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09「Welcome to the “Nightmare”!」



──踏切が鳴っていた。


 甲高く、誰かの嘆きを表しているかのように。

 雨も降り始めていた、音を立てて地面に沈み込む雫が滝のように空から落ちてくる。

 

 全ての悲しみを表したそれは、誰かの──少なくとも()のものではない切なる慟哭。

 静かに、頬を伝う涙ではない何かを拭うことはできない。

 それは、自身の業からであり、そして戒めでもあった。けれど、ポッカリと空いた穴を自傷行為では埋めることなどできない。

 罪を償う気にならなければ、贖罪に意味はない。

 ましてや精神的な感傷など死者への侮辱にすらなり得る。


 

────踏切が鳴っている。


 全てが、どうしようもなくどうでもいい。

 そう思い始めれば、虚無が全身を支配し、心が無で満たされる。


 慰めてくれる人など居ないし、望んでいない。

 ただ、全てがあるがまま、なすがままにしかならない。

 あらゆる理不尽に対して抗う気力を持っていたはずの、あの黄金の時はすでに不可逆に錆付いてしまった。



────踏切が鳴り続けている。



 線路は見えない。見たくもないし、見る勇気もない。

 電車がずっと通り過ぎている、車両が途切れる気配はない。


────それでも、踏切はなり続けている。



 雨の騒音も、周りを埋め尽くす一般人の声も何も聞こえない。



────踏切が、踏切が、踏切が、踏切が、踏切が、踏切が、踏切が、踏切が、踏切が、踏切が、踏切が、踏切が……



 もう、何も聞きたくない、踏み出したくない。

 彼女の慟哭を、矛盾と破綻と陰影を、見なかった俺の罪でしかないのだから。



────そして、静かに踏切へと倒れこんだ()()がこちらを見ていた気がした。



 ついぞ、彼女の言葉は俺に届かなかった。



◆◇◆◇◆



〈二〇二五年 七月二十四日 御加実市 高校前のバス停〉



『────起きたかな?数時間は寝ていたようだが』



 目を開けると、拳大の光球が空中からこちらを覗いていた。

 どう考えても既視感のある姿の、羽の生えた妖精は静かに、無事を確認する。


「──天国?」

 寝起きの回らない頭で出た第一声は、なんとも間抜けな言葉だった。少なくとも、死んでいるはずだったので、気が抜けていたのかもしれない。


『結構的を射ているんじゃないかい?』

「……そう?」

 そして、さらに妖精の上から、レイが見下ろしてきた。

 この体勢に、後頭部を包む柔らかい感触は────膝枕だ。




「──て、ッ!?」

 ナギトは驚愕に対して起き上がろうとするが、上からあり得ない力で頭を押さえつけられる。


「起き上がっちゃだめ」

「────いや頭、割れる割れる!?」

『レイ、せっかく一命を取り留めたのが、無駄になってしまうよ』

 後頭部の柔らかさより、頭を割るような痛みに気を取られる。

 いや、妖精もちゃんと止めて!?すっごい痛いんだけど!


「わかった。でも、起きあがっちゃ駄目」

 押さえるのは止めたが、先ほどと同じく膝枕されるがままになる。

 起き上がりたいが、そうすればまた頭を歪まされかねないので、自重しよう。



「────膝枕なんて、久しぶりだ」

「初めてじゃないの?」

「?……ああ、そうだが」

 まあ、中学生の時に色々あったので、膝枕もあった。

 そこから、突如黙ったレイの代わりに妖精が口を開く。


『改めて、感謝を伝えようナギト……君のおかげでレイは助かった。本当にありがとう』

「あ、ああ。そういえばそういう話だったな。てか──なんで俺死んでないんだ?」

 てっきり死んだと思っていたので、なぜか生きていることに俺は驚く。

 某手刀の人みたく、死んでいるのに能力で生かされてる的な?



「ナギトはすごい」

「いや、答えになってないのだが」

 そんな自信満々な顔で親指を立てられても困る。


「こちらも命をいただくと言った手前、少し言いにくいことなのだが……君は君自身の特殊体質によって生き延びた、というのが私の推測だ」

 

────何を言っているか、よくわからない……



 いや、理解はできる。

 できるが、俺が特殊体質なんて聞いたこともないし、自覚すらないぞ?



「特殊体質って、全く身に覚えがないんだが?」

『君の場合は単純だ──魂が凄まじく膨大であるという一点のみ突出している。命名するなら〝多魂体質〟だね』

 いや命名されましても……どうせなら俺の名前とか入れてほしい。

 まあ、ともかく俺の体質でレイに魂を吸われても、死ななかったということか。



「ナギトは大きい」

「語弊を生む発言やめろください……ともかく、つまり俺は大丈夫ってことでいいんだよな?」

 俺はレイの誤解を生む発言にツッコみ、彼女は一旦無視して妖精へと問う。


『そうだね。成功率一割未満の儀式魔術を成功して、君の魂も君自身の体質のおかげで減っても大丈夫だった』

「そうか、じゃあ────」

 なんだか、とんでもない発言がさらっと聞こえた気がするが、無視しよう。

 それよりも────



「────な、ナギトっ!?誰だそのきゃわいいおにゃのこはッ!!?」

 そして、膝枕(強制)をしている俺の頭上から、見知った声がした。

 話をややこしくする存在が来てしまったようだ。



 なんだ、そのキモいおっさんみたいな語彙は。



◆◇◆◇◆




「────────────(唖然)」



 その無言は全身から色を失ったが如く、口を開けて瞳孔を開いて驚愕と呆れと、虚脱感のような安心を孕んでいた。



「んー、すまん」

「──(本日二回目の唖然)」

 おそらく、これは彼がたった三文字でそれに対する謝罪を述べたことに対する唖然であろう。

 ただ、確かにそういう奴だ。

 そう彼女は、ノワ子は認識していた。しかし、実際に目の当たりにすれば、それはあまりにも、現実離れした無茶をしていた。



『──こちらが言うことではないかもしれないが、君はもうちょっと色々配慮した方がいいんじゃないか』

「配慮って、俺がやらかしたんだから、言い訳のしようがないだろ」

 確かに、欲しかったのは言い訳ではないかもしれない。

 だが、逆にいさぎよすぎてなんだか責めるに責めれない。

 だからといって、何かこう......もうちょっと何かこうあってもよかろう!?

 ノワ子はそう頭の中で憤慨しつつ、それでも頭の中に入ってきたあり得ない情報をどうにか解して、消化しようと勤めていた。



「────う、」

「......う?」

 そして、なんとなくの情報を理解し終え、一番やるべきことに目星をつけたノワ子はおもむろに言葉を発する。

 短いノワ子の呻きのようなそれにナギトは首を傾げた。



「────う、わぁぁぁぁん!!!ナギト、無事でよかったぁぁぁぁぁ!!!!!」

 そして、彼女は静かに胸のうちのわだかまり全てを投げ捨てて、ナギトの胸に飛び込んだのだ。

 突然のことに身を固めるナギトは、申し訳そうな苦笑いを浮かべた。


 ナギトは膝枕をやめておいてよかったと。

 レイは少し不機嫌になったので申し訳ないが、今はこのお姫様を慰めるのが先である。

 少なくとも、友達想いの彼女がここに居て良かったと、ナギトは心の底から思った。



「う、うぅ......ぐすん、なぎ、とがぁ、いなくなって、え......ひと、りでぇ......なぎとま、でぇ、いなくなった、らどうしよう......かってぇ、うぇぇぇぇぇぇん!!!!!!」

 とはいえ、子供のように泣きじゃくる彼女に、ナギトは流石に対応に困った。

 実はどんな責め苦よりも、号泣されるのがナギトを責める最適解だったりする。

 だが無論、少女はそんなことなど気づかずに、いつもの演技も忘れて泣きじゃくっているだけだが。


「申し訳ない、ノワ子」

「ぅ、ほんとにおもってる?」

 突如としてめんどくさい感じになるノワ子。


「思ってる。面目ないし、ノワ子には迷惑をかけた」

「そ、そういう問題じゃないけど、というか、初対面の女の子に命かけるって意味わかんない!」

 もはや厨二病であったことも忘れてノワ子はナギトを責め立てる。

 ただ、何も反論をせず、ナギトはその言葉に聞き入る。


「しかも、かなり可愛いし、美少女だし、金髪だし!」

「金髪は関係ないと思うが」

「どうせ下心満載で助けたんでしょ!?助けて欲しければ体をよこせとか要求したんでしょう?」

「違うし、暴走してるぞ。話を聞け」

「こうやって、負けヒロインはポッと出の第三者に奪われるんだぁ......わぁ、あ......」

「ないちゃった!じゃねぇわ、なんの話だこれ!?」

 もはや話がしっちゃかめっちゃかになっている。

 下心だけで、自分の命差し出す奴なんていると思うか?なんだろう、居そうで怖い。

 こっちも脱線しかけたが、一度冷静に話すべきか。


 独り言はともかく、少し余裕がないことも確かなのだ。



「一旦、落ち着いて話をするべきだ。問題はこれからのことだろ」

『そうだね。今は特に少々危うい状況かもしれない。あの学校内にいた魔術師たちが追ってくるかもしれない』

 妖精の言うことは尤もだ。

 というか、俺がノワ子に流されてただけで、今は本当に冷静になる状況だろう。



「う、うむぅ……色々聞きたいことはあるが、今は仕方がないかぇ?」

 いつもの調子に戻ったノワ子は顔をしかめつつ、一応は納得してくれたらしい。

 まあ、ノワ子の気持ちもわかるので、後でちゃんと弁明しよう。


「とりあえず、外に出よう。話はそれからだ」



 そして、俺はようやく外に出られたのだった。



◆◇◆◇◆







「──────誰もいないな。相変わらず、人の気配がなさすぎる」


 正門を出た俺たちは、静かに学校を離れて近くにある公園まで来ていた。

 先ほどまでうるさいくらいだったのに、怖いくらいに静かだ。


『これはあの魔術師たちが用いる《人避けの結界》(仮)かな。範囲内に一般人の出入りを無意識的に遮る効果を持つものだろう』

 なるほど、あんな魔術師が現代で好き勝手するにはちょうどいい結界だ。

 こういうのはありがちだが、一般人を巻き込んでドンパチされるよりかはマシだ。

 

────ん?じゃあ俺たちは......




『君たちは多分、ナギトの体質が原因で人避けの結界に紛れたんだよ。他の二人は君に引っ張られたという形と予想する』

「マジか、俺のせいかよ。すまん、ノワ子──て、おい」

 そして、ノワ子の方に視線を向けると、なぜかレイが乗ったブランコを押していた。


「フハハ、盟友よ!この子凄まじく愛い!!我が臣下にしてやろうか!?」

「だいじょぶ」

 こういうめんどくさい会話はパスらしい……立ちこぎは危ないぞ、レイも一緒だから大丈夫だとは思うが。

 ノワ子の好きそうな厨二系の用語もわんさか出てきそうだが、まあ今は美少女(レイ)でご機嫌をとっておくことにするか。


「それで、今後のことだが……」

『それについてだが、まずは聞きたいことがある。君は魔術師とは関わりがあるのかい?』

「──?ないな。魔術師が何かも知らん」

「……信じよう。その上で、君にはお願いがある。改めてもう一度、問う』

 ようやく、話を切り出せた。

 俺自身はこれ以上踏み込むつもりはない。

 しかし、妖精は恭しく、改めてそう言い区切る。



『────君の命をレイに捧げてくれないか?』


 その願いはあまりに切実で、俺は胸の中の何かが揺らいでしまいそうになった。


「──だめ、それだけはぜったい」

 レイも聞きつけたのか、いつのまにかブランコを降りて、こちらに来ていた。

 レイとしてはこちらに迷惑をかけることも、先ほどの命を捧げる儀式も業腹らしい。

 まあ、俺もそれを汲んで、彼女のそばから離れようとしているのだが。


 これ以上、一緒にいれば彼女を手助けしたい欲があふれてしまう。


「レイ、多分だがさっきの儀式をやるわけじゃないぞ」

「そうなの?」

『すまない、少々言葉を掻い摘みすぎた。ナギト……君にはレイと一緒に来て欲しいと言いたかったんだ』


────おそらく、妖精はそう来ると思った。


 レイが蘇生した儀式は彼女の能力の範疇外だろう。


 つまり、無理をした、なんらかの制限がレイについているのではないか。

 先ほどから、感覚的な違和感が続いている。

 レイとは、まるで第六感で繋がっているようなそんな感覚がずっと続いている。


『気づいているとはね。普通、レイのように気づくこともないのだがね。君は魔術師の才能があるよ』

「知らん。けど特殊体質らしいし、多分魂と繋がる自分に繋がったもんくらいは自覚できるだろ」

『ふむ、いい理解だ。その通り、君とレイは本来人間同士には繋げれない魂を魔力の契約(パス)で繋がっている。私のいた世界では《身体の契約》という』

 なるほど、常時俺からレイに輸血している状態って感じか。それで、レイが傷ついたりして、血液が足りなくなったら、俺から不足分がレイに流れ込む感じか。

「俺は輸血パックみたいな感じか。レイにとっての」

「ふむ、それはあまりにもな表現な気がするが」

 そうか?そうか。

 まあ、ノワ子はブランコを漕いでてくれ、滑り台もいいぞ。


『ふむ、それが何かはわからないが、レイにとって君は生命線だ……生命線になってしまったんだ。私の儀式の代償でね』

「そんなにやばい儀式だったのか?確かにピカピカで、魔法陣グルグルーって感じだったが」

「もう一度見せてくれ、光る者よ!」

 誰がやってたまるか!てか光る者って何だよ。

 まあ、確かに某ゲームに出てくるお目付け役妖精に似てないでもないが。


 そこまで、大仰なものではなかっただろ。


『本来は出来るはずのない技術だが、この土地自体にかなり太い魔力脈があり、神秘的な要素が揃っていたからこそ成功した。ただ、それでも《身体の契約》の永続を筆頭に色々な制約を余儀なくされたわけだ』

 まあ、魔術はその存在すら知らなかった身なのでよくわからないが、かなりの代償をはなったのだろう。

 儀式といえば、神に代償を払うことだ。つまりは、多少なりとも条件が揃っていても、何かは犠牲にしないと発動しない魔術なのだろう。


『私とレイのパス、そして《吸魂の加護》も犠牲にした。本来なら、レイはまともに戦えないくらいなのだが────君がいる、それだけでレイは有利になった』

「思ったより輸血パックが大きかった、ってわけか」

 この表現やっぱやめようか、なんかアホっぽい。

 ともかく、俺の魂が思ったより多かったから、レイの《廻魂の加護》で魔力を問題なく作れるのか。


「確かに、言われてみればナギトと繋がってる気がする」

「ふむ、その表現は語弊を生むぞ?美少女よ。それに我の方が盟友と深い繋がりがあるのだ!フハ!」

 なんで張り合ってんだ、お前の方が付き合いは長いだろ。

 レイが言葉足らずで語弊を生みやすいらしい。

 とはいえ、レイの感情が言葉ではなく、魂に直接伝わってきているような気がする。

 これが接続契約(パス)ってやつか。




『だからこそ、君にはレイに命を捧げる、もとい魂を捧げて欲しいというわけだ。君以外にレイの再生能力を機能させられる人間はいなくなってしまった』

「────それは、だめ」

 レイが妖精の発言に食ってかかる。

 俺も、正直レイと同じで長くいるつもりはなかったのだが。


『すまない。厳しいことを言ってしまうが、このままでは魔術師に追われ続けることになるんだよ。ナギトがレイから離れれば君が死ぬ。ナギトの献身が無駄になってしまうんだ』

 妖精とて、本意ではないのかもしれない。

 しかし、それでも緊急手段的に仕方なくこの処置を施した。だからこそ、こうやってお願いしているのだろう。


「──う」

 レイが見たことのない顰めっ面をする。

 それを見ただけで、ちょっと笑いそうになった。

 ただ、そこまで言われてしまうと、はいと答えるしかないな。


「────魂を供給することに、代償はないんだな?」

『君の様子を鑑みるに、大丈夫だと結論づける』

 少し、危うい言葉だがこの際、乗りかかった船だ。

「……ま、俺は別に構わん。どうせ夏休みだし、暇だからな」

「そんな話ではない気がするがの?」

 そういう話でいいんだよ、そうしないと重くなってしまう。レイの前ではあまり暗い感じは見せたくないんだ。

 ともかく、()()()()()()()側には助けた責任もある。このまま、フェードアウトってのも虫が良すぎる話か。



『────リティア、それが私の名前だ。本当に感謝する』

「レイ、レイ=エレイン。よろしく、ナギト」

 おもむろに既視感のある妖精と、その主たる少女は名乗りをあげた。

 それは、俺への敬意か、社交辞令ではないことを願いたいものだ。


「おう、んじゃ改めて……俺の名前は凪斗、間下部凪斗だ。リティアにレイ、よろしくな。んで、こっちはノワ子だ」

「ふむ!よくぞ紹介した。我が名はノワール=リヒテン=シュバルツ!王位継承権を剥奪され、命を狙われながらも闇に選ばれ、偽りの王座を奪還すべく、蒼極を従えし覇者の末裔なり!」

 

『もしかして、レイと同じ出身、【空想現界人】なのかな?』

「あー、こいつの言うことは無視して構わん。ちょっと()()()()だけだ」

『?そうなのか、了解した』

 とてつもなく紛らわしい自己紹介をありがとうノワ子……ちょっと黙っててくれ?

 でも、少し聞きたいことはできた。


「──聞きたいことがあるんだが、あいつらは魔術師って言われてたよな?レイたちもそうなのか?」

 気になっていたことだ、【空想現界人】なる呼び名はその異名だったりするのか?

 まあ、これまでなんの説明も無かったので、知っていることがあればぜひ聞きたい。


『いや、我々と魔術師は違う。魔術師とは関わりがないし情報は知らない。ただ、ここは私たちのいた世界とは違う。君たち目線でいうなら私たちは異世界人と呼べるだろう』

「うーむ、そうか。レイたちを狙う奴らの情報がわかれば良かったんだが」


 今のところ、レイたち(主にリティア)が知っている情報はほぼない。異世界から来たと言うことは、異世界の情報も知っているだろうがそれは今必要な情報ではない。


『ただ、魔術師は我々のことを【空想現界人】と読んでいたね』

「──うん、確かに」

 リティアの言葉をレイは肯定する

 


「【空想現界人】か。字面から推測できるものもあるが、今は一旦置いておくか」

 空想現界、ということはやはり空想、創作物の住人ということか?

 ともかく、それよりも今はもっとも致命的なことに気が付いてしまったのだ。



────先ほどの気づいた小さな違和感、それはナギトの胸に刺さった棘のように徐々に食い込んでくる。



「できれば、ノワ子は帰したかったんだが」

「んな!?盟友を置いて帰ることはできんぞ!!」

 一番関係が無くて帰りやすいノワ子を安全圏に置きたかった。

 だが、それも今となっては無駄な試みだったのだろう。


「はあ、けどそうもいかないみたいらしい」

「──なんのことだ?盟友よ」

 棘のような違和感、その正体に気づいた俺はため息を吐きながら告げる。

 ナギトが視線を向けた先では、街灯が静かに夜闇を照らしていた。




「────今何時だ、ノワ子」

 核心的なその言葉を口に出す。

 俺の言葉に慌てて、スマホを取り出したノワ子は画面をつけて驚愕する。


「えーと、あ、朝七時────あ、」

 ノワ子もその事実に気がついたようで、口を開けていた。


「……一難去ってまた一難ってか。笑えねぇ冗談だ」



 静かに、だが確かに夜の闇が彼らを見下ろしていた。

 スマホの時計はナギトもノワ子も同じ七時を指し示してしている。

 ()()()()()()()()()()()で、夜とも言えるこの暗さは明らかに違和感だ。


 それどころか、携帯は圏外であるが、内臓の電子時計も狂うはずもない。

 二人とも同じなので、同時に機械の故障などは考えられない。



 唖然とする一同を横目に、ただ夜は彼らを嘲笑うようにその色を深めていくのだった。


〈Tips!〉

・ナギトの過去について

 彼のもっとも愛すべき中学時代であり、黄金時代と言ってもいい時代。

 ある少女とナギトが出会い、親友になっていき、世の中の理不尽や悩み事を解決していた。

 様々な陰謀が渦巻く都市で、様々な個性豊かな仲間と共に日本中東奔西走!

 要するに、ぼくらのシリーズみたいなやつです。


 正直、この設定考えた奴を懲らしめてやりたい。

 ただでさえ過去編とか辻褄が面倒くさいのに、絶対書きたくない。

 現実でそんなファンタジー活劇みたいなもの絶対無理!

 作者がトチ狂ったら書きます。

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