東部戦線
眠たいな。
景色はずっと真っ黒な畑、空は雲一つない快晴で横から入ってくる太陽の光がずっと当たるせいで暑いけど、ほのかに入ってくる風と不規則的な振動が、さらに眠気を強くしてくる。隣から聞こえる話し声もちょうどいいアクセントになってとてもいい感じ。少し泥臭くて鉄みたいな匂いが漂ってるけど、いつもよりはきつくないからあんまり気にならないかな。
「おい話聞いてるか」
「え、ごめん私に言ってた?」
「そうだよ」
話しかけられたほうを見ると、私よりも体の大きながたいのいい男の人がいた。運動をよくするのか、服の上からでもわかるぐらい結構筋肉がついていて服のサイズが多分あってないと思う。
「なんか俺の体についてるか」
「いや別に何もついてないよ。ただ少しぼーとしてて」
私そんなに体見てたかな。そんなつもりなかったんだけど。それよりも、なにか私に聞いてたっぽいけど何言ってたんだろう?
「あの、何て私に言ったの?」
「あぁ、いや別に大した事じゃないから別にいいよ」
「え、教えてよ」
「いや、ただどこから来たか聞いてただけだよ」
「それだけ?」
「それだけ」
思ったよりもしょうもなかった。まぁ確かに大した事じゃないとは言っていたけど、そこまで大した事じゃないとは思わないじゃん。別に隠すようなことじゃないから、出身地ぐらい言ってもいいけど。
「あー、テスタ地方だよ」
「テスタか、結構遠いな」
「テスタって言ったら小麦で有名な場所ですよね」
「まぁそうだね」
私が住んでたテスタ地方は小麦が有名で、地元で作られたパンはとてもおいしくて、昔おばあちゃんが作ってくれたパンは今でも深く記憶に残ってる。家の外を見たらきれいな小麦畑が広がっていて、とてものどかで自分にとってとっても大事で自慢の場所なんだよね。
「一回行ってみたいな〜。やっぱり都会と比べると空気がおいしいのかな?」
「おいしいよ。たぶん幸せな気分になれると思う」
ガタン
「あぁくそなにやってんだよ!お前のせいで時間に間に合わないだろ!どうしてくれんどよ!」
「すみません」
運転席の方から上官の大きな声が聞こえてくる。けっこうお怒りモードっぽい感じ。運転手の謝る声が絶え間なく聞こえてくるけど、さらに上官の声が大きくなってる気がする。悲痛の叫びは聞こえないけど、多分心の中で叫んでる気がする。だって私なら叫んでるもん。上官が音をたてながらこっちに歩いてくる。まじでなんか文句言われたりしないよね。
「おい、お前ら全員降りろ!」
「はぁ~」
「おい早く降りろ!みんなで押すんだ!」
そうだろうとは思ってたけどタイヤが泥にはまったのか。だからさっきあんなにゆれたのか。にしてもめんどくさいな〜。結構泥にはまってるから抜け出すの大変なんだよね。
「同時に押すぞ!せーの!せーの!」
「だめだ!タイヤがずっと空回りしてる」
「もっとアクセル踏めよ!」
「丸太をタイヤの下に入れるんだ」
「もう一回いくぞ。せーの!」
「お、いけた、抜け出せたぞ」
よかったーあんま時間かかんなくて。もっとかかってたら上官殴りかかってきそうな雰囲気出してたから、怖かったんだよ。
「おい早くトラックに乗り込め!ちんたらするな!」
にしても、結構怖そうな上官の所に配属されちゃったな。これからずっとあの人の指示に従わないといけないってことでしょ、うまくやっていけるかな。まぁ他の人は特段変な人もいなさそうだしそこは安心できるところだけど。あの服ピチピチな人だって見た目は少し怖そうだったけど、...そういや名前聞いてなかったな。
「ねぇ」
「ん、どうした」
「いや、名前聞いてなかったなと思って。名前何て言うの」
「あぁ、ロアルだ。ロアル・フォークラン」
「ふーん、いい名前だね」
ロアル・フォークランかー。あまりこの国だと聞かない名前だな。どっちかというと隣国の名前っぽい感じだし。それともやっぱり地方によって名前も結構変わってくるのかな、...いいなー隣国に行ってみたいなー。雑誌とかでもおしゃれできれいな町並みが並んでたり、美味しそうな食べ物があったり、かっこいい人が多いイメージあるしいいなー。
「そういうお前はなんていうんだよ」
「私?...私はノースて言うの」
「へえ、いい名前だな」
「そう?ありがと」
まぁこれで話し相手には困らないかな。にしても結構遠いな、どこ向かってるんだろ。まだつきそうにないし、少し寝ても大丈夫だよね。多分ついたら誰かしら起こしてくれるでしょ、...全然寝れない。嘘でしょさっきまであんなに眠たかったのに。やっぱり椅子が硬いし寄っかかるところもないからかな?
「ねえ、ロアル。肩かして」
「別にいいけど急にどうした」
「ありがとう。それじゃあついたら起こして」
「おいってもう寝てる。寝るの早すぎだろ。はぁ〜」
ん〜、なんか外が騒がしいな。なにかあったのかな?てか今どこなんだろう。ついたらロアルが起こしてくれると思うから、まだついてないのかな?
「ん、ノース起きたか」
「うん。今どこ?」
「目的地まであとちょっとだ。にしても熟睡だったな。三時間ぐらい寝てたんじゃないか、もうとっくに夕方だぞ。そんなに俺の肩が良かったか」
「そうだね。今度寝るときもお願いしようかな」
「そうか、それはよかった」
トラックが停まった。あんまり外が明るくないからよくわかんないけど、多分目的地についたのかな?上官の怒ってる声も運転手の謝る声も聞こえないから、また泥にはまったとかじゃないだろうし。
「おいお前ら全員降りろ。目的地についたぞ。準備ができ次第俺についてこい。歩いて最前線の塹壕に行くぞ」
長い間座ってたから、急に立ったせいで立ち眩みがすごいな〜。それにずっとトラックに乗ってたからわかんなかったけど荷物重いな。ライフルや荷物の中身が大事なのはわかるけど、できるならもう少し軽めにしてほしいよね。てか、まだ目的地に着いてなかったんだ。歩くって言ってたけどどんぐらい歩くんだろう。できるならそんなにあるきたくないな。
「少尉殿。俺達はどこに配属されたのですか」
「言ってなかったか、ここにいるお前ら新兵は第二十六歩兵連隊所属だ。そしてここが東部戦線だ」