そして私は消え失せ???
祖父の死があったので、百日間、喪に服して、自宅と墓を行き来して、ただ刺繍をしていた。
この間に十三歳になり、修道院行きは喪でずれることは説明してあったので、知っている方々から悼みの手紙や励ます言葉が届いた。
計画はずれるから。
強行しても、いいことはない。
喪が明けて、改めて修道院に行く用意をしていると。
母が領地にやってきた。
「この偽物がっ。私は わかっていたわ こんな出来損ないは 私の子じゃないって」
ひっぱたかれた。
いやー、すごいな。
説明もないや。
家令と執事が止め、メイド二人も私を庇う。
メイドの一人が走っていく。
「自分の子もわからないんですか」
私は冷めた声を出した。
でもまあ、私も、この母親が、たとえば貧民の服を着て道ばたにいたら、探し出せない。
父や祖父は、どんな姿でもわかると思うけれど。おばあさまは、ちょっと自信がない。直で見てないものだから。
「こっち。早くっ」
メイドが戻ってくる。
衛兵を連れて。
衛兵がくれば、逆上してメイドを殴ったりは出来ないだろうし。
私はメイドたちから抜け出して、母を睨み。
「伯爵家嫡女を、ゆえなく殴る。これ、伯が許しましょうか?」
挑発した。
「ちょっと、何をするの。私はギロ伯爵が妻なのよ」
「妻らしいことは何一つなさっておられないでしょう」
母は、衛兵に連れて行かれてしまった。
たぶん、本当のラチェットは反論できなかったのだろう。
私の言葉、
「伯爵家嫡女を」
というのを聞いて、衛兵は優先順位を母より私にしたらしい。
私しか子がいない今、まったくいない伯爵夫人より、跡継ぎ娘の方が大事だと、使用人達は判断した。
それはいいとして。
「私はどうすれば?」
修道院に送られて、死ぬ予定だったのに。
孤児院の子に畑を荒らす猿を捕まえて貰って、それに私のドレスを着せて、棺に入れる予定だった。
母が騒ぎ立て、王家が出てきて、父であるギロ伯、母の実家の侯爵家も参加して、母に讒言した連中が捕まった。
偽のラチェットとその母は、貴族を欺いたので処刑された。
で、それを信じて私を廃しに来た母は。
「愛想が尽きた。そんなにラチェットの母で居たくないなら、出て行け」
と、父が切れた。
予定通りに、離縁、とはなった。
ランに、渡す金。
礼儀作法教えるのとか、どうするかなぁ。
母が小説通りの動きをしてくれればいいのだけれど、大事な姫様からも今回のことで、
「ギロ伯爵夫人は怖くて嫌」
と言われてしまったらしい。
教えに愛やぬくもりがあれば、伝わっただろうけれど、あの人にあるのは形だけ。
父は予定より少し早く、メイドと結婚した。
それを聞いた母は、夫にも、尽くした大公の令嬢にも見限られたと絶望して、自殺した。
私は葬儀には出なかった。
最後まで、私は自分の子ではない、自分の子ならもっと出来がいいはずだと、わめいていたらしいので、見送りにいったら、怒るだろう。
私はいろいろ諦めて、修道院で半年の礼儀作法スパルタ合宿に挑んだ。母の母である侯爵家の祖母が罪滅ぼしに、半年、ほぼ付きっきりで礼儀作法を見てくれた。
「娘を育てるとき、いったい何が悪かったのでしょうね?」
ある日、母方のおばあさまは、やるせなくため息をついた。
「子育てに正解はありませんよ」
「孫に言われるのは痛すぎます」
一応、これで侯爵家と手打ちした。少なくても、私が継いだらもう私怨はない。
その後、使わなかったキルトを持って、国境でランを捕まえて、びしばし教育して、キルト(金入)をあげた。宝石なんかも仕込んだので、母の渡す遺産分程度にはなったはず。
「隣国で、がんばりなさい」
部下を送り出す気持ちで、ランに言った。
四人目の娘レベルに鍛えたっ。うん、私が隣国王妃を育ててやったっ。はっはー。見た目は同年齢だけどもねっ。
「なんでこんなによくしてくれるのですか?」
「運命っ」
私の四番目の娘よ、紡ぎなさい、運命を。
さて、予定調和はすべてコンプリート。
「ラチェーット。すべて片づいた。戻っておいでっ。貴女を苦しめる一番でかいのはなくなったっ」
「ありがとうございます・・・・・・ママ」
彼女からの返事が。
気恥ずかしそうに最後を付け加えて私に聞こえた。
ラチェットと少し話をして、私はこの物語、『運命紡ぐ娘ラン』から消えたのだった。