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青の追想3

綺羅が「出かける」と言ったということは僕は自由の時間を手に入れたという事だ。


実を言うと、さっき言われた“坊ちゃん“という言葉が絶妙に引っかかっていた。路地裏にいるのにそんななりでは舐められてしまうではないか。


僕は綺羅を真似て身振りを荒々しくしようと思い、その場をうろうろと歩き出した。歩幅は今より広く、手は大きく振った。そして、いつもより声量を強めて「あぁ?僕の知ったことじゃないな」と何も無い空間に向けて言い放った。


なんか違うな、と思って僕は言い直した。「僕は知らないよ」いや、「僕は知らねぇよ」とか!

かなりそれっぽくなって僕は嬉しくなった。だが同時にどうにも綺羅の言葉より優しく聞こえてしまうことに不満をもった。


改めて考え直してみて一つの結論に至った。それを試してみたらまるで綺羅そのもののようだった。これで「坊ちゃん」などと舐められないだろう。はったりでもいい、強くなりたい。僕はもう誰1人として死なせなせたくないのだ。


──あれ?なんで1度誰かを死なせてしまったような思考になったんだ?僕は不幸にも人の死を目撃してしまったことはないし、誰1人として殺したこともない。それは綺羅に言われたので確かだ。


………いや待て、「綺羅に言われた」?



僕は路地裏に来る前の記憶がない。僕が初めてここに来た時、襲ってきた賞金稼ぎを空間操作で吹っ飛ばしてしまった。殺してしまったと思って僕はパニックになっていた、そこに無表情の少年がゆっくりと歩いてきた。少年の背丈は僕と同じくらいで歩幅は広く、手を大きく振って歩く様は堂々としていた。そして倒れた賞金稼ぎを見て少し笑った、それから僕に目を向け言った。


「大丈夫、こいつは死んでない。その力は攻撃力が少ないから単体で使っただけじゃ、殺しはできない。」


そう言われても他の記憶が全て無く、目の前の事実しか見えていなかった僕は目についた恐怖の色を落とすことは出来なかった。その様子を見た少年は堪えるように拳を握り、瞳を輝かせ意を決したような顔をした。大きく息を吸うとすぐに笑った表情になり


「怖がるなよ、お前はその力で人を殺したことはこれまで1度も無い。」


とはっきり言い切った。何も分からなかった僕がそれを信じ込んでしまうのは必然だった。その少年は後に綺羅と名乗った



今考えてみれば綺羅の言動は不自然だ。何故、僕の力について知っている?何故、僕が人殺しをした事が無いと断言できる?


最初は僕ら2人が元々路地裏の住人で、綺羅が僕の事を知っているのもそのせいだと思っていた。だがさっき綺羅はなんと言った?


「蒼ってやっぱり坊ちゃんだよな」

「一人称が“僕“のまんまだし」


──綺羅は僕がここに来る前の事を知っている。──


ずっと気づかないふりをしていた、過去を知るのが怖かったから。何があろうと綺羅を問ただたりしなかった、この生活を続けていたかったから。でも確信してしまったからにはもう引き返せない。


知っている事を全て吐かせる、そう思って綺羅の帰りを待った。しかし、その日綺羅が帰ってくることはなかった。

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