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4話 野盗

 一月の間、俺は稽古に追われる日々を過ごしていた。

 ゲーム序盤の敵とはいえ、相手は盗賊団である。命のやり取りという点において、温室育ちの貴族である俺なんかよりよっぽど慣れているだろう。いかに護衛の騎士を連れて行動するとしても、気を抜けば殺されるかもしれない。だからこそ、少しでも強くなろうと思ったのである。


 そして今日はついにイベントが起こる日だ。

 前世の記憶だと確かゲームの主人公がレティアを助けたのが昼頃。

 場所はティッポの北にある林道。シュマイケル伯爵家の本邸があるシュトックホルムから見ると南東の方になる。


 作戦はまず主人公がレティアの悲鳴を聞かない状況に持ち込むこと。そして俺がレティアの悲鳴を聞きつけて助け出す、だ。


 主人公の方はすでに対策済みである。

 まず彼の出身村からティッポ方面へと繋がる林道は途中で分かれ道になっている。片方がティッポ、もう片方がメルポ村だ。もちろん道が分かれる地点にはどちらに進めばどこへ着くのかということが書かれた看板が立っているのだが……俺が先程、地名が逆に書かれたものに差し替えておいた。今日はティッポへ買い物に行くという口実で野盗を狩るため、騎士がついてきているのだが、なかなか一人にしてくれないため差し替えるのに苦労した。

 それでもなんとか差し替えは成功したので良しとしよう。


 あとはレティアの悲鳴が聞こえるのを待つのみだが――――。


『きゃあああああああああああああああああああ』


 きたな。


 期待通り。と人が襲われるのを喜ぶのは良くないが、それでもこれは世界の崩壊を防ぐために必要なことだ。ここはシナリオ通りに進んでくれたことに安堵するくらいは良いだろう。


「若様! 今のは!?」

「女性の声に聞こえたな」

「行ってみますか? 野盗の目撃情報がある場所で女性の悲鳴が聞こえるなんて、良い想像ができませんよ」

「そうだな。もとより野盗を狩りにきたんだ。ついでに誰か助けられるなら、助けた方が良いだろう」

「承知いたしました。皆、若様から了承が出た。声がした方へと進み、状況を確認するぞ!」


 ヴァンドレの言葉で俺付きの騎士が一斉に気を引き締める。

 もとよりいつでも戦闘できるよう装備はしっかりとしていたのだが、今の一声で一層やる気になったようだ。


「よし、ではいくぞ」


 俺はレティアを助けるべく林道を進もうとして――。


「若様、先頭は俺です。野盗狩りを共にするのは良いですが、主君に前を進ませるのは騎士としてできません」

「なら、俺は二番手だ。文句ないな」

「はい。お前たち! 後方と左右は任せるぞ。例え不意を突かれようとも絶対に若様を守るんだ」


「「「おぉおおおおおおおおおおお」」」


 いや、そんな大きな声を出すな。

 野盗に聞こえたらどうするつもりだ。まったく。


 士気が上がっているところにツッコミを入れるのは野暮なのでしないが、もう少し気をつけて欲しいものだ。

 この作戦には世界の命運がかかっているのだから。


「こないで! これ以上近づかないで!!」


 俺たちが悲鳴がした場所へと駆けつけると総勢十二名の男が泥だらけの少女を包囲して下卑た笑みを浮かべているところだった。


「おい、嬢ちゃん諦めな。御者のじじいはもう殺しちまった。誰も助けてくれやしねえよ」

「そうだぜぇ~。諦めて、俺たちのおもちゃになりなあ!!!」

「抵抗しなけちゃ多少は優しくしてやるよ」

「俺は抵抗してくれていいぜ! 黙られるのが、一番楽しいんだからよ!!!」

「どーせ、やってちゃあ慣れるって」

「むしろ気持ち良いんじゃね?」


 よくもまぁ、こんな汚い言葉を次々と口から吐き出せるものだ。

 語彙力があるのか、ないのか。

 貴族の俺からすれば口にするだけで自死を選ぶような、言葉を楽しそうにレティアへ投げかけている。


「おい、貴様ら。何をしている」


 傍観していても気持ちが良いものではないので、俺はすぐに野盗へと声をかけた。


「あぁ? なんで、こんなところに人がいるんだ――――って鎧? まさか騎士か!?」


 野盗の一人が俺の護衛騎士たちの姿を見て少し焦る様子を見せた。


「おい、まずいぞ。流石に本職の騎士を相手にするには準備不足だ」

「どうする? 逃げるか?」


 一人の動揺が徐々に他の野盗たちにも伝播していく。

 これは思ったより楽な仕事になるかもしれないな。気は抜かないが。


「ヴァンドレさっさとこいつらを片付けるぞ」

「はい、若様!」

「皆は若様の周囲を固めていろ。まずは俺が数を減らす」


 ヴァンドレが槍を構えて腰を落とす。

 そして次の瞬間、姿を消した。


「相変わらず鋭いな」


 ヴァンドレが行ったのは単純な動作だ。槍を構えて突進。それのみ。

 だが、あの男の強烈な踏み込みから生まれる推進力が、シンプルな攻撃を一撃必殺へと変える。


 俺と稽古する際にこれを使われるとほぼ負けるので、ヴァンドレが気を遣い封印してくえていた。それ抜きにしても稽古だと一度も勝てていないが。


 瞬く間にヴァンドレの一撃で三人が吹き飛ばされた。

 流石だな。


「うひいいいいいい! 化け物だ! こんなん勝てっこねえ!!」

「逃げろおおおおおおおおおおお」


「――――黙れアホどもが」


 野盗たちが早くも怯えて逃走を計ろうとした。

 それを見て俺が勝ちを確信した、正にそのとき。低く冷たい声が耳へと飛び込んできた。




読んでいただきありがとうございます。

よければ、ブックマークや下の☆☆☆☆☆で評価をつけてもらえると嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。

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