関係性
「どこ行ってたの?」深川の家に戻ると玄関で楊世が仁王立ちしてた。
「…あのマンション…」夏希がボソッと言う。
「アソコはやばいって昼間で分かっただろ!なんで!」
「1人じゃない!ヒロと行ったよ!」夏希が言い訳する。
「…なんで?」楊世がもらす。
「だって、楊世に言ったらダメって言うでしょ?」夏希が頰を膨らませて抗議する。
「僕が起きて夏希いなかったら心配するとは思わなかったの?」楊世が聞く。
「それは…でも、きっと行ったんだろなあ〜って思うかなと。」夏希がボソボソ言い訳する。
「思うだけで心配しないと?」楊世が居間のテーブルに座って聞く。
「それは!…心配すると思う…」夏希が目線を逸らす。
「2度としないと誓える?」テーブルを指でコツコツ鳴らす。
「なんで!そんな親でもないのに!」夏希が文句を言う。
「親に頼むと言われてるんだよ。夏希はムチャするから。」楊世が眉間にシワを寄せてため息をつく。
「僕、責任持てないよ。」そう言うと席を立ち階段を登って部屋に戻ろうとする。
「えっ?」夏希はこういうリアクションに慣れてない。
父とは言い合いになって、そのうち掴み合いのケンカなって投げ飛ばされるのが普通なのだ。
「もう許してくれるの?」夏希が的外れな事を聞く。
「これが許してると思う?呆れてもう相手したくないんだよ!」楊世が振り返ってにらんだ。
「えっ、あっ、ごめんなさい!」夏希はうろたえる。
「いまさら!」楊世がまた階段を登る。
「ごめん!ごめんなさい!2度としないから〜見捨てないでよ〜」反射的に楊世にしがみついた。
楊世の身体がビクッとなったが、何も言わずそのまま登ろうとする。
「ごめん!ごめんって!2度としないから〜」夏希は動揺しながら思った。
冷めてるのは、失うのが怖いからだと。
最初から望まなければ、夢も希望も無ければ苦しまずに済む。
苦しみ失うのが恐いのだ。
いつの間にか泣きじゃくっていた。
「ずるいよ。これじゃまるで僕が悪いみたいだ。」楊世はまたため息をつく。
しがみつかれて泣きじゃくられて結構重いし上に登れないし。
夏希の方を向く。
「2度と勝手に何も言わず危ない場所に行かない?」楊世が聞く。
「うん、行かない。だから見捨てないで!絶対!」
涙でぐしゃぐしゃだけど夏希が可愛く見えてしまう。
「よし、いい子だ!」思わず抱き締めてしまう。
何だが犬みたいなあやし方をしてしまった。
2人共急に正気に戻る。
パッと離れた。
「反省してれば、良いよ!約束だからね!守ってね!」そう言い楊世はそそくさと自分の部屋に戻った。
「う、うん、分かった」夏希は自分にビックリして立ち尽くした。
思い出したら自分が恥ずかしい。
父とケンカするみたいに駄々こねたら、アッサリ見捨てられて焦った。
そしたら感情の波がドーッと押し寄せた。
恥ずかしいが、何だがスッキリした。
母が居なくなってずっと自分のせいだと言う気持ちが拭えなかった。
母が子供に縛られて自由が無いことを嘆いていたのも知ってる。
もう高校生ともなると「なに勝手なことを!
産んだの自分じゃん!」
と思えるが、小さい頃は済まない気持ちで一杯だった。
思いっきりつまらなそうな母の顔が心に染み付いてる。
そして改めて父の愛をありがたいと思った。
いつも殴られるし投げ飛ばされるが、けっして夏希を見捨てない。