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自作小説倶楽部 第27冊/2023年下半期(第157-162集)  作者: 自作小説倶楽部
第157集(2023年7月)/テーマ「女王」
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03 柳橋美湖 著 『アッシャー冒険商会 10』

〈梗概〉

 大航海時代、商才はあるが腕っぷしの弱い英国の自称〈詩人〉と、脳筋系義妹→嫁、元軍人老従者の三人が織りなす、新大陸冒険活劇オムニバス。脳筋嫁マデライン、狩猟林でおもてなしをする。


挿絵(By みてみん)

挿図/(C)奄美「女主人」

    10 森の女王


 ――アラン・ポオの日記――


 アッシャー家は、新大陸でひと上げしたとはいえ、男爵位の貴族。貴族といえば狩りや舞踏会といった催しをして上流階級に顔を売り、商談や縁談を取りつけるのが、お家繁栄の道だと存じます。

 狩猟林での狩りには、狐狩り《シューティング》と鳥撃《ハンチング》とがございます。狩りは紳士ばかりのご参加だとお思いでしょうが、実を言いますと淑女も多くご参加頂いております。ただし淑女が馬の背に乗るときは、脚をお揃えになって、横座りをいたします。

 先日ございました当家主催の狐狩りにつきましては、こんなことがございました。おもてなし《女主人》役はマデライン様でございます。


 ポインターとかプードルとかいったもののうち、大型の狩猟犬を先行して放ち、馬に乗った我々が後を追いかけ、狐を見かけたところで、ズドン、猟犬が仕留めます。――ほんとのことを言いますと、あらかじめ森番たちが用意していた格子付きの箱を早朝にセットしておいて、お客様方が目標地点に来たところで一斉に放つ。――八百長? いえ、サービスでございます。


 百フィート(三〇メートル)級のブナが林立する緩斜面の山道を、数百頭の犬と数十頭の馬が掛けて行きます。そこででございます。


 ――君になんか負けないよ――


 とばかりに、獲物の狐を的確に撃って行く若者がいました。ご招待客の中に、若様の学生時代のご学友であらせられるベン・ミア様です。

 女性的な容姿、というか、女性よりも美しい。――あ、いえ、マデライン若奥様は別にして、コホン――腰のくびれたそんな方。


 たしかに、ミア様が狩られた獲物の数は、若干ではありますが、マデライン様よりも、ちと多うございました。マデライン様はふくれっつらをしながら、私に、

「まっ、お客が楽しんで戴ければ幸いですし――」

 マスケット銃で仕留めていきます。

 そこで若奥様が小首を傾げる。

「おや、兎を放つように森番の皆さんに、私、言ったかしら」

 兎の群れがやってきて、お客様たちは大喜び。

 それから、

「おや、鹿だわ」少しして、「あら、猪」また少しして、「バッファロー」最後に、木立の下草の茂みから「あら熊さん――」

 私や従僕たちは、お客様、それから若奥様に、装填した替えのマスケット銃をお渡しし、発射済みのマスケット銃を回収して回ります。ですがさすがに熊になったら、お客様も使用人たちも怖気づいてなりません。

 ミア様は、乗った馬と一緒に、引きつって動けません。


 熊は、灰色の体毛で、全高は一三フィート(四メートル)くらいあります。重厚な体躯をしたそやつのパンチを食らえば、一撃で頭が吹っ飛んでしまうことでしょう。


 若奥様はといいますと何発か熊に弾を命中させたのですが、熊が倒れません。だから馬を降り、銃床で熊を衝いてダメージを与えて行きます。蝶のように舞い、蜂のように刺す。


 ミア様が口を開けたまま、

「アランさんアランさん、マデラインさんはこんなにお強いのですか!」

「幼いころより若奥様は、私が手ほどきをいたしました」

 まあ、若様に格闘術の才は残念としか言いようがございませんが……。

 全力熊パンチを繰り出せども、一回で頭を噛み砕く強靭な顎の衝撃、ですが若奥様は巧みに避けられ、相手の攻撃を空振りさせてしまう。こうやって、じわじわと体力を削いでいき、灰色熊をボコボコにしていったのです。ペタンと尻もちを着く。「あなた、やるわね」そこに、二頭の子熊が木立の向こうから垣間見ることができたのです。「なるほど、子供たちを守っていたのね。――ごめんね、熊さん」

 銃床でのとどめの一撃をくらわす代わりに、若奥様が、少しずつ後ずさりして熊との距離を拡げて行きます。

 灰色熊の母親も後ずさって子熊のところまで戻ると、一緒に、木立の中へ消えて行きました。


 ――マデラインさんは、森の女王だ!――


 ミア様以下お客様方は、熊の親子に手を振ってお見送りするミア様に対し、敬意をもって一斉に喝采いたしました。


 後年、マデライン若奥様は、〝マデライン・ベア〟なる縫いぐるみを、東部の各都市で売り出しましたところ、女のお子さんはもちろん、成人女性にも大人気となり、今ではアッシャー冒険商会のマスコットになっているのです。

 〝マデラィン・ベア〟を初めてご購入下さったお客様は、マデライン様。――以来若奥様はミア様とも親しくなられたのです。

「でも、ロデリック君は僕のものです」

「あげません」

 と、同じテーブルでお茶を召し上がりながら、若様を困らせていらっしゃいます。


               『アッシャー冒険商会 10』了

〈登場人物〉


アッシャー家

ロデリック:男爵家世嗣。

マデライン:男爵家の遠縁分家の娘、男爵本家の養女を経て、世嗣ロデリックの妻に。

アラン・ポオ:同家一門・従者。元軍人。


ベン・ミア:ロデリックの学友男性。実はロデリックの昔の恋人。

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