02「暗雲の中で躍る者達」
〈二〇二五年 七月二十二日 御加実市 郊外〉
都心部から少し外れた住宅街に、関西にチェーン展開しているファミレスがある。学生に優しい料金設定と大盛りの料理で近くの高校生がよく通っている店なのだが──
「本当に来るんすかね?」
「さあな。ま、アイツが約束を破るとは思えんが......」
──学生どころか一般人かどうかも怪しい二人組が行儀悪い体勢で、店内に居座っていた。
フランクな敬語の男はネクタイのないスーツをかなり着崩しており、長い髪は下ろしていて口元に傷があるものの容姿はかなり整っている。傷さえなければホストにも見えただろう。
そして、向かいに足を組んで座る女は、ショルダーベルトにレザーのコートを羽織り、袖を通していなかった。シャツのようなグレーの上着と真っ黒なスキニーを履いていた。美人と形容でき、吊り上がった目と冷静そうな表情が彼女の苛烈さと冷血を物語っている。
そんな柄の悪い男女二人が、注文もせずにファミレスでたむろしている。
休日に家族連れもいる店内で、真っ白な壁についた一つの汚れのように彼女らは向かい合っていた。
目立つ、しかしそのことにまるで興味のないように、彼女らは話を続ける。
「はぁ、アイツならこっからハメるなんてやりそうっすけど」
「ハッ、ありうるな。この店ごとドカンなんてことも......」
「物騒な想像はやめてくださいよ!?」
特に隠すこともなく、彼らは物々しい会話を繰り広げている。
男女はどう見ても堅気ではなく、どちらかといえば女マフィアと舎弟といった関係だろうか。
彼らの会話を聞いた店員は通報するか迷っていた。
しかし、その時、店に一人の男が入ってきた。
中肉中背で、学ランをきた快活そうな見た目、しかしその表情には落ち着きがあり、優しい笑みを湛えていた。
この店にはよく来るような学生だが、彼は迷いなく異質である男女へと向かった。
そして、本来であれば関わりの無いどころか、目すら合わせないような二人組に学生は話しかけた。
「──お久しぶりですね」
「おいおい、重役出勤たぁ随分と偉くなったもんだなァ?」
この店を利用している学生と同じ格好をしている彼は、舎弟の男の席の隣に躊躇なく座る。
旧知の間柄であろう、二人はしかしそれぞれ尋常ならざるオーラをまるで威嚇の如く放ち合っていた。
「ええ、まあ実際に偉くはなりましたよ。貴女ほどではないにしろね?────あ、コーヒー、アイスで」
偶然、通りかかった店員に、学生はそう注文する。
そして、彼は学ランを脱いで畳み、丁寧に膝の横へと置いた。
青い顔をして、注文にすら答えず頷いた店員は厨房へと引っ込んでいく。
「ハ、テメェの場合は上にヘコヘコしてただけだろ。なぁ、『約定』のリザロさん?」
「貴女こそ派閥の軍事部門は大変でしょう?幹部のお守りは特に、でしょう?『四色雷葬』のライカ=ティエリさん」
彼女が家名を呼ばれるのを嫌がっていることを知っていて、学生は敢えてその名で彼女を呼ぶ。
冷水が背筋に垂れたように、二人の周りの温度が急激に下がる感覚が当たりを包む。
…………一触即発、誰もがこの後乱闘になると固唾を飲んだ、その時──
「──お、お待たせしましたー!スーパージャンボデラックスパフェでございますー」
「お!これこれ、メニューで見てて気になってったんすよー!!」
目の前にドンと置かれた特大のパフェに、これまで黙っていたホスト風の男が目を輝かせて食べ始めた。その姿に上司であるライカと呼ばれた女マフィアが、ジト目で彼を睨んだ。
「…………おまえ、いつ頼んだ、そのでっかいやつ」
「ほれ、へはふはおひひいっすほー?」
頬いっぱいに入れたパフェのせいで、何を言っているか解らない部下にため息を吐く。
否、そもそもここに来た目的を忘れそうになっていたので、彼には感謝せねばならないかもしれない、とライカは苦笑いを浮かべる。
「──しらけちまった。まァ、内々で争ってる暇はねェな。戯言はいいから早く用事を話せ」
「こちらはやりあってもいいんですよ?けど、流石に一般人がいる中でそんなことやらかさないだけです。だからこんなところを密会場所にしたんでしょ?」
苛つくほどに、察しのいいリザロと呼ばれた男は怯えた店員の持ってきたアイスコーヒーを啜る。
魔術師ではない人間界の一般人がいる場所で流石に無茶をやらかすはずはないという目論見で、彼女は人のいる店を選んだ。
「……さァな、いいから話せよ。アタシらに用って訳でこの場を設けたんだろ」
ライカは自身を呼び出した張本人であり、自らと陣営を同じくするリザロへと視線を向ける。
最底辺の身分から、彼女と同じ隊を任される立場まで至った目の前の青年にしか見えない魔術師に目を向ける。
「ですね…………確かに時間は有限です、獲物に逃げる時間を与えない方が良い」
そう、彼の悪辣さを知る彼女の目の前で、魔術師リザロは嗤う。
ただ、自分も人の事は言えないな、とライカは心中で独り言ちる。
「へぇ?帝国財閥の主戦力である〈龍ノ牙〉を狩猟に使うたァ、もったいねェな?おい」
「狩るのは獣ではありません。貴女たちの欲しがる【空想現界人】です」
そうありえないことを抜かす、目の前の男に苛立ちを隠せずに青筋を立てて威圧する。
「その【空想現界人】は【ゲーム】とやらに隠れて、手が出せねぇんだ、知ってんだろ。それとも技術部門の言う《結界破り》をお前が持ってきたってのか?」
そう、ライカのいる戦闘部門〈龍ノ牙〉と違い、技術部門は門外不出の技術を扱っており外部との繋がりが限りなく薄い部門である。しかし、リザロのいる情報部門とは、少しだけつながりがあるらしい。
「いえ、どれも違います。私がお願いしたいのは、【ゲーム】に参加せずなぜかこちらにとどまっている【空想現界人】です」
──ありえない、そう喉から言葉が出かけたのを押し留め、彼女は言葉を紡ぐ。
「……本当なんだな?」
ここで嘘をつくメリットはない。彼女は戦闘と交渉で長年培った経験で、そう判断する。
彼女の鋭い眼差しに刺されたリザロは、全く動じずに見返した。
「──────ええ、〝約束〟します」
リザロは約束を違えない、それが彼女の所属する陣営でも知る人のいる暗黙の了解のようなものだ。
無論、彼が義理堅いという話ではない。
「仮に本当だとしても、何の見返りも無しでってことはないっすよね?」
頭脳労働が苦手で黙っていた部下が、協力の報酬につられて口を開く。
この槍バカは無駄に現金だ、しかしこういう時の嗅覚はライカを凌ぐかもしれない。
「ま、そう言うと思いまして......《結界破り》の件、こちらの部門に降りてきたら優先的にお渡ししようかと」
──妥当な線だ、ライカの属する陣営も一枚岩ではないのだ。
そして、帝国財閥以外の派閥も無論、この空想現界という災害に際してこちらに来ている。
【空想現界人】に群がる獣の如く、だ。
リザロの部門は情報を扱う専門集団、技術部門とはある程度取引がある。
彼らが手にするはずである最初の《結界破り》の優先権を戦闘部門が手にできる。
「──足りないっすね!そもそも、《結界破り》は【ゲーム】に参加するにおいて最優先事項っす。術式が俺たちの手元に来る時間と、他の部門に来る時間はそこまで変わんないっす」
言いたかったことを全て言われたらライカは、少し腹が立つが概ねその通りだ。
呑気にパフェを口に入れながら話す部下に半眼を向けた後、ライカはリザロへと向き直った。
「ああ、確かにその通りだ。それにアタシらが《結界破り》を手に入れる方が早いかもしれん」
「──まあ、そちらも色々と武力行使をすれば可能でしょうね。ではこれでどうでしょう?」
そう、笑みを深めたリザロが写真をテーブルの上に置く。
──その写真には、黒ヘルを被った頭に全身レザーである一人の人間の姿が写っていた。
『──────っ』
息を呑んだ二人、それも当然であった。
この写真の人物は、彼女らの主、部門の長が追っている人間の一人であったのだから。
「......フルフェイス、正体不明、まあ呼び方はなんでもいいんですけど。貴女たちが追っている人物でしたよね?」
「まァ、財閥にいたら耳に入るお尋ねモノだからな。流石に知ってるかァ」
ソレは帝国財閥に居れば、一度は耳にする人物である。
しかし、どの部門であってもその人物に関する情報すら集めることのできない謎の存在でもある。
「確かに、この情報となればウチのボスが欲しがるかも」
そう、この人物がなぜ追われているかすら、末端の兵士にすら明かされていない。
戦闘部門のNo.2であるライカですら相当な厄ネタとしか知らない。
実際そのカードが“他部門への切り札”と言うことしか、彼女は聞いていなかった。
「どうです?この正体不明が、このゲームでどこにいてどんなことをしているか。いお買い得でしょう?」
────やられた、ライカがそう感じた。そう、最初の《結界破り》はおまけでこっちが本命だったのだろう。
報酬を踏んだくってやろうとしたが、これではむしろこっちが借りを作ってしまう。
「払いすぎだ──とは言わねぇぞ?」
「ええ、こちらとしてはぜひ欲しいので、妥当です」
貼り付けたような笑顔で、少年のような見た目の魔術師は言った。
その狙いは判らないが明らかに悪だくみ、それも知りたくすらない趣味の悪いものであろうことはライカでも想像がついた。
「──チッ、わかった、受ける。代金は前払い、誘導やらはお前がやれ、それが前提だ」
一瞬の逡巡のあと、ライカは立ち上がってリザロの横を通り過ぎる。
明らかに熱い視線をリザロは感じるが、彼は涼しい顔でアイスコーヒーを啜っているだけだ。
「わかりました。この場の後片付けと、ついでにパフェの支払いもつけましょう.....ではよろしくお願いしますね」
了承の旨を伝えたライカに向き直ったリザロは、笑みを深めつつそう言った。
本当に金払いがいい、こういう時のリザロはむしろいい買い物をしているとライカは訝しむ。
しかし、どちらにせよ分からないので、こういう時は考えすぎないのが正解だ。
「──ゴチっす!」
そう言って上司の後を追う部下の姿を横目に見つつ、コーヒーを啜る。
「……彼も面の皮が厚くていいですね。少し欲しいですね。けれど。それは欲張りでしょうか」
そう、独り言を呟く彼は、本当に己が求めるものから目移りしないように、と戒める。
そして彼はこれから起こる狂騒に思いを馳せる。
彼の笑みと共に、コップの周りの水滴が周りを巻き込んで机へと落ちた。
◆◇◆◇◆
〈二〇二五年 七月二十三日 御加実市 御加実第一高校 裏口〉
──夜も更けたころ、比較的都会である御加実市の都心部ではネオンの光が昼と見紛うほどに輝き、夜を塗りつぶしていた。
そして、御加実第一高校は御加実市の都心から少し外れた場所にある。目の前にある山は北部の山岳地帯の端に位置し、御加実市にありながら御加実第一高校の周りは意外と緑がおおい。最近だとクマが出たらしいし、それくらい山が近いということだ。
あと近くには霊園もある、オカルト的にはいい立地らしい(先輩談)。実際に霊園では幽霊が出るという噂もあるくらいだ。まあ、オカルト部の活動で何故か幽霊のコスプレをしてきた先輩を見た人物が勝手に言っているだけだろうと思うが。
「さて、深夜の学校に忍び込んでみたわけだが」
そんな割とオカルト適性のある高校のためか、それとも単純に夜だからか、校内はそれなりに雰囲気があった。
「いやぁ、まさか先輩がドタキャンとはね」
「うむ、まさか我らがオカルト部の部長がビビったのではあるまいし、何か並々ならぬ事情が......」
いや、なんか普通に家族との用事を忘れてただけらしいぞ。
まあ、ノワ子の憧れの先輩の夢を壊すのも忍びないので黙っていることにする。
「ま、相変わらずあの先輩に振り回されている気がするが、あの人がいないだけで、脅威度がかなり下がるからな」
「そうかもね。僕としては面白くないけど」
そう、陽介は腕を組んで眉根を寄せる。
まあ、肝試しを楽しみたいならあの人が必須ではあるが、それゆえに本物も出てきかねない。
「ふふ、我がおるではないか盟友よ!我ならば闇の眷属を呼び寄せることもできよう!!」
「バカ言え、ガチで呼び声が聞こえるタコとか出てきてみろ、正気じゃいられんだろ」
絶対SAN値とか減る、判定とかなく確定のやつだ。
戯言はともかく、俺はあらかじめもらっていた一枚の紙を取り出す。
「ま、じゃあ先輩が用意してくれたロードマップを見て......と」
てか肝試しにロードマップってなんだ......もはや疑問に思い出すとキリがないので、ともかく進もう。
「最初は第二校舎一階女子トイレ、保健室、校長室、本校舎二階理科室、音楽室、校庭、そして、部室棟115号室って、これはオカ部の部室じゃないかい?」
俺のスマホを覗き込んだ陽介はそう呟く。
「ああ、ゴールは部室ってわけか」
「ふふ、灯台デモクラシーということか」
「灯台下暗しだろ......どういうボケだ」
そうツッコむと、ノワ子は顔を真っ赤にして目を伏せた。
あ、素で間違えた奴だ……気まずいから触れんとこ。
「さて、では最初のトイレに行きますか」
──ガチャリ、と差し入れた鍵を回すと音がした。
校舎に入ると、辺りは暗いが月明かりが通っていて真っ暗というわけではない。
それでも人のいない後者には確かに少しおどろおどろしいものを感じる
「......どうやって手に入れたんだこの鍵」
そう言って手の中にある、スペアキーを見て冷や汗をかく。
「まあ、それを聞くのは野暮ってことでね」
「もはや肝試しじゃなくて、先輩の方が怖いな」
やはり俺はとんでもない部活にいる。
そう再確認できた俺たち一行の肝試しが始まった。
俺たちはすでに本校舎の端にあるトイレへとやってきていた。
と言っても、第二校舎一階のトイレは裏口からすぐ近いので一瞬で着いたのだが。
「さ、どうする?やっぱノワ子に行ってもらうか」
「それがいいね」
「待て待て!?わ、我の共をする権利を盟友、貴様に与えよう......!」
俺たちが迎合し合いつつ、ノワ子に押し付けようと話をしていると、ノワ子は青い顔で頭を振った。
「──いや、でも女子トイレだし?」
「ふ、履いておらん下着はただの布であると同様に、女子の入っておらん女子トイレはただのトイレだ!」
どういう理論だよ。
ただ、確かに誰も見ていないなら、気にするだけ負けな気もしてきた。
「女子と二人で女子トイレに入るって側からみれば結構......」
「──それ以上言うな、勘のいいガキは嫌いだぞ?」
陽介が危なそうなことを口走りそうになったので、かぶせておく。
しかし、実際問題ノワ子は割と怖がりなので一人で行かすと何をしでかすかわかったもんじゃない。
「な、ナギトよ。さっさと行くぞ!」
そう、袖をちょこんと掴むノワ子はいつもより少し可愛げがある気がしてなおさら放ってはおけない。
「まあ、とりあえず行くか」
「ふふ、俺たちの肝試しはここからだね」
なんか、連載が終わりそうな文言と共に俺たちは女子トイレへと入っていった。
「特に何もないが、あんまり引っ張るなよ?」
とはいえ、ただのトイレである。何か噂でもあるわけではない。俺はノワ子に言いつつ、そう思った。
「う、嘘をつけ、ナギトよ!鼻の下を伸ばしておるではないか」
「俺は女子トイレで興奮する変態じゃねぇよ」
本当に怖いのは幽霊じゃなくて俺だった?クソみたいなオチだな。
「──確か、端から2番目の扉をノックするんだっけ」
先輩に支持されていた内容を思い出し、俺は扉をノックしようとする。
「......ま、まま待て、一旦落ち着こう!?ここは闇に満ち溢れておる!!?引き返した方が......」
しかし、ノワ子が絡み付いてそれを邪魔する。
いや、自称黒き柩の闇姫が何をひよっているというのか。実際、最初は俺も少し、夜の学校の雰囲気にのまれていたが、少し余裕が出てきた。
自分より怖がっている奴がいれば、自分の怖さが薄れるというやつだ。
まあ、相変わらず、近い距離にドギマギするが。
「いいや、我慢できない......ノックするね!」
まあ、どうせ何も起こらないでしょう。
──コンコンと2回ノックすると、少しの沈黙の後に突然手洗い場の蛇口から水が溢れ出した。
「ひ、ひぃ!?オバケだぁッ!??」
「お、おい、ちょまーー」
驚いたノワ子はとんでもない勢い俺に飛びつき、押された俺は壁に押し付けられてしまった。
やばい、色々当たる!てか、こいつ以外と──じゃない!
「そこの張り紙を見ろ!故障中だ、ポルターガイスト的な現象じゃない!」
「そ、そうなのか?......ホッ」
そういうと、ノワ子は安心した様子で息を吐く。
「いいから離れろ」
「え?────はっ、かたじけない......」
そう言うといつもの元気さが嘘のように、顔を赤くしてしおらしくなるノワ子。
な、なんだこれ......こいつのこんな姿を見ているとなんだかむず痒い。
「い、いや、別にいい。とにかく蛇口を止めて出るぞ」
そして俺たちはそのまま女子トイレを後にした。
◆◇◆◇◆
山田加奈子、真名「ノワール=リヒテン=シュバルツ」は間下部凪斗に恋心を抱いている。
その理由はおいおい話すとして、山田加奈子、通称ノワ子は一人の恋する乙女の前に中二病である。
そも、彼女は結構気難しい性格であり、一皮むけばいじらしい少女が出てくるのだが、人前の、特に恋愛対象のナギトの前では「ノワール=リヒテン=シュバルツ」を演じているのだ。
そう、それが彼女のナギトに出会う前からの性質であり、弱い彼女を守る殻と言っていいのだろう。
陰気で、人との関りを苦手とし、孤高を演じる彼女の中身はまるで恋に追いついていない。
事実、ナギトを狙う女子は校内に少なくない。
あの質実剛健を体現する生徒会長も、おそらくはナギトを憎からず想っているのだろう。
そして、ナギトはノワ子の事を少なくとも、好く想っている。
このまま、平凡な日常が続けば少年少女がくっつくのは時間の問題だ。
しかし、山田加奈子は少なくとも、その身に無謀な恋を抱いている。
彼女がどれほどあがいて、もがいても決して埋まらない溝が、両者にはある。
──────少なくとも僕はそう感じている。
ナギトはあまりにも耐え難い傷を隠しているし、本人すら自覚しない呪いも内に秘めているのだ。
彼女は、良くも悪くも凡庸だ。
だからこそ、ナギトには似合わない。
凡庸を謳う特例を、特例を謳う凡庸が墜とせるわけがないのだから。
──────だからこそ、面白い。
どれだけ無謀で、どれだけ荒唐無稽で、どれだけ前代未聞であっても……人間の感情はそれを超越する。
例え、叶わなくても思う事は自由で、人間の精神は、妄想は、真に自由なのだ。
まるで、今起こっている災害のように。
そう、彼女は不利を覆そうとしているのだ、あくまで無自覚だが。
──────だから、こういう人間は大好きなんだ。
「──────いいじゃないか、ヘタレにしては上手くやったんじゃない?」
「…………う、茶化すな。あくまで、貴様とは利害の関係でやってるだけだぞ」
そう、格好つけたようなセリフを吐く、ノワ子に僕は軽口を吐く。
「けど、吊り橋効果を狙うには、まだアプローチが足りない。次は保健室だ、ベットに押し倒しちゃえよ?」
「────な!?なななにをいっておる!?我らはそんな爛れた関係ではないッ!!」
いや、君たちまだ友達程度でしょ。とは流石に突っ込まなかった。
寝取られと騒ぐなら寝てから言え、という正論をかますのも気分が下がるからだ。
ともかく、僕らの作戦会議は続く。
──────暇つぶし、そのはずだった彼らとの生活も、もうすぐ──────
そして、その思考は僕の中で紡がれることなく、露の如く掻き消えるのだった。
◆◇◆◇◆
その後、トイレを出た俺たちは陽介から茶化された。
その後、ノワ子と陽介が何かこそこそと話をしていたのだが、吊り橋がなんとか、アプローチがどうとか、競争率が高いから、なんとか断片的に聞こえたが何を話しているかはわからなかった。
時折ノワ子が顔を赤く染めていて......まさか!?こいつらデキているのか?
ま、コイツらに限ってそんなことはないか。
そんな見当違いな妄想をしつつ、ナギトは話している二人を眺めていた。
「──よし、それじゃあ次の場所に行こうか」
どうやら作戦会議は終わったらしく、帰ってきた陽介はそう言って、胡散臭い表情で微笑んだ。
......やっぱりドッキリとかじゃないよな?
〈Tips!〉
・空想現界人について
創作物の登場人物、現実でもその能力が再現されるもののゲームマスターによって強すぎる能力が弱体化されたりする。
基本的に空想現界人の強さは大体同じくらいに調整されているが、【ゲーム】を勝ち進んで自身を強化できる【杖】を入手できたりする。
生まれつき【杖】を持っている空想現界人もいる。
【ゲーム】では空想現界人たちが徒党を組んで競い合っているが、原理的に魔術師が【ゲーム】参加することはできない。
・帝国派について
魔術師たちを束ねる陣営の一つ、正式名称〈帝国財閥〉である。
十の部門と三つの戦闘部隊〈龍の牙〉で構成された、日本でいう旧財閥的な立ち位置。
その権力は魔術界全体を統治する機関〈七聖円卓〉に食い込むほど強大。
ちなみに、ライカが所属するのは〈龍の牙〉の〈二ノ牙〉であり、その上の〈一ノ牙〉は滅多に出てこない




