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青の追想4

何も言わずに丸一日綺羅が帰ってこない事は初めてだった。綺羅はどうしても僕の過去を隠したいらしいのでうっかり失言してしまったのに気がついて逃げたのだろう、僕はそう思った。

綺羅が賞金稼ぎに捕まったのかもしれないという考えは疑心によって消し去られていた。


僕はすぐに行動を起こした。ここで初めて目を覚ました時に賞金稼ぎに向けて咄嗟に使った能力で路地裏の周辺状況を確認した。この能力は空間を意のままに操れるが綺羅が言ったように殺傷能力はほぼない、主にサポート面で活躍する。


探してみると綺羅の居場所はすぐにわかった。まだこの路地裏内にいた事にも驚いたがもっと衝撃だったのが綺羅が誰かに倒されているらしい事だった。


僕の持つ能力では正確な情報は把握出来ないので、綺羅に何があってどんな状態なのかまでは分からない。でも僕から逃げたはずなのにまだ路地裏にいて、しかも倒されている?路地裏暮らしの長い綺羅なら賞金稼ぎならどうにかあしらえるはずだ。何故そんなヘマをしたんだ?


「とにかく現場へ急ごう」誰に言う訳でもなく、僕は焦ってそう呟いた。



路地裏を走り回って目的地に近ずくにつれて嫌な予感が増していく。恐らく綺羅を倒したのは賞金稼ぎではない、路地裏の住人だ。


ここで生きてる奴らは最低限の自衛能力と各々が自分に見合った力を持っている場合が多い。僕で言えば戦闘能力、綺羅であれば情報力といったところだ。綺羅は戦闘向きじゃない、もし路地裏に住まう誰かと真っ向から衝突でもすれば綺羅に勝ち目はないだろう。だが綺羅はその情報力でことごとく衝突を避け、万が一の時の逃走ルートだって1つや2つじゃない。


そんな事を考えていたら遂に目的の場所にたどり着いていた。倒れている綺羅の前には大柄な男が1人立っていた。僕はこいつについて「借金取りから逃げている」という事しか知らないので実力は未知数だ。いつもなら綺羅にでも相手の能力等を聞いてから対策を考えたりするのだが今回はそれも出来そうにない。


僕は無意識に手を横に伸ばしてから「手加減は無しだ」と大男に言った。この時、手を伸ばした先には剣が握られていた。きっと昔はよく使っていたのだろう、路地裏でこの剣を使った事は無いのに妙に手に馴染んでいる。疑問には思わなかった。それも含め、綺羅に聞けばいいと考えたからだ。


ぼろぼろの綺羅を一瞥してから飛び上がり、落下する勢いをそのまま使って大男に剣を振り下ろしたが、なんとそいつは素手で受け止めた。恐らく身体強化系の力を持っているのだろう。

その後、しばらく打ち合ったが傷こそ付けられたがどうしても致命傷にはならず、戦いは拮抗していた。綺羅を置いて逃げる訳にもいかずどうしようか悩んでいた時



「蒼!そいつの首飾りを切れ!!」



叫んだのは綺羅だった。声は掠れ、決して大声とは言えなかったが僕にはしっかり聞こえた。大男が振り返り、綺羅に一撃を入れた隙に首飾りを切って、立て続けに斬撃を打ち込む。予想通り身体強化が切れている。全ての攻撃をまともに食らった大男は立っていることが出来ずにその場に倒れ込んだ。


大男が起き上がってこない事を確認してから僕は綺羅に駆け寄った。だが元々重症を負っていたのに加え、先程更に一撃食らわせてしまったので助からないのは明白だった。聞きたい事は沢山あったはずなのに頭が真っ白だ。応急処置をしていると綺羅が口を開いた


「蒼、もういい。もう助からないのは自分でも分かってる。それよりあいつの手に持ってる物を取り返してくれ」


綺羅は倒れた大男を震える手で指さした。僕はすぐに大男のぐっと握られた手を解き、丁寧にその物を拾い上げた。それを綺羅に渡そうとしたが押し返されてしまう


「これはお前にやる」


力なく微笑んだ綺羅はしっかりと僕の目を見ていた


「蒼、お前今度は俺の事忘れるなよ」


その後に続く言葉は無かった。綺羅はここで息を引き取ったのだ。

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