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第十二話

-A.K.S.P.本部 会議室-


 ヘリの発着訓練が盛んに行われ、遮音性などあるはずもないプレハブの建物では、ヘリの羽音が丸聞こえである。

 そんな賑やかな昼下がり、いつもと何ら代わり映えのない形式的な定例の捜査会議を行っていると、スーツを着た男達がずけずけと入ってきた。大半の人間は同業者のようで、胸に赤く警護課員(SP)と書かれたバッチを付けている。

 そのSPに囲まれるように、よく見知った男が二人いた。二人の胸には菊の紋があしらわれたバッチを付けている。そのうちの一人が声高に叫ぶ。

「ここの責任者は一体誰だ!」

 西川は呆れたような顔をして、不承不承といった様子でゆっくり立ち上がった。

「ここの総指揮を務めるのは私ですが。それがどうかしましたか?河浦法務大臣、井場外務大臣?」

 露骨に小馬鹿にしている西川の態度に、二人は顔を真っ赤にして激怒する。

「君かッ!私の大事な一人息子を殺すように命じたのはッ!」

 河浦は西川の胸ぐらを掴んだ。それでも顔色一つ変えない西川に、業を煮やした井場が続く。

「私は孫を殺された!どう責任をとってくれるんだね!……これだから女なんかに任せられん……」

 この井場の余計な一言に、西川はまさしくキレた。

 河浦の手を強引に振りほどき、相手が七十を過ぎた年寄りのしかも国会議員だと言うことも忘れたかの如く、胸ぐらを掴んで壁に強かに叩きつけた。

「あぁっ?もう一度言ってみろよジジィ!女なんかに任せられないだぁ?じゃあ何か?男だったら、助かる見込みのないてめぇの孫野放しにして!多くの無関係な一般市民犠牲にしたってのか?おいッ!どうなんだよッ!」

 西川は途中で我に返り、まずいかもしれないという考えが一応頭を掠めたが、もう途中では止められない。

 職務上やむを得ず、仲裁に入ってきた若い男性のSPを合気道の要領で片手で投げ飛ばした。こうなってくれば西川の独壇場だ。右手を胸ぐらから放すと、そのまま残り少ない井場の前髪を鷲掴みにした。

「てめぇらがな、のんきに国会で昼寝してる間!私達は地べた這いずり回ってんのよ!てめぇらの命令どおりにな!」

 井場の目には年甲斐もなく涙が浮かんでいた。河浦も腰を抜かしてへたりこんでしまっている。権力が実力に敗北した瞬間だ。

 SPとA.K.S.P.の面々は、呆気にとられるやら、ざまぁみろと笑いをこらえるやら反応は様々だったが、西川を咎める者は誰一人としていなかった。国会議員の威厳とやらはどこ吹く風である。

 当の西川本人は、心の奥底に眠る何かが目覚めたのか、その瞳は輝きに満ちて、どことなく笑みさえ見える。

「予算も人も割かねぇで、少数精鋭とか訳のわからない建前で飾って……。今まで何人の子供たちと警察官が犠牲になったかわかってんのか!あぁっ?それで捕まえられなきゃ私達のせい、か……。なめてんじゃねぇぞ!ジジィ!おい!役立たずのじいさんたちよぉ!なんか答えてみろよ!ん?どうした?答えてみろよ、ほら早く」

 不敵な笑みを浮かべる西川に、遂に井場は耐えきれなくなり逃げ出した。多少西川の握りこぶしの中に、貴重な髪の毛が取り残されたのはこの際構っていられない。

 西川は汚らわしいものを払うように手を叩く。

「……お、覚えておけ!君達の上司とは旧友だ!必ず目にものを見せてやる!」

 河浦も古典的な捨て台詞を残して逃げ去る。

「……あんたが人気ある理由、ようやくわかった気がするよ……」

 SPの班長はそう言って小さく笑い、先程投げ飛ばされた部下を抱え起こして二人の後を追いかけた。

「さすがに、まずかったかな……」

 西川が珍しく弱音を吐く。

「大丈夫ですよ。長官にも総監にも公安時代の”貸”がありますから、簡単には手出しできませんよ」

 そう言って徳屋がそっと西川の肩を抱いた。

「ありがと。でもね……、調子乗んな……」

 優しい口調と裏腹に、きつい鉄拳が徳屋の頬を捉える。

「ふごぉっ……」

 声にならない声でもがき苦しむ徳屋を見下ろし、西川は笑顔になった。

 それはさっきと違う、暖かく優しい笑顔だった。

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