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自作小説倶楽部 第27冊/2023年下半期(第157-162集)  作者: 自作小説倶楽部
第157集(2023年7月)/テーマ「女王」
2/26

01 奄美剣星 著 『エルフ文明の謎 07』

【概要】

 カスター荘の事件を解決した考古学者レディー・シナモンと、相棒バディーを組むブレイヤー博士は、王国の特命を受けて新大陸へ。そこには滅亡した〈エルフ文明〉遺跡が点在していた。ミッションはエルフ文明が滅亡した理由を調査すること。そこで殺人事件が……(ヒスカラ王国の晩鐘 42/エルフ文明の謎07)


挿絵(By みてみん)

挿図/(C)奄美「遺跡の女王」

    07 女王 


 王国特命遺跡調査官レディー・シナモン少佐と補佐官の私、ドロシー・ブレイヤー博士は、 ガスパーレ大尉と一緒に、一度、船着き場に停泊中の親衛隊のドルニエ水上機に戻った。ドルニエ水上機は二基一組十二機あるプロペラエンジンを搭載したものである。もともと乗員一〇名、正規の乗客一五〇名の民間旅客機として設計されもので、機内には、中央サロン、ダイニングルーム、寝室、喫煙ラウンジ、バーが備えていた。数次に渡るエンジン改良で性能を向上させ、軍用機に転用された同機内装の内装は、食堂室、乗員寝室、無線室、多目的室に置き換えられたが、喫煙ラウンジは残されていた。

 もちろん操縦室、航法室、倉庫、キッチン、トイレ、シャワー室などの設備もそのまま残されている。

 トイレに関しては、汚物を空中散布する方式なので、飛行中以外は基本的に使えない。だから、船着き場に設けたテントタイプの仮説トイレで、用を足すことになる。

 少佐と私は、サンドイッチと紅茶の軽い食事をとりながら、多目的室・長卓の隅に、ファイルを拡げて、照合していた。

「ブレイヤー博士、耳の形というのは、指紋のように一人一人違うってご存じでしたか? ガスパーレ大尉にお願いして観測係に撮影して戴いた写真と、フェリペ・ゼラノ団長補佐からお借りした発掘調査班スタッフの顔写真を照合してみました。そうしましたところ、双方に食い違いのある人物がいたのです」

「アンドレス・バレス? 測量助手ですね?」

 黄金の髪を後ろで束ねた貴婦人が、うなずいてから、食事をとり始めた。紅茶はすっかり冷めている。


               ***


 アンドレス・バレスは、猫背の日に焼けた小男で、出歯が特徴的である。故郷で初等教育を受けたあと軍に入隊。測量班で測量助手をやり、除隊までに測量士補の資格を取った。今年四十歳になる。


 遺跡のテント村に行くと問題のアンドレス・バレス測量助手はいなかった。他のスタッフに訊くと、グラシア・ホルム警視に拘束され、警視が乗って来た飛行艇に引っ張られ、尋問を受けているとのことだった。

「少佐、警視はカシニ・エルミート測量士が真犯人だと断言していましたね。するとバレスの尋問を始めたのは、測量士の外堀を埋めようとするものなのでしょうね」

 それにしても、


 ――あの女王様は感じが悪い――


 野外にある炊事場で話しが聞こえて来る。調査スタッフの一人が、

「バレスの奴、手癖が悪いところがある。角が生えた蛇の大理石彫刻が薬になるとか言って、角をへし折ってポケットに入れやがった。前の団長に見つかって大目玉を食らっていたよな」

 迷信深いというか、愚かというか――殺された前団長ケサダ・バコ博士は、さぞかしバレスをクビにしたかったことだろう。――いや、クビになるはずだったのが、前団長殺害の混乱で、うやむやになっているというところか。

 少佐は、炊事場にいた調査スタッフ二人に、

「〈蛇紋岩神殿〉で、――気配ではなく――殺害された前団長を最後に目撃されたのはいつでしょうか?」

「自分がケサダ・バコ前団長を見たのは昼休憩の少し後です。前団長は、日に三度、団長補佐と一緒に、五つに分班して作業している各所を回るのが日課でした。その後は、団長補佐に指示すると別行動をとっていました。団長の指示を補佐が、写真担当ナディア・バコ夫人、測量担当カシニ・エルミートと測量助手アンドレス・バレスのコンビに伝達して行きます」

「では、昼休憩直後、写真担当と測量担当は、〈蛇紋岩神殿〉に入りましたか?」

「写真担当のナディア夫人が、昼休み前に入っていましたが、午後はどうでしょうね。そうそう、午後からは測量コンビが入口にいましたが、中へは入ったかどうか……」

 殺人事件のために、遺跡は休業状態になったままだ。私たちは夫人が寝泊まりしているテントに向かった。


               ***


 ガスパレーレ大尉と、部下の親衛隊員は、遺跡やテント村の随所に分散して警戒態勢をとっている。

 少佐と私は、前団長夫人でカメラマンであるナディア・バコ夫人のテントを訪ねた。彼女は夜に現像した写真を焼いてアルバムに貼り、整理していた。

「ナディアさん、午前中〈蛇紋岩神殿〉の祭壇室で撮影をなさっていたそうですね? 何を撮影なさっていたのですか?」

「主人の言いつけで、例の〝円盤〟を撮影しておりましたわ」

「円盤についてご主人は何か?」

「この遺跡では膨大な数の円盤が出土しているのですが、祭壇のものはもっとも保存状態が良かったのです。――夫は、あれが、記録装置の一部をなすものだと言っておりました」

 黄金の髪を後ろで束ねた貴婦人が、音を立てずに、柏手を打つ。

「やはりそうでしたか、あの〝円盤〟は、超大型機械にかける、レコード・プレートだったのです。――我々の祖国・ヒスカラ王国がある旧大陸におけるレコード・プレートは、セルロイド系合成樹脂ですが、エルフたちは甲殻虫を素材に使っていた。――そればかりではなく、極端な話し、我々が金属に依存しているように、エルフの滅亡文明は甲殻虫に依存していたのではないでしょうか?……私の仮説と、今は亡き団長、ケサダ・バコ博士の仮説が一致していたというわけです。

 普段、冷静な少佐が、とても興奮しているように思えた。

「私はこう考えるのです。――ときどき甲殻虫たちが、シルハ〝大陸人類生存圏〟に攻勢をかけるのは、何者かが甲殻虫たちを操っているものと考えています。甲殻虫は、恐らく、特殊な装置が放つ周波数に反応し、行動する」

 新発見が、前団長の殺人につながったというのか? ――だとすればこの犯罪は、人類に対する裏切りではないのか? 何かとてつもなく大きな陰謀がありそうだ。


「レディー・シナモン、面白い仮説ね」

 テントの入口に〝女王様〟グラシア・ホルム警視が腕組みして立っていた。


               つづく/ノート20230731

【登場人物】

01 レディー・シナモン少佐:王国特命遺跡調査官

02 ドロシー・ブレイヤー博士:同補佐官

03 ガスパーレ・ドミンゴ大尉:副王親衛隊士官

04 ケサダ・バコ博士:〈死都〉遺跡調査団長

05 フェリペ・ゼラノ博士:団長補佐

06 ナディア・バコ:団長夫人,カメラマン

07 カシニ・エルミート:測量士

08 アンドレス・バレス:測量助手

09 ロドリゴ・ラサロ博士:後任の〈死都〉遺跡長団長

10 グラシア・ホルム警視:新大陸シルハ警視庁から派遣された捜査班長

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