったのだろうか――

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