第十四話
-立川市 陸上自衛隊立川駐屯地-
警衛の自衛隊員の手により駐屯地の正面ゲートが開かれ、何十台もの覆面パトカーの車列が本部をあとにする。中には、自衛隊の軽装甲機動車や、九六式装輪装甲車も混じっていた。
その上をヘリ一•アパッチを先頭にして、ヘリニ•ベル212、ヘリ三•スーパーピューマ、ヘリ四•UH-1J、ヘリ五•UH-60J、ヘリ六•CH-47JAが続いて飛び立つ。
その様子はもはや行軍と言えた。
-神奈川県 横浜市-
本隊が駐屯地を出発した頃、A.K.S.P.所属のクラウンアスリートが横浜駅前を走っていた。中に乗っているのは一足先に出発していた西川だ。
車は国道一号線から十六号線へと道を変え、桜木町の駅を過ぎたところで大桟橋方面へと転進。やがて見えてきた神奈川県警察本部に入っていった。
-神奈川県警察本部 本部長室-
西川が静かにノックをする。中からどうぞと柔和な声が聞こえ、いつになく緊張した面持ちで失礼しますと一声かけて室内に入る。中にいたのは真中神奈川県警察本部長。真中は、窓の外に映る富士山を目を細めて眺めていた。雲一つない青々とした空に、雄大な富士が良く映えていた。
「真中本部長、御無沙汰しております」
西川は真中に向けて深々と頭を下げせた。そんな西川に真中は慌てて向き直る。
「おいおい、やめてくれ。君に頭を下げさせられる程の人間じゃない、人としても警察官としても、君の足許にも及ばないと何度言えば……」
「そんなことはありません。年齢も階級も目上の方ですし、何より私に警察官のいろはを教えてくれた……」
西川は必死に言葉を並べるが、真中は飄々として意にも介していない。
「目上の方?たん瘤の間違いじゃないのか?」
真中は冗談めかした口調で優しい笑みを浮かべた。だが相変わらず西川の表情は固い。
「とんでもないです。今でも尊敬しています」
相変わらずだなと思わず笑って小さく呟き、真中は空気を弛緩させることを諦めた。
「しかし、君との約束は守れないまま退くことになりそうだ……腐ったじい様どもが築いてきたものが壊せなくてな……。そう言う私もいい加減ジジイだがな。そうだ、そんな話をしにきたのではなかったな」
真中は笑いながら西川をソファーに腰掛けるよう促した。
「我々……、いや、私、としておくか……。私としては君達に全面的に協力したい。緒賀達を送ったことや、今回のことがその証だ。他の道府県警はどこも責任を恐れて引け腰だ。呼集にも渋々応じたと聞く。君が望むならば、どこへだってうちの捜査員を送ってやる」
「ありがとうございます。事件の発生件数からして、恐らく神奈川に拠点があると思われます。住宅街への重点警戒と、拠点へのガサ入れの際、捜査協力を願います」
真中はわざとらしく目を丸くしてみせた。
「なんだ、それだけのことか?それなら言われんでもそのつもりだ。わざわざ顔を見せると言うから、てっきり万が一の時の代わりの首を差し出すよう頼まれるかと思ったが……」
「まさか、そんなことは……。責任は、ちゃんと自分で取ります」
生真面目な表情を崩さない西川に真中が気遣わしげな顔になる。強くも危うい正義感は昔から変わっていなさそうだった。
「まぁ、あんまり気張るな。君の仕事はこれだけではない。私に代わって警察の再生をしてもらわなければいけないからな」
「はい。お心遣い、感謝いたします。では、そろそろ……」
「あぁ、気を付けてな。私も陣頭指揮を執りたかったが、今度横浜で行われるAPECの警備会議で手一杯でな。万が一にも熊田に襲われたらかなわん、それこそ日本警察のみならず国を揺るがす国際問題になる」
「そうですね、その件もよろしくお願いします。では、失礼します」
西川は立ち上がり再度深く頭を下げた。真中はもう何も言わずそれを受け止める。本部長室を出ると、近くで待機していた運転手役の警察官を呼び寄せ、地下駐車場へ向けて走った。
-清川村 私立神奈川芸術大学付属高等学校-
都会の喧騒から離れ、緑豊かな清川村に新しく建てられた私立神奈川芸術大学付属高校は、全寮制で音楽、美術、デザイン等様々な科があり、男女を問わずその方面に進む生徒には高い人気を誇っている。
学校が近付くと、西川の車は一度合流した本隊の車列を離れた。
西川の乗った車両が着くと、学校の門が自動で開く。新しく建てられたということもあり、このようなハイテクな設備が惜しみ無く投じられていた。無論、警戒しているのはあくまで不審者で、テロリストではない。特に連中のような重火器を持つ集団相手には時間稼ぎにもならない。
来客用の駐車場に車が停まり、校長室に向かおうとしたその時、耳に入れていたイヤホンの向こうから、鼓膜を破らんばかりの爆発音が聞こえた。