肉片
「にしても遠かったね」
「何呑気なこと言ってんだ。もうここは最前線だぞ」
そう言われても歩くって言って足元の悪いところを歩いてたら、嫌でも遠く感じちゃうからね。だけど言われてみればもうここ最前線何だもんね。ここにいる人達みんなぼーっとしたような死んだ顔してるけど大丈夫なのかな。
「それもそうだね」
「お前ら!今日からここがお前らの家だ!食事も睡眠もすべてここですます。大事に使え!」
「ここ?ここってだだの掘られた通路ってか、塹壕だよね」
「そうだな。はぁ〜ここで生活するのか〜」
嘘でしょここで生活するの。前住んでた場所も結構ひどい場所だったけど流石にベットとか諸々あったよ。だけどここは寝る場所も食べる場所も地べたでなんもないじゃん。嘘でしょ。
「おい顔に出てるぞ」
「そう?だけど流石に何もないからさ」
「まあ俺も驚きなんだけど」
「求人広告にはこんなこと書かれたなかったのに」
「俺も求人広告を見て歩兵を志願してここに来たが、ここまでとはな」
あの求人広告書いたの誰だよ。何が安全な場所で高額な給料だ。全然書いてあったことと違うじゃん。騙されたな。
「一旦休憩する?」
「そうするか」
「軍曹!今はどんな状況だ」
「あぁ少尉、なんとか戦線は維持していますが、この前の大規模攻勢で自軍の損害がものすごく出たのでその余韻がまだ取れきれてないですね。今回の補充は本当にありがたいです。噂では敵の大規模攻勢があるらしいです」
私結構大事なこと聞いちゃった?敵の大規模攻勢があるって本当?私達来たばっかだけどここ大丈夫だよね?さすがにまだ死にたくないよ。
「ねぇ、今の話聞いてた?」
「...死にたくないな」
「うん。私もだよ」
「おいお前らそんなとこで何してるんだ?」
「あそこにいる少尉からここが家だと言われたので、ここで歩いてできた疲れを取っていました」
「てことはお前ら新しくきた新兵か?」
うわっこの人タバコ臭いな。私タバコの匂いあまり好きじゃないんだよな。てかこの人も目死んでるけど大丈夫なのかな?
「そうですね」
「お前らまだ疲れてるか?」
「まぁ、はい」
「そうか。ならそんな疲れてる時にはタバコを吸うと気分が楽になるぞ。タバコ吸ったこは?」
「私は吸ったことないです」
「俺も吸わないです」
タバコってそんなにいいのかな?気分が楽になるって言ってるけど、別にそこまで今気分悪いわけじゃないからな。それにやっぱりタバコの匂いが好きになれないからな。
「そうか、なら無理して吸わせるのもいかんしな。お前ら名前は」
「ロアル・フォークランです」
「ノースです」
「ロアルにノースか、これからよろしくな。俺は先輩だが話すときは別に堅苦しくなくていいからな。それじゃあ」
やっと帰ってった。人としてはいい人なんだろうけど、この距離からでもわかるタバコの匂いのせいであんま長い間は一緒に居たくないなって思っちゃうな。ほんとにタバコの匂いは好きになれないな。
ドッン!
「きゃあ、なに?」
「敵だ!敵の砲撃だー!」
「砲撃?なんで今」
「え、」
「おいノース!退避壕に行くぞ。おいどうした、っ」
あれ、おかしいな、さっきまでたばこの人私と話してたよね。生きてたよね。なんでさっきまでなかった場所に肉片がころがってるんだろう。おかしいな、さっきの人どこ行ったんだろう。この落ちてる腕ってさっきの人のだよね。あれ、どうして。
「おいノース!しっかりしろ、行くぞ」
「ねえ、ロアル。こんな所に肉片落ちてたっけ?それにさっきの人は?」
「おいしっかりしろ!それは肉片じゃなくさっきのおじさんだ!さっきの人は砲撃で死んだんだよ!早く隠れないと俺らも同じ運命だぞ!」
「死んだ?今人が死んだ」
「あぁくそ」
私、なんでロアルに担がれてるんだろう?てかロアル急にどうしたんだろう。急に人が死んだとか冗談下手だな〜。だってさっきまで生きてたのに。そうだよ。タバコの人歩いて帰ってくの見てたもん。そしたら急に目の前で爆発がおきて、肉が飛び散って...
「ゔっおえっ、はぁはぁはぁー」
「おい大丈夫か」
「大丈夫。ちょっと気持ち悪かっただけ。一人で歩けるから」
「そうか、無理するなよ。にしても砲撃が激しくなってきたな。いつまで続くんだよ」
「わかんない。だけど今ちゃんとしないと、生き残れないよね」
「そうだな。絶対生き残ろう」
そうだよ。ここは最前線なんだよ。戦いはずっと起きてるんだよ。ちゃんとしないと、敵が来たら何もできないじゃん。こんなところでくよくよしてても何も始まらない。絶対生き残ってやる。
「全員武器を持って配置につけ!敵が攻めて来るぞ!」
「ノースこれを」
「ありがと」
「全員戦闘配置だ!」
頭を出して覗いてみると敵が大人数で叫びながらこっちに向かって走ってくる。そして私の手にはライフルがある。もしこれで敵を撃ったら自分は死なないで敵が死ぬ。だけどもし私が撃たなかったら自分は死ぬ。それだけはやだ。絶対死にたくない。それなら私がするのは、
バン!
「当たった」
狙ってた敵が倒れた。たぶん死んだと思う。だけどなぜか今自分の手で殺したはずなのに、殺したっていう実感が湧いてこない。そうだよ。敵は人じゃなくて敵なんだから。そう思うと敵を躊躇なく撃てるようになった。だって相手は人じゃないんだから。
「おいお前らちゃんと狙って撃て!」
「来るな。こっちに来るなゴミムシが」
「うわー!目が!目が見えない!」
「衛生兵はいないか!」
「死にたくない。死にたくない。死にたくない」
やっぱり敵に銃弾を当てるのは難しいな。狙っても思った所より少しずれた場所に行っちゃう。あたっても敵の数の方が多いから全然減らないし、敵はさらに勢いを増して向かってくる。それにこっちもちょっとずつ削られていってる。ロアルは、大丈夫そうかな。黙々と敵を狙っては撃つを繰り返してるし。私も敵をもっと殺さないとこっちが先に殺されちゃう。
「おい敵が吹っ飛んでるぞ!ざまぁみろ!」
そうこうしてると、仲間の迫撃砲か野砲の弾で敵の四肢が空中に吹っ飛んでいってる。それにこちらの機関銃もやっと動き始めて、敵を一掃してくれる。この調子なら何とかなるかも。
「おい手榴弾だ!」
「え...」