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03「魔術師たちの夜」

〈二◯二五年 七月二十三日 御加実第一高校前の墓地〉

 私立御加実第一高校の向かいには、何故か墓地が存在する。

 何故か日本式ではない洋式の墓場であり、そこに夜な夜な霊が出没するというのが、ミカコウ七不思議の一つである。

 おそらく、何かにつけてオカルト(肝試し)好きな我らが先輩と一緒に言ったときに、何故かお化けのコスプレをしてきた先輩の目撃談であろう。

 ただ、後方を山に前方を墓に、囲まれたこの立地になぜ高校を立てたのか。

 それは数々のオカルト(事件)を解決してきた(当部比)オカルト部ですら把握していない。




──────そして、闇夜に染まった霊園に少女が一人佇んでいた。



 その美貌と、生気がない無表情は見るものが見れば、七不思議が一つ増えるであろう。

 しかし、その場には誰もいない。

 夜の霊園だから、ということもあるが、周囲の民家にも光がともっておらず、人っ子一人いない。



「──────気づいてるから、早く出て」

 おもむろに口を開いた少女、誰もいないはずの辺りに声をかけ始める。

 幽霊然とするその立ち振る舞いと裏腹に、一つの墓石から、影が這い出てくる。



「うひゃー、なんでバレちゃったんスかー?」

 口に傷のある金髪の男が、能天気な口調で傷を書きつつ、そう言った。

 その手には彼の身長よりも少し短い赤く塗られた槍があった。

 

「気配は完璧、魔力?もたぶんない。けど──()()()()がした」

「う、消臭剤でも買っておくっスかね~」

 レイは殺気を抑えていても、人を殺したことのあるものに見られているという感覚のことを言っているのだが。まあ、的外れを指摘する義理はない。


「誘い込んだのに、奇襲もない」

「なんとなく、()()()()()は効かない気がしたんスよねー」

 金髪男は、あっけらかんとした表情で言う。

 その言葉で、レイは目の前の人間を自分と同類であると判断する。

 少なくとも、勘が鋭く厄介なタイプであると。


()()()()()()()けど、助けてもらう?」

「そりゃ、やってみなきゃ分かんないっスよ。それに、自分はただの先鋒っす」

 主語や詳しい言葉を抜いた会話、それでも伝わる。

 まさしく、同類だとレイは思った。

 しかし、彼と自分では根本的に違っている点がある。



──────死んでもいいと思っているかどうか。


 彼はそう、自分は違う。




『──────』


 突如として、二人の間に言葉がなくなる。


 軽口のように、飛ばし合っていた互いの問答は必要数を超え、消失した。


 両手で持った槍を構える金髪の男は笑みを湛え、レイを見据える。

 対するレイも、地を踏みしめる力をほんの少しだけ込め、戦闘態勢に入った。

 恋人の如く見つめ合う両者の瞳に映るのは同じく、この後の逢瀬(殺し合い)のみ。


「──────ッ」

 短く息を吐いた瞬間、緩めていた全身の筋肉を引き締めた金髪男は、赤い槍をレイへと突き刺す。

 引き絞られた弓矢の如く、襲い掛かった紅槍をレイは拳でいなす。

 火花が散り、おおよそ手から出る音ではない金属音が響く。

 槍を持ち換えて、斜め上に薙ぐ金髪男、それに呼応し槍の側面を叩いて弾くレイ。

 間合いは一寸、しかし金髪男は合間を拾った小石の投擲で埋め、同時に上段から刺突をくり出す。

 


「──────」


 一息つく間もなく、レイは虫を払うように、槍をさらに上へ弾く。

 それを利用した金髪男は、穂先を逆転させ、持ち手で打ち払う。

 それに合わせて膝を上げたレイは槍を脛で受け止め、膝を地につけて足払い。


 咄嗟に跳んだ金髪男は、地に手を尽き逆立ちしたレイに倒立蹴りをくらわされる。

 蹴りを槍の腹で受け、上に衝撃を受け流した金髪男は落下の運動を利用し、凄まじい速度で槍を振り下ろす。咄嗟に回避したレイの代わりに墓石が微塵となり吹き飛ぶ。

 

「死者への冒涜っスよ!?」

「ん、あなたのせい」

 一瞬の攻防の隙に軽口をたたき合う二人、瞬時に跳んだレイは金髪男へと飛び膝蹴りを、金髪男は棒術のパフォーマンスのような動きで、それを受け流し槍を回転するような動きで、レイを横から薙ぐ。

 

 遠心力を利用した動きのそれを、拳を打ち合わせ、逸らす。

 凄まじい、槍を使った連撃と、それに合わせた演舞の如き拳の舞。

 はたから見れば、曲芸のような攻防も、より極まった技術の削り合いであった。


 実力は五分、いや目の前の少女の方が少し優勢だろう、そう金髪男は予測する。

 しかし、それでもこちらは槍で、あちらは拳。それならば、相手の方が不利なのだ。

 事実、レイの手は槍の切り傷で、真っ赤に染まっている。


 このまま続ければ、やがて限界が来る。

 いくら鉄のような拳や、受け流しの技術を持とうと、得物がないのならばこちらが優勢────


──────そう考えた瞬間、レイの拳が少しづつ、治癒していく。


「(回復!?魔力の自然治癒ではなく、何らかの──────)」


 驚愕に目を見開く金髪男は、眼前に迫るレイに思考をかき消される。

 しかし、それでもそれは悪手、槍使いの金髪男の間合いに何ら気兼ねなく入ってくるなど自殺行為。

 思考などなくとも、金髪男はレイの腹部へと槍を突き刺すことぐらいできる。


 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まるで、痛みなどないように。

 まるで、天井から糸でつるされた肉人形のように。

 赤い血が、赤い槍から滴り落ちる。


 そう、彼女に恐れなどありはしないのだ。


 それに気づくと同時に、金髪男は串刺しにされた少女に体を掌で触れられる。

 勢いもなく、力など籠っていない掌底。


 しかし、瞬間触れられた部分から凄まじい衝撃が発せられ、金髪男は槍を手放し、吹き飛ぶ。

 中国拳法、魔術師風に言うのなら、西方諸国の術技が織り込まれた掌底。


 吹き飛んだ金髪男は、土煙の中で、口についた血か土かもわからないモノを拭う。


 

 目の前の、年端も行かぬ少女は、自分よりも強い。

 金髪男は思う、彼女は自身と同類である。

 生まれた頃から、死と殺しが隣人であった彼と同じ、即ち同類(こっちがわ)である。


 何十、何百では生ぬるい、何万か、それとも桁違いかの人を殺してきたのだろう。

 例え、有利なこの状況でも、全く気を緩めず、淡々と人を殺す瞳を向けてくる。

 どれもほどの地獄に身を置けばそのような人間になれるのだろう、想像力の乏しい金髪男にはわからない。


 しかしそれでもわかったことはある。


「…………ふぅ、凄いっスね。これが、空想現界人の強さっスか」

「──────」


 目の前の人外(空想現界人)には勝てない。

 そして、強い。もしかすれば、魔術師の中でも上澄みの自分の主に並ぶ程に。


 レイは腹部に突き刺さった槍を抜き、そのまま放り捨てる。

 そして、まるで機械のような瞳が言外に呟く────だから、勝てないと言った、と。

 必死の攻防の末、傷をつけた腹部の穴でさえ、すでに塞がりかけている。


 そう、金髪男の全てをレイは帳消しにしたのだ。


 しかし、それでも金髪男は笑みを崩さない。

 それは、自身よりも強き者へと送る称賛か。

 それとも、自らがとんでもない相手と死合っている武者震いのような類か。


 否、それは強者を前にした、喜びであった。

 こんな強き者を相手にでき、そして自らの糧に出来る。

 そう、相手が強ければ強いほど、戦えば強くなれると思えるのが金髪男であるのだ。


 そう、それは──────分不相応な獣の摂理。

 しかし、それでも本気で実践するのだから彼はここまで強くなれたのだ。



「──────ノってきたっスよ!!」



 たのしい。

 ただ、己の力のみで、相手と一対一で比べ合いをすることが好きだ。

 この湧き上がってくる感情に理由はない

 彼のソレは、ただ己が強いと証明がしたいだけの、まさしく獣の摂理である。


 

「──────いいから、来て」

 そして、獣の如く笑う狂喜の男を、血の如く赤く迸る可視化された魔力(殺意)を見て、少女はそれでもただ無表情で、獣を誘う。

 例え、その槍に己を殺せるほどの、殺意が塗りたくられていても。

 この戦いの本当の狙いが、何であっても。



「──────《術式展開》」

 笑みを湛えたまま、レイの知らない宣言と同時に、これまでとは一線を画す速さの刺突が放たれる。

 同時に、レイはその愚直すぎる一撃に、先ほどと同じように横に跳んで回避しようとする。

 当たるか当たらないかの距離で。

 少しでも気を抜いていたら刺し抜かれていただろう、しかしそれでもレイの反射神経と身体能力によって彼の渾身の一撃は回避され────────




──────そして、彼女は見た。直角に軌道を変え、自らの懐を刺し穿つ、赤い槍を。




──────そして、彼は見た、自らの槍が確かに敵の血を吸って鈍く閃くのを。






──────そして、確かに刺さっているハズの槍の()()()()()()()()

 


 直後、金髪男の視界は暗転する。

 場面が切り替わるように、一瞬のブラックアウトとその後の槍に刺さっていた筈の少女が網膜に写される。


 攻防は一瞬、しかし結果は明瞭であった。

 自らの渾身の一撃、真っすぐに、しかし()()()()()()()()()()()一撃は確かにレイを貫いた。


 だが、それは全て幻影であり、本物は自らの顎を打ち抜き、軽度の脳震盪を引き起こした。

 相手に立ち向かおうとするが、意識が朦朧とし、立てない。

 結末は単純、しかし両者の差は歴然。

 しかし、それでも彼は笑みを絶やさない。

 



「────本気で、当たってあげられなくて、ごめん」

 

 本気ではない、その言葉に金髪男はさらに笑みを深める。

 これを食らえば自分はもっと強くなれる。

 だが、それでも現実は残酷であり、楽しい時間はすでに終わりを告げようとしていた。


 そして、少し悲しそうに謝ったレイは、拳を振りかぶり──────








『──まァ、及第点をくれてやってもいいぜ?』


 少女の脚元に咲き誇るは爆炎の花、それは新たなる戦いの開戦の合図でもあった。

 


◆◇◆◇◆




──────場面変わって、夜の校舎内。



 学外で、血を血で洗う戦いが繰り広げられる中、私立御加実第一高校ではオカルト部の面々が肝試しを行っていた。


 心霊っぽい現象が起こったのは最初だけであり、台風の目の中にいるような静けさが彼らの肝試しを彩る。

 とはいえ、本人たちに言わせればあの『先輩』の用意した舞台であるので、何も起きないことに安堵とこれから起こる嵐の前の静けさに戦々恐々していた。


 というか、能天気なノワ子や腹に一物抱えた陽介は別にそうでも無かったが、ナギトは今か今かとスポットを巡る旅に覚悟をしていたのだ。



 しかし、予想外に何も起こらない。

 あの女子トイレの一件であっても、ただの故障のようであったのだ。

 流石にここまで何も起こらないと、先輩もついに心を入れ替えたのではないかという憶測がナギトを席巻していた。


 だがしかし、ナギトの性格的に人は変わらないという根本思想があるため、妙に信じれないことも確かであった。



「──────何も起きないまま、部室前までついてしまったね」


 これまでしていた雑談を一度切り上げた陽介は、振り向いてこちらに視線を向けた。


「ああ、おっかなびっくりで、やってきたものの、特に何もなかったな」

「何を言っている!校長室には七不思議が居たではないか!!」

 そう、自らの薄い胸に手を置き、舞台女優のようにノワ子は言った。


「いや、確かに校長室の人形遣いはいたが、あれって校長だぞ?」

「え?いやいや、そんなはずはなかろう!」

 確かに、なんか仮面やらタキシードを着ていたが、あれは間違いなく校長であった。


「そうだね、校長は重度のオタクだけど、家では奥さんが気持ち悪がってフィギュアとかのグッズは置かせてくれないらしい」

 陽介は、軽薄な笑みを浮かべてそう解説した。

 ナギトもおおむね知っている情報は変わらない、校長は家で置けないフィギュアを代わりに校長室に置いて愛でているということだ。それと──────



「そもそも、それを考えたのは『先輩』で、だからこうやって深夜の校舎に忍び込めてんだろ」

「な、なるほどぅ……やはり、全ての黒幕(フィクサー)は先輩であったか……!」

 そう、彼女は得心がいったような顔をしていった。

 いや、確かにそうだが、そうでもないような………あの校長もノリノリで、コスプレしてたし。


「それにしても、いい人だったね人形遣いさん」

「ああ、あんな校長は世界で探してもいないだろ」

 こんな深夜に校長室に尋ねた俺たちを、歓迎してくれた。不法侵入を見逃しているのはどうなのだという話ではあるが。


 御加実第一高校の自由過ぎる校風は、明らかにあの校長からきている。

 本当に運営とか大丈夫だろうか、と自らの属している高校に危機感を覚えてしまった。





「中ボスの校長を倒し、我ら姫御一行は、ついに決戦の地にたどり着いたというわけか!」

 校長を倒した判定なのはともかく、ナギトにとってもある意味部室は決戦の地であった。


 これまではほぼ何も起こらず、校長室以外だと、保健室でなんかノワ子が『触るなこのけだもの!?』と罵ってきたくらいだ。やけに顔を紅くしてたから体調が悪いのかと心配しただけなのに、どうして。まあ特筆すべきことはこれぐらいである。


 ナギトは思う、何も起こらなすぎだと。

 それでもあの『先輩』案件なのだ、ここから百鬼夜行が開始されてもおかしくはない。


「やっぱ帰らねぇ?超絶的に嫌な予感がするんだが」

「そうは言っても、せっかく先輩が用意してくれたものなんだから、行かなきゃね?」

 重い鉄扉の前でそうぼやくナギトに、陽介はさらに笑みを深めて促す。


「うぬ!何が待ち受けていようと、我が盟友ナギトとついでの陽介もいるではないか!」

「むしろ、陽介の方が役に立つのでは?まあともかく、いくしかないか」


 しかし、それでも戸惑ってしまう。

 これをしてしまえば、何かが変わってしまうような気がして。


「────セーブしたかい?」

「ゲームじゃねんだよ……………まあ、なるようになるか」

 そして、ゆっくりと、扉を開ける。

 重くそして古い扉は金属が詰まったような開閉音を上げ、中身を露わにする。


──────しかし、そこには何も……………ない。



「──────それでも、踏み込む覚悟はしておいた方が良い。これが最後なんだから」


「────?、それはどういう………」


 まるで、敢えて遅れさせ、問うことを省くような陽介の発言と同時に異音が響く。




──────ドン、という音がどこかから遠雷のように鳴り響いている。


 そして、その音は少しずつ、不安を煽るように大きくなっていく。

 ナギトは耳を疑い、音のする方──天井を見上げる。

 鉄筋コンクリ製の天井が悲鳴をあげる。

 それは工事現場で掘削される音に似ており、鳴り響く音はやがて極まっていき──────




「──────ふん!おお案外脆いではないか。入口を見つけるよりも楽に入れたぞ!!」

 全てを壊す侵入者が、俺たちの前に現れる。


──────大量の降り注ぐ瓦礫とともに、それがたった一人の人間が成したことだと嫌でも分からさられた。





 啞然とする一同に、月明かりは照らされない。

 闇夜を晴らす、行燈はすでになく、ただ彼らの道行きを見守る者はいないのであった。






──────かくして高らかな号砲とともに、長い長い魔術師たちの夜が始まりを告げたのだった。




〈Tips!〉

・魔術について

 魔術とは、魔術師が魔力を使用して、現実に干渉する術である。

 その運用方法は様々で、作中のランスが使ったものは《展開宣言》という技術。

 自ら攻撃するという意思を敢えて、伝えることによって威力を伸ばす、または術式を成立させるもの。

 魔術の技法には大体こういう《枷》と《糧》という、自らを縛る理と代償を用意し支払う等価交換の理念で動いているものが多い。

 大体、〝誓約と制約〟〝縛り〟みたいなもの。

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