呪いのエレベーター
「お前、大丈夫かよ?なんて言って出てきたの?」ヒロが聞く。
「お父さんと月子さんは店で、楊世はご飯食べたら寝たから、そこを見計らって出てきた。」夏希がニヤッとする。
「それ、後々ヤバいぞ…怖っ」ヒロが心配するが、
なんでヤバいか?夏希には分からない。
「サッサと終わらせて帰ろう。よし、行くぞ!」昼とは違う緊張感がある。
昼間は人気が無かったが、この時間だと人の出入りがある。
ホールのアートなイスには人が座っていた。
しかし、何かブツブツ言いながら下を向いている。
髪もボサボサで服装もなんか汚らしい。
身体からは昼間感じた変な匂いがする。
「この匂い、昼も感じたのだ!
あの人からする。」夏希が言うとヒロも匂いを嗅ぐ。
「あっ、分かる!コレはあれだよ、覚えてないか?」ヒロが夏希に聞く。
「ほら、野良犬の死体見つけた時の!」ヒロの言葉に記憶を探る。
確か小6で2人で河原を探検してた時、カラスが群れてるのを見た。
その場所へセイタカアワダチソウの枯れ木を掻き分けて入った。
そこには野良犬が死んでカラスが内臓を食い破って食べているのを見つけた。
その時は匂いはしなかったが、翌日また行くとすごい異様な鼻の奥に突き刺さるような臭いがした。
ウジが湧き昨日は赤かった内臓がウネウネと赤黒く蠢く。
離れた目や鼻や耳の中にもウジ虫が少しづつ移動していってる。
が、それが4日後には白い骨が目立つようになり臭いもだんだん薄まった。
そうだ!あの独特の臭いだ!
家庭ゴミとかの臭いとは根本的に違う臭い!
「あの人、生きてるのに…なんで死臭がするんだろ?」夏希が小さな声で呟く。
他の部屋から悲鳴が!ドンドンと壁を叩いている人もいる。
「昼だけじゃ分からないもんだな。これは普通に人が入っても
暮らせないわ!
そりゃ、逃げ出すわ!」
もう1階の内廊下を歩かず、そのままエレベーターを目指す。
前はすぐ来たのに、今日は3回押してやっと最上階のRマークが点滅してエレベーターが下ってきた。
15.14.13.12…だんだん加速する。
「もし、何か居たら逃げるぞ!それは決めとこう!」ヒロがなぜか夏希の後ろ側に回り言う。
「なんで後ろに隠れるのよ!」夏希が怒る。
「約束したろ!昼は俺、夜はお前なんだよ!」
「チーン」2人でバタバタしてる内にエレベーターが到着した。
身構えて扉が開くのを待ったが、中には誰もいなかった。
「と、とりあえず乗ろうか?」夏希が中に入り5階を押してみた。
エレベーターは微かに音楽も流れている。
一見、綺麗なエレベーターなのだが、上のモニターには2人の姿が映っている。
「自分の頭頂部なんか見たことないや。親父ハゲてるから心配なんだよな。」ヒロは恐いとふざけるクセがある。
急に微かな音楽が途切れ途切れになり、人の…女の人の嗚咽のような声に変わっていく。
すると明かりも急に暗くなっていく。明りがジジジーッと光を絞っていく。
5階が点滅していたのに急にRが点滅する。
「行き先が変えられてる!どうして?」夏希がスイッチを、連打する。
次の瞬間、ガタンとエレベーターが止まったようだが、明かりも完全に落ちて真っ暗になった。
「何?何?なにーっ!」ヒロが泣きそうな声を出す。
「シッ、何か聞こえない?」夏希が聞く。
「女の人の泣く声だろ?さっきからしてるって!」ヒロが夏希にしがみついてくる。
「ちがうよ。中だよ。ポタンポタンって…これは水の垂れる音だ!」夏希がエレベーターの後方を振り返る。
そこには…ずぶ濡れの長いざんばら髪の老女が立っていた。
眼は空洞で口は歪み、こちらに手を延ばして近付こうとする。
「わああああああ〜っ!!!」2人は悲鳴を上げた。
「チーン。」5階でエレベーターは開いた。
ヨタヨタと2人は降りた。
この階も人が喚いたり、廊下をゾンビみたいに歩く人が。
やはり死臭がするのだ、生きてるのに。
「もう、俺、気が狂いそうだ。ここは俺達には無理だよ。
帰ろう、もう帰ろう。」ヒロがひざまづいている。
「うん、もうキツい!帰ろう!」夏希とヒロは非常階段を探して降りていった。