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紡がれる英雄譚

これは過去に起こった、英雄たちの戦いの記録。そしてワタクシが紡ぐ、泥臭い友の記録──────────





突如としてメーネに降り注いだ天災、神の怒りなんて呼ばれる原因不明の都市陥落。焼け野原どころか(ちり)1つ残っていなかったらしいこの場所。


「そう!私たちが立っているこの復興地区こそが、かの怒りを買ったメーネの跡地という訳ですね!」


青々とした空に詩人は声高らかに宣言した。土の香りしかない地上でその声はよく通る。詩人は詩を歌うには好ましくないボロボロの格好で、手に持つハープのみが詩人らしさを演出している。


「そ。でポウロ、そこに大量に積まれた資材は何かしら」


起こり気味に仁王立ちする女は下でくくる2つ結びを片方だけ解いたような不思議な髪型だ。くすんだ白の羽織りを翻して右手を振り上げるとポウロが両手を前に出して制止する。


「んいや、マヤさん。冷静に聞いてくださいね。このトマエス・ポウロ、誠心誠意務めましたよ。ただ、お2人のような統率力なんて無いのですよ。ここにいる全員を統率して資材を運ぶなんてワタクシには……」


マヤは広く高く積まれた資材を見渡した後、足元に転がる3つの樽のうち1つを蹴り上げた。それはポウロの耳を掠めて奥まで吹っ飛び、小さな岩山に衝突して割れる。


「おーおー、また派手に飛ばす飛ばす…隠れてる奴らも同罪だからなー!早く出てきた方が身のためだぞ!」


ひとつに括った長い髪とくすんだ白の羽織りをなびかせる男は復興協力者を呼んだ。マヤと違って協力者達と仲が良いらしい。小山の影や仮建築の建物からぞろぞろと人が出てくる。


「いやーお2人には叶いませんね!」

「ほんとちょっとだけなのよ、ほんとに少し…」


マヤとソウを囲むように集まった協力者達は皆口々に言い訳を並べた。


「先導者はポウロです!ポウロが呑もうと酒樽を開けだしたんです!」


ポウロはビクッと跳ね上がり前髪をかきあげる。


「ワタクシ…っですかぁ?」


いかにもなカッコつけをするポウロを見た周囲に笑いが広がると「パンっ」という大きく弾ける音が響き渡った。


「もうお咎めなしでいいから!さっさと作業再開させる!」


マヤは諦め、目を閉じてそう言った。復興地区なんて体のいい名称に過ぎず、実際はスラムとそう変わりはない場所なのだ。メーネの王政からは支援を受けられず、ただ2人の指導者が選出された。


マヤとソウの白い羽織りは指導者の証であり、王都への通行証でもある。復興者がここまで統率の取れた団体であるのは2人の功績が大きい。


ここまで王都での交渉、情報収集、復興者への指導、全て2人…とたまに、王都出身のポウロで成し遂げてきた。ポウロはポウロで何故ここにいるのかよく分からない人物だか、マヤとソウはより分からない。


2人揃って記憶喪失なのだ。


何故指導者を任されたのか、元の自分の立ち位置、自分と復興地区との関連性、そもそも復興地区がこんな風になってしまった原因、全てがよく分からない。


復興者達もこれらは知らないようで、聞いても情報と言えるものは得られなかった。王都へ行くと感触はあるものの、誰も話そうとはしない。王都で復興者というのは避けられる存在だ。情報収集なんてまともにできやしない。


ただひとつ、王都でもそれが出来る場所がある。法で禁止されているため、メーネのスラムで密かに経営されているとある場所。


マヤは今回、長期の王都遠征でついに復興地区と自身についての情報を手に入れた。



「全部、思い出した」



砂の匂いがする、途方もないくらい広い復興地区を見渡した。復興者達が作業に取り掛かり、静寂から音が響き出す。



「分かってる。私達が──」



マヤは復興者に指示を出すソウを見て、反対方向に歩いていく。



「償うのは今じゃない」




見上げた空は、あの時よりも綺麗だった。

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