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第一話

――最近、巷の小学生の間では、とても物騒な


”森のクマさん”


の替え歌が流行っているという……


”ある日〜 街の中〜 クマさんに〜 襲われた〜


薔薇咲く裏路地で〜 クマさんに襲われた〜♪”


-東京都立川市 陸上自衛隊立川駐屯地-


 昨日梅雨入りしたばかりの小雨降りしきる首都、東京。気象予報士によれば平年より二日早い梅雨入りだという。営門に立つ警衛の自衛官は、顔にまとわりつく雨を両の掌でぐいと拭った。

 ここ陸上自衛隊立川駐屯地の歴史は古く、遡れば大正時代の一九二二年に陸軍航空部隊飛行場として開設されたことに始まる。その後第二次世界大戦を経て、米軍が接収。戦後二十年以上の使用ののち返還。返還後は、その土地の中央大半が国営昭和記念公園として整備され、西側はそのまま手付かずの自然として、南側は商業地として、東側は学校や体育館などの公的施設が立ち並んだ。その残った中央、かつての滑走路を生かす形で、広域防災基地としての役割とともに立川駐屯地は誕生した。その為、隣接する警視庁、東京消防庁、海上保安庁と駐屯地滑走路を共有している。

 深夜零時を過ぎて、空気が不快な湿り気を帯びた頃だった。警視庁や警察庁、その他様々な道府県警察の名前が書かれたバンや大型バス、トラック等の車列がどこからともなく現れた。それは警視庁第八方面本部には目もくれず、駐屯地の営門前で止まった。警衛の自衛官は車列を一瞥すると、ゲートを開き敷地内に迎え入れた。それぞれのドライバーは入構許可証を見せただけで、車内チェックも無しに濡れた路面を蹴ってぞろぞろと駐屯地内に入ってくる。それに加えて、青地にオレンジのラインが縦方向に横切るデザインの警察のヘリが二機。それぞれ機体に書かれた所属は警視庁とある。その後ろから、特徴的な迷彩色に日の丸があしらわれた陸上自衛隊の輸送ヘリが二機と戦闘ヘリが一機、敷地の大半を占める広大なヘリポートに着陸した。平時の深夜に車両やヘリの出入りなど、極めて異例である。

 到着した車両とヘリからは、スーツや私服に機動隊の活動服や陸上自衛隊の迷彩服と、あらゆる衣装の男女が何人も降り立たった。少しでも雨を避ける様に、大きな鞄や段ボール、ジュラルミンケースなどの大小さまざまな荷物を次から次へと運び出す。その中には自動小銃や短機関銃という物騒なものを抱える者もいる。

 やがて彼らは駐屯地内の北東の隅にある、建てられて間もないであろう外見の真新しい、二階建てでかなり大きいプレハブの中に入っていった。

 そこの壁には


”A.K.S.P.”


と、アルファベットが四文字。これもまた真新しくプリントされたプラスチック製の看板が、無造作に立て掛けられている。それらの簡単さが急ごしらえであることを告げていた。


-プレハブ内 会議室-


 広い会議室の中には、パイプ椅子と簡易デスクが等間隔に並べられている。それらの間をそれぞれの椅子の後ろに、一糸乱れず整列した大勢の人が埋め尽くしていた。そのお陰で、実際の広さよりもいささか狭く見える。皆一様に黙ったまま前を見つめ、その統制の強さが窺い知れる。

 そこへ、二人の男女が入り、一同に向き合うように置かれたデスクの向こう側に立った。

 女性の方は、思わず等身を数えたくなるような長身、モデル体型で、美しく長い黒髪を後ろで一つに結わいて、ポニーテールにしている。何歳と言われても驚けるし、何をしていると言われても納得できる、年齢不詳、職業不詳な外見である。

 男性の方も長身細身でスラッとしている。だが、こちらはすっきりした短髪であり、よくよく見れば体躯もしっかりとし職業の見当が付きそうである。最近出来始めたであろう、目じりの皺から年齢も感じとれる。

「初めまして。今回、この”A.K.S.P.”の指揮官を務めさせていただくことになりました、警察庁捜査第一課、西川里奈、階級は警視長です」

 西川は、一人一人の顔を確認するように部屋中を眺める。これからこの者達の長を務めるにあたり、早急に名前と顔を一致させたかった。

「補佐官で警察庁公安課員の徳屋義介、階級は警視正です」

 徳屋も同じように眺めるが、西川に比べて動機はかなり不純だったりする。それを横目で見て、呆れたような口調で西川が話を切り出す。

「早速ですが、本題に入らさせていただきます。今回こうして集まってもらったのは他でもありません。皆さんには、今巷を賑わせているクマを狩ってもらいます」


 この簡単にして分かりにくい西川の言葉で、この組織は動き始めた――

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