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010「すでに渦の中、されど前進あるのみ」

面白ければ星、ブックマークよろしくお願いします。

コメントもぜひお願いします。



──前回までのあらすじ。


 俺の名前は一般高校生である間下部凪斗!

 部活動をしている時に突如として魔術師に襲撃されてしまう……そして、逃げ延びた先に謎の魔術師と戦う金髪美少女が!

 どうにか逃げ出し、危険な校舎を脱したが、死にかけの金髪美少女レイをついつい助けでしまった!

 意味不明な理屈を捲し立て、命まで捧げちゃった(わーお⭐︎)

 そんなこんなありつつ、どうにか自身の謎体質のおかげで生き残ることができた。

 そして、なんかドレインのおかげで以前よりツヤっとしたレイと心なしか冷たいオトモ妖精(あとついでにノワ子)たちと共にずっと夜になる空間に閉じ込められてしまった!

 果たして彼らの運命は!?どうなるの……!



──以上、あらすじ終了。



◆◇◆◇◆



〈二〇二五年 七月二十四日 御加実市 甘鱈公園〉


「……ノワ子?ぼーっとしてどうした?」

「いや、今、これまでの情報が全部頭の中に投げ込まれた気がしてのぅ」

 何言ってんだコイツ、いや確かに混乱してたから状況説明が欲しかったけど。


「何言ってんだコイツ、って顔しないで欲しいぞ。盟友よ」

「まあ、ノワ子は一旦置いといて、今はこの空間の話だ」

 ガッツリ無視されたノワ子がジト目で見てくるが、気にしにない。

 今は、この謎空間に関して話し合うことが最優先だ。

 話しかけられたレイは、付近で漂うリティアへ目を向けた。


「……どう?」

『そうだね、空間自体が()()だ。君たちも、私も気が付かなかった。魔術師たちの用いたあの高校の結界空間とは格が違う』

 魔術に多少の心得のあるリティアが気づかなかったのだ。

 この結界はかなり上位の隠蔽が施されたものなのだろう。


『────この結界自体がこの街の神秘を基礎として、作られているかもしれない』

「神秘ってなんぞや」

 ノワ子が素朴な顔をしていった。

 実際、何も知らない身として、なんでも聞いてくれることはありがたい。

 

『ここに来た時から感じていた。魔力の脈のことだ。主に歴史がある街や村などに宿る。要するに魔力が溜まりやすい場所ということだ』

「へー、御加実市ってそんな感じだったんだな」

「なるほど、確かに御加実は歴史がある地域だぞ。盟友よ」

 得意げに、ノワ子は俺をドヤ顔で見た。

 そういえばコイツは無駄に勉強ができるんだっけ。

 正直ちょっとムカつく…………が、この前勉強ができる理由を聞いたら、友達がいないから他にやることがないと聞いて涙ちょちょ切れた。


「そういえば、リティアの使ってる魔術とあの魔術師たちが使ってる魔術って同じなのか?」

『…………どうだろう、異世界だろうと魔術とは概ね似通るものだ。あちらに聞いてみないとわからないだろう』

 まあ、思っていた返答ではないが、レイたちも全てを知っているわけではないだろうし。

 ただ、今のところの情報源がリティアしかないので、まだ情報不足感が否めない。


「ともかく、ここらを調べてみるしかないな」

『ああ、一度周りを探索してみるべきだ』

 そうして、俺たちは話し合いにより、この夜の空間を調べることになった。



◆◇◆◇◆





「──夜、って割には明るい場所だな。でも、街灯は灯ってない」

 辺りを見回すと、電子機器や電気で動くものは軒並みなくなっていた。

 ただ、空は暗いのに辺りは、ほんの少し見通しがいい。

 アンバランスさが不気味に感じる

 空にはたまにカラフルな筋の入った雲も浮かんでおり、ここが現実の空間ではないことは理解できる。


 明らかに、異常な空間へと迷い込んだという感じが見て取れる。


『おそらく意図的だろうが、食料品やらその他の商店の品物も軒並み消えている』

「ふむ、せっかく誰もいないならお菓子食べ放題したかったのにのぅ」

 一国の姫が盗み食いすな。

 ただ、俺もこの状況なら、致し方ないと食料を拝借しようと思ってはいた。

 なので、当てが外れたわけだが……


「ん、誰かがきた痕跡も新しいのは無い」

『そのようだね。ただ、それが良いことかどうかはさだかではないが』

 そう、付け加えたリティア、無論ここに他の人間がいないのは行幸であろう。

 しかし、魔術師がいないのはともかく、彼らの言っていた【空想現界人】がいないのは少し厄介だ。



「レイの仲間とか、同郷の連中もいないってなると、本格的にこの空間が何かわからないな」

『そこは仕方がない。ただ、もし私たちを害するために何者かがこの空間に招いたとすれば、すでに襲撃を受けているだろう』

 確かにそうだろう……何を望むにしても、この空間に入れた人間がいたとして、その後に放置するのはおかしい。

 ここまで大規模な何かに何の情報もなく彷徨うのは、かなり危険だ。


「……ま、とにかく誰もいないなら、会いに行くしかないよな」

『私も同じ結論だ。このままだと情報が少なすぎる』

「余は腹が空いたぞ、盟友よ!!」

 はいはい、雛鳥ちゃんは巣で口パクパクしててくだちゃいね~?

 冗談はともかく、食料がないのが喫緊の問題だ。


「ん、私なら食料がなくても一か月くらい保つ。ナガモチ」

「賞味期限みたいな言い方だな。それに、レイは良くても俺たち(主にノワ子が)もたんぞ」

「何か、いやな含みを感じたのだが、盟友よ」

「この前、おにぎり百個は食べないと気が済まないって言ってなかったっけ?」

「安直な大食いキャラ付け止めれ!?」

 そう憤慨するノワ子、彼女の腹の虫が怒り出す前に、早く食料を見つけなければ……!(使命感)

 だが、迂闊にどこかに行くのも、俺とノワ子には危険に思える。


『それでナギト。この周辺で、人の集まるような場所はないか?』

 話を区切るようにリティアは遮った。

 リティアたちがこの周辺を知らないのがまさしく、異世界人といった感じだ。

 

 だが、【空想現界人】と呼ばれている以上、彼らの出身には留意が必要だ。

 というか、おそらく創作物関係の登場人物である可能性が高いと睨んでいる。


「そうだな、この近くっていうとデコポモールかなあ」

 デコポモールとは、山間で土地の余った場所に建てられた超巨大複合施設である。

 ここら辺は山が近いが、新幹線の駅などもあるのでそこそこにぎわっている。

 ちなみに、デコポモールの創業者は元柑橘系果実の農家らしい。



「ふ、我は群れぬ故、そのような場所には興味がないがのぅ?」

「友達いないから、行ったことないだけだろ」

 め、盟友だけいればいいしぃ……?と強がるノワ子に同情はする。

 そして、そこまでの道順を思い出しつつ、俺はこう付け加える。


「こっから三十分くらいにある、そこに行けば誰かがいるかもしれないな」

 あくまで、希望的観測だ。

 【空想現界人】とやらが、集まらずに散らばっていればおそらく無駄あしだろう。

 ここが入ったら最後出られない某き〇らぎ駅的な都市伝説の場所であれば、一生出られない可能性はある。


 まあ、この状況で大きなあくびをしているレイさんくらいになれば、幽霊でもワンパンしそうな気がするが。


『ところで、君たちは眠くないのかい?夜通しで活動するのは疲労を伴うと思うが』

「まあ、問題ない。深夜に肝試しするからと、昼寝してきたからな」

「闇を纏う王女が、眠くなろうはずがなかろう?(※意訳 夜更かしにはなれてる)」

 こいつ、昨日も夜更かししてたような……あ、そういえばさっき気絶してたっけ(※三話参照)

 とはいえ、あとで電源が切れたように眠りそうなのが怖いが、今はいいか。



「ん、わかった。でこぽもーるに行く」

「ああ、どちらにせよ。食料は早めに手に入れたい。この空間から出る方法のヒントも欲しいしな」

 ここで休憩して、明日食料不足で動けなくなるのも怖い。

 食料調達をレイたちだけに任せるのも気持ち的に嫌だ。


「私だけでも、いい」

「――いや、むしろ一緒の方がいい。俺たちが他の誰かに出くわす可能性もある。逆に、俺と離れて弱体化したレイが襲われる可能性もある」

『私もそう思う。《身体の契約》は一定以上は離れると効果が薄れるからね』

 そう、リティアは俺の言葉に付け加えた。

 レイだけを矢面に立たせるのは違うしな、と俺も心の中で付け加える。



「────かくして、ノワール=シュバルツとその他一行の、大冒険が今始まろうとしていた……」

「むしろお前がその他だろ」


 そして、ノワ子の戯言とともにデコポモールに向かうという、閉まらない門出となった。



────かくして、彼らは異常の巣へと足を運んでいく。



◆◇◆◇◆


〈御加実市 Dekopoモール エントランス前〉



「────来ました、デコポモールに」

 高校ではあれほどいろいろあったので、この謎空間でも無論警戒していたが……道中に立ち寄ったコンビニやスーパーなどでも何もなかった。


 十分間の小冒険で、到着したるはわが校の生徒御用達のショッピングモール〈Decopo〉である。

 新幹線の到着駅が近くにあり、人の流入が多いここは複合施設を構えるのに最適と言えよう。

 

 普段は人で賑わっているエントランス、しかし今は人っ子一人いない状態であった。


「うむ、道中では何もなくて暇だったのぅ」

「何かあったらいかんだろ、それに散々元気に喋ってたのは誰だよ」

 ノワ子もだいぶ肝が据わってきたな。

 まあ、ここから出られたら、これ以上は俺たちに関わってほしくないが。

 邪魔というわけではない、あくまで彼女の身を案じてのことだ。


 本当に、彼女はただの人間だから……俺?俺はノーカンよ。

 決して除け者にしているわけではない。



『ふむ、この建物の詳細を頼みたい』

「大体東京ドーム八個分って、知らないか……まぁ、とにかく広い。んで、水族館も併設してあって、三つの区域が――――」

 リティアに説明をしようとした瞬間、デコポモールから音声が聞こえてきた。



『――――――――〝プレイヤー〟の皆々様、ご壮健ましますよぅ!何よりでェす!!』

 その声はハイテンションで、なんだか変に粘着質のような口調であった。

 まるで、脳内に直接語り掛けてきているような違和感がある。



「──────」

 瞠目し、言葉を紡ぐことができない。

 ただ、それでもほんの少しの嫌な予感が香ってくる。

 そして、より勘の鋭いであろうレイなどは俺よりよほど感じているだろう。


『〝プレイヤー〟の皆々様におかれまして、当方【ゲーム】のご利用誠にありがとうございますぅ!!今回はお待ちかね、〝イベント〟でございまぁす!!』



『ナギト、これは私たちの脳内に直接聞こえるようになっている、魔術の類だ』

 リティアはそう、冷静に声をかけてきた。

 やはり、そうであろう…………しかし、ここまで大規模なアナウンスを行っているのだ、この空間の主であるのだろうことは確かだ。


「俺たちに直接聞こえるように、魔術を組んだってことか……?」

 魔術については理解していないが、それが難易度の高いということぐらいはわかる。


『おそらくコレは録音で、ここに初めてきた人間の頭に、あえて音声のように聞こえるようにしているのだろう』

 そんなことをする理由など、【ゲーム】の〝イベント〟とやらに参加を促す以外ないだろうが、それにしても大掛かりだ。


『〝イベント〟のルールを説明させていただきまぁす!今回の使用区域は〈Decopo〉モールッ!そして、区域は三つに分かれておりっ!水族館の併設された〈深海区域(マリンエリア)〉、食料品店の多い〈大地区域(ガイアエリア)〉、アスレチックなどのある開けた〈天空区域(スカイエリア)〉。この三つの〈区域(エリア)〉にはそれぞれ、テーマに沿ったエネミーが配置されておりまぁす!!』


 まるで、スポーツの実況のような熱量で声の主は続ける。


『そして、このモールのどこかにいるボスを全て倒す、それがこの〝イベント〟のクリア方法でぇす。クリアされた後、エネミーを倒してもらえる〝イベント〟限定の『狩猟ポイント』が一番多いプレイヤーには豪華賞品を用意しておりまぁす。そしてッ!!今回は()()()()()を用意しておりますよォ!楽しみですねぇ……!!』

 

 わざとらしく言い放った声の主は最後にこう付け加える。


『参加条件は、〝ランキング〟に入って()()()こと、ただ一点のみでぇす!ちなみに、〈区域(エリア)〉は一度入ってしまうと、別の〈区域(エリア)〉へと移ることはかなり難しいので注意が必要ですよぉ!皆様、注意して〈区域(エリア)〉選びを行ってくださいね?細かいルールは〈ショップ〉にて確認できますし、ここで『狩猟ポイント』にて買い物もできますよ!では、皆々さま、良き〝イベント〟を……あ、途中退出は無理ですからねぇ!?』


 そして、声の主は静かにその放送を終えた。


◆◇◆◇◆



「────マズいことになったな」

 放送のあと、エントランス前で俺たちは植木の中に隠れていた。

 明らかに、さっきの声の主がこの結界を作り上げた黒幕であることは判明した。

 ただ、それ以外の〝イベント〟やら【ゲーム】やらは初耳だ。



『ただ、悪いことばかりでもない。この結界についての情報も得られた』

 確かに、この結界が【ゲーム】や〝イベント〟のために作られたものだろう。

 色々なことが判明したものの、食料などの喫緊の問題自体は解決の兆しがない。

 

 


「もしかしたら、私もこのげーむ?に呼び出されたのかも」

「その可能性が高いな。それに【空想現界人】って名前から、レイ自体が現代の創作物から出てきたってことになる」

 レイの感覚で導いた答えだが、割と的を射ているかもしれない。

 おそらく、この〝イベント〟に巻き込まれたのはたぶん偶々だろう。


 しかし【ゲーム】を含めた現象すべてとレイとの関連性は紛れもないだろう。

 それに、レイたちがこの世界に来てからここまで、あまりにも()()すぎている気がしてならない。何者かの意図を感じるような都合よさだ。


『ナギトの推測は確かにあり得るが、まだ確定ではない。だが、そんな超常存在を呼び出し、競わせている存在自体がきな臭いだろうね』

「ふむ、リアルでデスゲームしてるなんて妾びっくりぞ」

「至極真っ当な意見だな。お前がいうとアレだが」

「むー!妾の心眼は伊達ではないぞ!!」

 頬をぷっくりさせ、ノワ子は怒りをアピールする。

 だが、確かにデスゲームなんて、お目にかかったことはない。


 デスゲーム、その言葉に俺は少し身が怯んだ。

 創作としてはよくあり、俺もそういう作品は見たことがある。

 自分ならこうするとか、客観的な視点で見ていたころとはわけが違う。


 自身の命を天秤に乗せた状態で、何かをすることの難易度は計り知れない。

 中学の頃にもあったが、今とはあまりに状況が違いすぎる。



「…………ナギトは大丈夫。私がまもる」

「────ああ、俺だって出来ることは何でもする」

 吟味されたような、言葉の少ない辞書から絞り出したような言葉が…………契約(パス)越しに伝わる。

 実際に繋がっているのだから、さらにその言葉が実感できた。

 彼女の言葉が俺に少しだけの安心感を与えてくれる。


『そうだね、ここで止まる(ナギト)ならば、レイはここにはいないだろう?』

 その皮肉じみた言葉も、今は割と心地よい。

 少なくとも、ここまで来たという自負を少しはもって良いと言ってくれているのだろう。

 あの頃の輝きを失った今でも感じていたが、自分の想定よりも俺は優柔不断な人間だったのだろう。

 

 しかし、どうやら周りの仲間には恵まれていることは確かだ。

 輝かしい親友の居たときも、誰かに助けられていた。


────だからこそ、あの時と同じ過ちを犯して、失いたくない心が一層強くなっていく。

 


「ふむ、既視感のあるセリフのような、主に〇波なんとかさんみたいな……」

「だいぶ古いネタだろ。てか、普通は空気を読んで慰める流れだろ?ヤバ子……」

「古のネタこすってるオジサンじゃないし!?ヤバくないし!?」

 ノワ子も思ったより大丈夫そうだ、コイツはもともと図太い性格ではある。

 ネタも古いが、そこまで言ってない。ロープレ剥がれすぎだろ闇の姫様……

 心中で呆れつつ、それでも彼女らに改めて向き直る。


「そうだな、とにかく今は生き残ることを最優先で、レイには前線張ってもらう。頼めるか?」

「……ん」

 息を区切ることで返答するレイ、そして俺は静かに決意する。

 コイツらを誰一人余さず、外に帰すと。


『どちらにせよ、すでに参加している判定らしい。もう〝イベント〟とやらの空間から逃れられないようだ』

 リティアは魔術で、このモール周辺から出られないことを調べたらしい。

 三人と一匹?は互いに目を合わせて、覚悟をし合う。


「わかった、俺たちは進むしかない…………よし───いくぞ!」

 不退転の覚悟で言葉を放ったナギトに異を唱える者はいない。

 四人は、魔物の口の如きモールの扉へと赴いていく。



────そして、彼らの次の戦いの火蓋が切って落とされた。



◆◇◆◇◆


〈御加実市 Dekopoモール 大地区域(ガイアエリア) 一階 入口〉


────エントランスから入ると、二番目に広い〈大地区域(ガイアエリア)〉がお披露目される。



 俺たちのいたエントランスから入れるのは、〈大地区域(ガイアエリア)〉だけである。

 あの声は三つの〈区域(エリア)〉を安易には選ぶなといっていた。

 しかし俺たちは事情も知らないので選ぶ意味はほぼないだろう。

 というわけで、さっそくエントランスから何事もなく〈大地区域(ガイアエリア)〉に来れた。


 中に入ると、普通の複合型施設、ショッピングモールの様相だった。

 ノワ子はあまり来たことがないのか、お上りさんの如くキョロキョロしていた。

 そうでなくても、デスゲーム中なので観察してしまうのは当然である。


 ただ、中身は前に来た時と変わらなかった。

 無論、レイは辺りを警戒していたが、特に人気はないと感じた。

 とはいえ緊張感のある雰囲気だ、いつもの日常と同じの景色がまるで違って見える。


 鬼が出るか蛇が出るかわからない、そんな場所での対処としては正しいだろう。

 自然と中に入ってからは会話もなく、一回のエントランスを抜けて、商店のある場所へと向かった。



「────んで、上か下どっちに向かう」

『ここを一番知っているのは君だろう。君の言う通りにする』

 そう言ってくれるのはありがたいが、俺だってそこまで詳しい方じゃない。

 ノワ子よりもマシってだけだ。


 とにかく、入口近くの百円均一店に隠れようと思い、レイたちを先導する。


「すまん、悪いが一度考えていいか?」

 考えてみるも、いい案は浮かばない。

 というか、何かを仕切ること自体久しぶりだ。


「ん」

『了解した』

「盟友は優柔不動だな」

 その熟語を間違えるくだりはやったぞ、ノワ子……

 ともかく、皆了承してくれた。


 この三人の命を俺の判断で、決めるなんてただの高校生の俺には荷が重い。

 正直、緊張して吐きそうだ。少しは冷静に思考を────



「────レイ?」

 おそらく、何かあったのだろうレイが表情を変える。

 棚に隠れた俺たちに、手で制し沈黙を促す。


 カツカツと、爪が地面に当たるような音が通路の先からした。

 爪で硬い地面を叩く音が、店外から聞こえており、徐々に近くなっていく。



────音の主は、あのアナウンスが言っていたこの〝イベント〟で出現する超常の獣(モンスター)であった。



 身を隠しつつ見ると、全身に苔を纏うマリモのような犬が、こちらへと向かっていた。

 そして、もう一匹の犬も後ろから現れる。

 その姿を形容するなら苔の犬とはひとまわり小さい、犬というより狼の見た目であった。


 番なのか、仲間なのか……二匹で歩いて来た犬の群れはこちらにまだ気づいていないようだった。



『戦うかい?』

「…………ちょっと待ってくれ」

 リティアの声を抑えた問いに、俺はさらなる判断を迫られる。

 あの二匹を倒すことはおそらく、この〝イベント〟の主旨であり、倒せれば何らかの情報を得られるかもしれない。


 だが、戦うべきか判断を迷う。


「戦うべき」

「いや、一旦様子を────」

 そう短く言い放ったレイは、通路の棚から一切の逡巡なく飛び出る。


「……おい!話をッ!!」

「ふむ、妾も一旦冷静になった方が良いと思うぞ?」

 そう、声を出して、レイを制止しようとするも、彼女は聞く耳を持たない。

 繋がった契約(パス)を通じて、彼女はすでに決めてしまったと理解させられる。


「リティアは残って、ナギトたちを守って」

『…………まあ、主の言葉には逆らえないね』

 リティアはレイを止める言葉を持たないようだ。


「いや、ちょっとま────」

「明らかに暴走しておる……ナギト、これはもう無理では……?」

 止めようとする俺を他所に、ノワ子はすでに諦めていた。



「────恨みはないけど、死んで」

「────ォンッ!!?」

 レイの死角からの拳は先頭の苔の犬にクリーンヒットし、苦悶の声を上げた。

 その一撃によって二匹とレイはすでに戦闘態勢へと入ってしまった。


 置き去りになった俺は止めることなど出来なくなっていた。



「なるほど、前途多難という奴だな」

「そこは間違えないのかよ…………いや、んなこと言ってる場合かッ!!?」

 冷静に故事成語を使うノワ子に、ついノリツッコミをしてしまう。

 だが、状況はこちらの手を離れて動き出してしまっている。



────そして、俺たちの初戦は、想定外の中で始まりを告げた。


〈Tips!〉

・ゲーム空間について

 ゲームマスターが作った御加実市全土に及ぶ、極大結界。

 魔術師の入場は禁止されているが、ゲームマスター的には入ってきても構わないらしい。

 内部では、電子機器の一切が使用できず、端末や外から持ち込んだスマホのような小さい機械のみ使用可能。ただし、当然電波はない。

 食料もなく、今のところ【空想現界人】がどうやって調達しているかは不明。

 〝イベント〟空間は【ゲーム】空間の中にある結界であり、これも入った場合特殊な手順以外で出入り不能。


・レイの服について

 怪我をした場合、レイがあられも無い姿になってしまう時もある。その場合、リティアが幻覚で誤魔化したりしている。ただ、レイの能力で服も再生するので時間が経てば戻る。レイの能力は回復ではなく、復元であるため。

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