07「──君の声がしたから」
連続投稿です。
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「────ぁ」
それは声のない悲鳴だった。
それはたった一つの願いだった。
それは、どうしようもないあがきであった。
────わかっていた、これまでさんざん命をうばってきたのだ。いつかはこうなると思っていた。
それでも、そのときが来たらけっきょく悔しいものなのだな。と、われながら他人ごとのように考えていた。
世界はだれにでもびょうどう、しぬこともしなないことも。でも、世界はわたしにふびょうどうだった。
わたしがものごころついた時には、戦場にいた。
ただの戦争ではなく、ただの戦場でもなかった。
そこは、赤子にすら見むきもしない兵士やゴーレムがそんざいする場所であった。
百年せんそうとよばれたそれは、泥沼のせんそうであった。
戦場には他のくにの英雄がいて、あばれていた。せんそうのルールもなくなり、戦争がくにの目的になってしまう本末転倒のせんそうがわたしをうんだ。
あかごのときから戦場にいた、けれどしななかった。死ねなかった。わたしの能力のせいだった。
わたしはなんどもしんで、なんども生きかえった。
だれもわたしをみてはくれなかった。
なくことも笑うこともできずに、毎日死んでいた。
三歳ほどで、ものごころがついた後はさらにじごくだった。
何をしようと踏みつぶされ、まきこまれ、ながれだまで、死ぬ。しんでから、またしぬ。そのくり返し、死とさいせいのなかで────
────しにたくなかった。
────痛いのがいやだった。
────さびしかった、だれかにみてほしかった。
でも、かなわない。なら思わないほうがらくって気づいた。
それから、すこし楽になった。
なにもおもわない、無になってころされる。
ころされて、ころされて、ころされて、ころされて、ころされて、ころされて、ころされて、ころされて、ころされて、ころされて、ころされて、ころされて、ころされて、ころされて、ころされて、ころされて────────
──ふと、殺してみた。
気まぐれで、ぐうぜん見かけただれかを殺してみた。しななかった、痛くなかった、わたしははじめてすこしだけほっとした。
だから、近づくにんげんはだいたいころした。近づいてこないにんげんは、ころさない。
えいゆうがいた、まわりにそうよばれてたから、知った。わたしをころしてきた、なんども。だからなんとか考えてころした。
つよそうなぐんたい?がいた。じょじょに削ってころした、おひさまがなんどもしずんでのぼって、なんとかころした。
わたしをせんじょうのてんし、っていうにんげんがいた。にげたからころさなかった。
わたしをねらって、いろいろなにんげんがきた。なんどもころされたけど、ころしかえした。
ころして、ころされてただそのときだけが、わたしをだれかがみてくれる。しぬときはいつでもみてくれる。いたくもない、しにもしない、だからころす。
うれしくも、たのしくもなかった。
ただ、あたりまえなだけ。
──────そして、せんそうがおわった。
くにがほうかいして、戦場にはだれもいなくなった。ころし、ころされ以外のはじめての時間……………なにをしていいかわからなくなった。
ぐうぜん、そだての親にひろわれて、リティアに出会った。そこからすこしづつ、世界のことを知っていった。
文字のこと、言葉のこと。敬語は難しくてわかんなかった。料理のこと、食べもののこともそだての親に学んだ。殺し、殺され、そんな輪の外側にあるそれに触れて……私はただ戸惑っていた。
確か、そんな私にも国が任命した仲間もいた。
初めて、私にできた仲間だった。
自分のいる国を守るために彼らと共に戦ってきたはずだ、そう覚えているのだけれど。
──────この世界に来てから仲間の記憶も曖昧で、おもいだせない。
私は、どうすればいいだろう。
怪我を負ったわたしは、もう仲間に会えずに死ぬのか。
このまま、私は本当に死ぬのが嫌なのだろうか?
わからない、何もわからない。
でも、少しだけわかる楽しみも理解している。
だから、死ぬのは少し名残惜しい。
けれど、死にたくないって思えるくらい私は、生きてこなかったのかもしれない。
もう少し、きちんと生きていれば……誰かを殺す道を選んでなければ……
そして、私はもうすぐ死ぬ……何もできないその間、夜空に輝く星の光を、私はただ眺めていた。
────あの時と同じ、誰にも聞こえない、悲鳴を上げながら。
◆◇◆◇◆
〈二〇二五年 七月二十四日 御加実市 御加実第一高校 校門前〉
「──────」
視線の先に、〝それ〟はいた。
あの時、あの場所で助けてくれた少女が少し先で、暗闇に紛れるように横たわっていた。
あの白銀の肌は、赤い泥のような血液に染められてしまっていた。青いモヤのよう何かが彼女を包んでそれを治そうとしているが、うまくいっていないようだ。
側には既視感のある妖精が飛んでいた。しかし、それも止まっていて、彼女が死にかけていることがわかる。
俺は、咄嗟に足を止めて、その光景を見てしまったことを後悔してした。
目を逸らそうとするが、なぜかできなかった。
彼女を視界にとらえていると、ふと彼女が少し起き上がって、こっちを見た。
────に、げ、て。
固まった口を無理やり動かし、口パクでそう言った彼女はそのまま、また倒れてしまう。
なぜだ、どうしてあったばかりの人間にここまでするんだ。
彼女を可哀想に思ったり、不憫だと同情したりなんかしていない。
ただ、『なぜ』という疑問が頭の中に居座った。
「────ナギト?」
背後からノワ子の声がした。
この状況で突如立ち止まった俺を不思議に思ったのか、声をかけてくれる。
しかし、それに反応することはできない。
彼女は見ていなかったのだ、俺とノワ子を助けてくれた彼女のことを。
────助けたい。
ふと、自分にもたげた感情を必死に堪えた。
そんなことはできない。
ここで行けばのノワ子はどうなる?彼女を危険に晒すかもしれない。
今日、会ったばかりの少女を優先して、彼女を置いて行くなどできるわけがない。
そもそも、彼女は助けを求めているのか?
実はやられたフリをしているだけかもしれない、自分の取り越し苦労かもしれない。
──────そうやって、自分の中で無理やり言い訳を作っていく。
第一、彼女のところに行ったとして俺に何ができる?
ただの高校生である……俺には何もできない。
彼女が、逃げてと言っているのなら……そうするのが最も彼女のためになるのではないか?
わかっている…………本当は彼女のことを案じているからではなく、ただ自分のために言い訳していることを。ただ、自分可愛さに逃げ出したいと泣き喚いているだけなのだと。
それが正しいかそうではないかと問われると、正しくはないけれど仕方がないと答えるだろう。
どうしようもない自問自答、ただ仕方がないで片付けてしまえる問題で────
『──それでも、私は諦めたくない。仕方がないで終わらせたくないから』
────誰かの声がした。
親友の言葉だった、中学の時にやんちゃしていた俺たちを引っ張っていたのは彼女だ。
いつも、誰かの問題に首を突っ込んで、アドリブで解決してしまうようなとんでもない人間だった。
理不尽を許せず、そして初対面の人間でもすぐに仲良くなって助けてしまうような超人で......
────そんな彼女はもう、どこにもいない。
そう、俺たちの快進撃は中学でおわり、高校に入る前にもう解散してしまった。
親友の言葉をなぜ思い出したか、今更理解できた。
少女と親友は似ているのだ、初対面で知らない誰かを助けてしまうところや、無茶をやるところも。
────だから、俺は後ろ髪を引かれているのだ。
あの声にならない『にげて』という叫びだ。
誰にも聞こえない、あの時は聞こえないフリをした少女の声が俺の足を弱い手で引っ張っている。
俺には別の声に聞こえた、助けを求めているような気がした。
────ああ、クソ。俺はなにを考えてるんだ。
「すまんノワ子、先に出といてくれ」
「──ちょ、盟友っ!?」
ゆっくりと歩き出す、その理由を探しながら。
あの頃とは違う、俺にできることはない。
あいつと親友は違う。
助けられなかった後悔なんて、彼女を助けることで報われるわけがないのに。
俺の知っている物語の主人公なら、もっと気の利いた言葉で、理由で、助けたのかもしれない。
それでも言葉を抱えて走る、ただ感情のままに。
────わからない、俺は何故この場所に留まって何を思っているか。
────無駄かもしれない、みっともない行動だ。
──でも、
────それでも、
──────それでも、俺は。
息を切らしながら、少女へと駆け寄る。
そうして俺は、横たわる彼女へと何かを言うために口を開いた。
◆◇◆◇◆
これは────流石に駄目かもしれない。
妖精は状況を俯瞰しながら、そう冷静に分析した。
すでに倒れ伏していた少女──レイはすでに血を失いすぎており、体の温度もかなり下がっていた。
自らと彼女を繋ぐパスから伝わってくる情報に、妖精は生きているのが不思議なくらいの状況だ、と思考する。
彼女には生きてもらわねばならない。
それが、私の唯一の願い。
ただ、おそらくだが、死の心配をする必要はない。あの女魔術師がレイの身柄と引き換えに治癒してくれるだろう。
問題はその後、レイは少なくとも厳しい立場になる。相手の狙いがわからない以上、どうなるかは未知数だ。少なくとも実力行使に出ている時点で、まともな扱いはされないだろう。
もしかしたら、彼女との契約を切られて離れ離れになってしまうかもしれない。
それは困るのだ、目の前に血濡れの少女、しかしそれでも妖精は冷静に務めて分析する。
しかし、打開する方法がない。
この状況をひっくり返せるだけの、資源も能力も時間も何もかも足りない。
せめて、彼女の贄となる魂でも────
「────俺にできることはなんでもする、だからお前を助けさせてくれっ!」
そして、都合のいいことに、妖精の望むものが自ら現れた。静かに、妖精はない顔で微笑んだ。
◆◇◆◇◆
『────君、名前は?』
「……凪斗、間下部凪斗。」
『──そうか。本当にいいんだね』
妖精は即座に判断する、自身の目的はレイを助けることだけだ。
レイの手前、言葉には出せないが目の前の青年安全など二の次。
「────、だ、め」
血濡れの少女は身じろぎし、拒否の言葉を血のように吐く。
助けられることが嫌なのか、それとも、自分が見返りを求めて彼を助けたようにされるのが嫌なのか。
おそらく両方であろう。
『レイ、君の言葉は今は無視させてもらう。事は刻一刻を争う、彼の意思を尊重するべきだ』
妖精は、ナギトのことは当然考えていない。
今はレイが納得できるための問答をしているだけにすぎなかった。
「いや、つっても俺に何かできることあんのか?治癒の術とか使えんぞ」
あえて冗談を言ってみるものの、場違いと思い自重する。
とはいえ、この妖精が言うように何かできるとは思えない。
そんなことを言えば、ナギトは何故ここに来たと言う話になるが自らの矛盾を無視して、ナギトは続ける。
「──でも、やれることがあるならなんでもやる。やらせてくれ」
そう、ナギトは迷いのない表情で口にする
先ほどとは違い、確かにナギトの中には熱いなにかがあった。
もう戻れないからか、それともやけっぱちになっているかのか……だが、そのどちらでもないものがナギトの中にあった。
「…….なん、で」
レイは血反吐を吐いて、言葉を出した。
そこまで聞きたかったことだったようだ。
妖精も、レイが拒否する理由をなくすために特に止めなかった。
「────お前が、助けてほしくなさそうだったから。だから、助ける。お前みたいな自分を蔑ろにする奴は嫌いだから」
自分でも意味不明な理論だとナギトは思った。
けれど、ナギトがこの少女へと向ける感情は、言い難いものに変わっていき彼の中に渦巻いている。
『────私には理由なんてどうでもいい。君がレイを助けたいということは確かなんだね?』
「レイ……そうだ、レイを助けたい。あん時に助けてもらったしな」
レイという名前を聞き、それを頭の中で反芻する。
妖精の言葉は、最後通告のように思えた。まるで、これから待つ何かを示唆するようであった。
「────」
レイはなにも言わない。言う気力もないのか、ナギトの返答を聞いてから黙っている。
『では、君が彼女を助けるたった一つの方法を言う、それは────君の命を捧げることだ、それ以外にレイを助ける方法はない』
その言葉にナギトは胸が締め付けられるような痛みに襲われる。
そして、今更ながらに気づいてしまう──
────救済の代償はあまりに重いことに。
◆◇◆◇◆
『──君の命を代償に捧げることだ。それ以外にレイを助ける方法はない』
妖精は平坦で抑揚のない声で言う。
俺はその声に返答することができない。
命を捧げるということ。すなわち、自身の死を意味している。
確かに、なんでも捧げる気概で来た。
実際になんでも、それも命を失うと言うことは俺は考えていなかった。
ただ、考えていなかっただけで……
「……ああ、構わん。命でもなんでも好きにしろ」
正直、俺は正気ではないと思う。
むしろ今からでも逃げ出したい気分だ……だが、少女のためにも後に引けないのだ。
ただ、彼女を助けたい……見ず知らずの人間を助けてしまえるような少女を。
哀れみでも、憐憫でも、恩返しでもない。
目の前の人間に腹が立っているからだ。
何故、他者を助けて自分を勘定に入れない。
何故、自分だけ傷ついて、助けてもらった他者が傷つかないと思わない。
何故、何故、なぜ────
────だから、俺はお前と同じ事をする。
一種の意趣返しのようなもの、矛盾は承知の上だ。
「......っ、たすけ......てなん、てっ!」
血濡れの少女は鮮血を吐きながら、そう突き放すように口を開く。
「そうかもな、でもあの時──」
──あの時、俺に逃げるように促したお前の目は。
何かを求めるような、諦めたような目は。
そして、それを見た俺は......
「──お前の声がしたんだ。だから......」
勘違いでもいい、嫌われたっていい、独りよがりの偽善だっていい。
幼馴染もういないのだ、俺のせいで何もかも終わってしまった。
それでも、俺は今度こそ、その声に気づいてやりたいから。
「まぁ、あの時助けられてなかったら死んでたしな。もっかい死ぬくらい構わんよ」
誤魔化すように、強がりを言う。
『──どちらにせよ、だ。君は倒れ伏し、彼が五体満足で立っている。生かすも殺すも彼の自由……死に体の君は口を挟めない、違いないだろう?』
「────────」
観念したのか、少女は口を閉ざす。
俺も、してやったり、と言う顔で虚勢を張るように笑った。
「んで、一応聞くが俺は何をすればいい?」
命を捧げる覚悟は、もう決まっていた。
俺は、ただそれに殉ずるだけだ。
『──何も。そこに立っているだけでいい。一応簡単の説明すると、レイの能力は他者の傷から魂を奪う《吸魂の加護》そして、魂を魔力に変換して治癒する《廻魂の加護》この二つだ』
なんとなくは理解できる。
相手に攻撃すると自分が回復するドレイン能力のようなものか。
「ただ、今はかなりその能力が低くなっている。それに戦場でもなければ、魂を傷から奪ってもそこまでの魔力を変換することができない」
レイは戦場にいたのか。
だから、独特の雰囲気をレイから感じたのだろう。
「今、この重症を治せないようにだ。だから、君とレイの間に無理やり供給契約を繋ぐ。そして君の魂をレイに移し替えて、能力を直接働かせる」
俺とレイを直で繋いで、レイの加護の動力たる魂を彼女の体に強引に入れる。
そして、弱ったレイの能力を無理やり稼働させようとしているのか
「────わかった、やってくれ」
すでに、引き返すと言う選択肢はない。
無論、後悔はないわけではない。
頭の中に走馬灯のように様々なことが浮かぶ。
もう、妖精は再確認はしてくれない。
『《────彼方のそら 我、万象を乞い願うもの 我、万象に希うもの そらの理よ 我が願うままに 彼の者らに道筋を────》』
詠唱は緩やかに、流れるように、妖精から発せられる。
詠唱が始まると、幾何学的な模様の魔法陣が妖精とレイを囲むように出現する。
ある魔法陣は歯車のように回り、ある魔法陣はコマのように回転し、様々な魔法陣が動き、複雑に絡み合っていく。
一種の芸術作品のように思えるその光景を目の当たりにした俺は、呆然とする。
そして、全ての魔法陣が時計のように噛み合っていく中、あたりの光が大きくなったゆく。
確かに、俺の目にも言葉に表せない〝ナニカ〟が膨れ上がっていく感覚がした。
全てが満ちたとき、忙しなく動いていた魔法陣が突如として停止する。
────そこまで見ていた俺は唐突に目眩と眠気に襲われて、膝を突いた。
すでに死に近づいているのか、意識が朦朧とする。
咄嗟に手をつくも、身体を起こしていられない。
すぐに、地面に這いつくばることになってしまう。
死の瞬間はやはり呆気ないというか、むしろ苦痛がないだけマシなのだろうか
ノワ子と洋介、母さんにアキ……勝手な理由で先立つのを許してくれ。
ふと、遺していく人への罪悪感が浮かぶ。
だが、ふとレイを見て、死ぬ寸前になって少し頭が晴れる。
誰かのために死ぬなら悪くない。だからこそ──
────後悔はない。
少なくともこれは無駄じゃない、レイを見てそう思えた気がして……頭が朦朧とする中で、心配させまいとレイに微笑みかける。
彼女はどんな表情をしているのか、それすら分からなくなっていく。
そして、俺は......静かに目を閉じた。
『────これは、なんだ?』
────妖精の驚愕の声はついぞ耳に届かず、彼は深い微睡の中へ落ちた。
◆◇◆◇◆
「───はぁ、なんだ手前ェ……変な《術式》してんなァ?」
所変わって校庭、女魔術師同士のプライドバトルが繰り広げられる中、ライカがぼやく。
それは対峙している魔術師に対する呆れと、苛立ちから口にした言葉だ。
ただ、その言葉とは裏腹に、目の前のゴスロリ女は強かった。
「──死ぃッ!!」
殺意をむき出しにして、こちらの言葉に返答することなくチェーンソーをやたらと振り回すゴスロリ女。
大振りのそれを回避しつつ、チェーンソーを弾き飛ばし──しかし、本人が回転してさらにチェーンソーでの連撃を繰り出す。
(──上手ぇ。技も駆け引きもへったくれもねぇが、本能だけで補ってやがる)
たまらず、後方に飛び退く。
「逃ぃげるなァ!!」
ゴスロリ女は綺麗な顔を歪めてとんでもない形相で、これ幸いとチェーンソーを前に突き出して刺殺せんと突貫する。
だが、ライカの退却はあくまで相手を動かすための行動だ。
「《風閃》」
彼女の背後に隠した掌に緑の光が灯る。
技の詠唱も乗せた、高威力、小範囲の風の機雷がゴスロリ女の背後で炸裂し、彼女を切り裂いた。
「ああああああァッッ!!!」
しかし、雄叫びを上げた彼女は全てをかなぐり捨て、肉薄する。
その光景に驚きつつ、自らの《風閃》の風で体を動かし、回避する。
(何よりも厄介なのが、こいつが怪我やら傷をものともしねぇってことだ。それに、肉や骨が見えて、火傷負って、土塊が刺さっても、こいつのパフォーマンスが落ちやがらねぇ)
最も厄介なのが、死兵のごときその立ち回りである。死に至るはずの重傷も、彼女は意に介さない。血すら流さず失血も狙えない。
「厄介極まりねぇな、お前ェ!」
「殺す殺す殺す殺す殺スッ!!!」
殺意を口から出し、ゴスロリ女はチェーンソーで攻撃を連打する。
ライカはそれら全てを拳や掌底で受け流す。
だが、ゴスロリ女の肉を切って骨を断つような猛攻により、そのまま力強い一撃でライカの胴が横薙ぎに両断されてしまう。
──しかし、ゴスロリ女の背後から回し蹴りが繰り出される。
先ほど殺したはずの敵に、背後から攻撃されて混乱したゴスロリ女は、咄嗟に地を転がり退避した。
タネは単純、土人形による身代わり、だ。
(アイツの真似をした魔術だがァ、案外使えんなァ……ん、てか──)
「……どうなってんだよ?それ」
ライカは目の前の奇妙な光景をつい指摘する。
彼女が口を開いてしまうのも仕方がない……ゴスロリ女の身体は首がへし折れている状態で、どう考えても即死しているという風貌であったからだ。
その状態にドン引きしつつ、ゴスロリ女は妙なことを口走る。
「......動きにくいわね、〝リセット〟しようかしら」
すると、ゴスロリ女はチェーンソーのエンジンの紐を引っ張る。
そして、驚くことに体の状態が時間を巻き戻したように治っていき、傷のない戦う前の状態になっていく。
(おいおい、継戦能力はアイツ並みかよ!……ま、実力はアイツに遠く及ばねぇけど)
「マジかよ、めんどくせェな」
「続きィッ!!」
そして、意気揚々とゴスロリ女はこちらに突貫し──────
「────なんてなァ?」
そのまま、隙だらけで襲ってきたゴスロリ女の足をひっかける。流麗な動きで顔面を蹴ろうとするが、腕でガードされる。予測通りの動きに、ライカは浮いた彼女の空いた脇腹へと手を伸ばす
────出力最大、放出方向変換。
「《──風閃》ッ!!」
人差し指を銃に見立て、指先に灯るのは緑の光であり、その先に極小の機雷がゴスロリ女の超至近距離で放たれる。
方向を絞ったそれは凄まじい威力でゴスロリ女を吹き飛ばし、校舎の壁を豪快に突っ込ませる。
「そのまま、帰ってくんなよ」
吹き飛んだ彼女から視線を切り、ライカ余裕の笑みを浮かべてそう言い放った。
どれほど面倒くさい敵でも、吹き飛ばしてしまえば同じだ。
「とりあえず、アイツを────」
ひと段落ついた後、あの少女がいる方向に顔を向ける。
想定外の邪魔が入ったものの、万事上手くいった。
少し、名残惜しいがレイを──
──────すると、その方向から凄まじい魔力が迸った。
「────マジかァ、面白くなってきたぜェッ……!」
そして、先ほどのつまらない戦いなどなかったかように、彼女は笑みを深めた。
◆◇◆◇◆
〈御加実第一高校 屋上〉
──────屋上に全てを見下ろす黒い影が一つ。
ただ、静かに見守るそれは自らの端末にメッセージが来たことを確認して、端末の灯を落とした。
それは、全身を黒に包み、夜に紛れるような風態であった。
たった一つ特徴を挙げれば────
──漆黒のフルフェイスヘルメットを被っていることだけ。
そして、それはただ静かに舞台の推移を見守るのであった。
〈Tips!〉
・儀式級魔術について
儀式級魔術とは、魔術をより高度にするために開発された《術式》とは真逆を行く、魔術技法の一つ。
文字通り、魔術の発動に儀式を用い、煩雑に複雑に、多大な魔力と生贄を使う面倒な手法。
妖精が使っていたのは、儀式級魔術を組み上げるだけ組み上げ、それを棄却して儀式を暴走させる強引な裏ワザ。
レイを直すために使ったのはかなり小規模な儀式級魔術であり、自らの大切なものと他者の大切なものを代償とした簡素な儀式。
されど、本来の儀式には足りないため、成功率はかなり低い、いわば賭けの魔術でもあった。
魔術師にとって儀式級魔術は神に祈りを捧げ、奇跡を呼ぶほぼロストテクノロジーみたいなもの。
【空想現界人】であるレイたちであるからこそ利用で来たとも言える。




