沙織と闘い
久しぶりの投稿となります。
遅れており申し訳ありません。
あたしは、燈梨たちが、プラモに熱中しているのを確認した後、夕飯の準備に加わった。
フォックスと舞韻の雰囲気がおかしい。
昨夜から、舞韻の様子がおかしかったのは、分かっていたが、恐らく海のことがあるからだろう、とは思っていた。
でも、朝からの様子のおかしさは、燈梨にも勘付かれていたレベルだ。
しかも、私に、舞韻の部屋から出て、フォックスの家で暮らせ……なんて唐突に言われたら、明らかに分かる、舞韻とフォックスの間に、今までにないそういう感情が芽生えてしまったのだろう。
そして、燈梨たちと東京に行って、帰って来てからの、2人の、あまりにも他人行儀っぷりに、もう察しはついている。
フォックスと舞韻は、その間にそういう関係になってしまったのだ。
そうでなければ、あの舞韻が、こんな女らしく振舞うわけがない。
それは、あたしから見ても、身体が痒くなってしまうほどの、甘々な、女フェロモンを振り撒いていることからも分かる。
舞韻は、男の世界で生きてきただけあって、良く言えば、男勝り、そして悪く言えば、女らしくない。
女らしくない生き方をしてきたからこそ、同性に対して、隠さねばならないフェロモンを見せてしまっている。
今の舞韻は、鱗粉を撒きまくっている蝶だ。
羽ばたくたびに、あちこちにフェロモンをばら撒くので、不用意に近寄れないし、訊ねる事も憚られる。
なので、あたしは2人の前では、敢えて冷たく接して、少し目を覚まさせてやらねば……と思っている。
あたしは、敢えてフラットに言った。
「燈梨ですけど、明らかに誰かに尾けられてますよ」
「えっ!?」
「なにっ!?」
……もう、反応が素人のそれだよ、2人とも、しっかりしてくれよ!
こりゃマズい、今後の作戦行動にも支障をきたすし、それ以前に、夕食以降に燈梨と顔を合わせたら、燈梨にバレて、物凄く気まずくなっちゃうよ……。
燈梨は、フォックスが、同僚と一緒にいるところを見ただけで、ショックを受けて、家出しちゃった娘だよ。これ以上、燈梨の心に傷をつけてどうするのよ。
あたしは、思い切って声を低くすると、言った。
「お2人とも、今日、何があったかは、お察ししますけど、そんなんじゃ燈梨にバレますよ。それに、今、あたしは、かなり危機的な状況をお伝えしたことも、お忘れなく!」
2人とも、下を向いたまま、黙ってしまった。
この大事な局面に、この2人が役立たずで、どうするのよ!
「何をしてるんですか! 舞韻、アンタは情報収集、燈梨の実家サイドの動きを探るの! そして、フォックスは、今後に向けての作戦の立案。最低3プランは欲しいところですね!」
2人は、ほぉ……っという表情であたしを見ている。
もう! なんであたしが、指示出してるのよ。普通なら逆でしょ、しっかりしてよ!
なので、あたしは言った。
「舞韻、アンタさ、明日フー子たちと一緒に向こうに行って、しばらく別荘で過ごしなよ。ハッキリ言って、今のアンタは、燈梨にとっては、害でしかないから!」
舞韻は、無言で頷いたが、視線はフォックスを追っている。
ダメだこりゃ! しばらくは使い物にならない。
あたしが、舞韻を向こうへとやったのには、燈梨にとっての影響もあるが、今は、正念場であるからというのもあるのだ。
恐らく、夏の終わりが、最後の闘いになるだろう、とは思っていたが、燈梨に追手がついたという事は、全ての仕掛けを早めていく必要が、あるかないかを見極める、重要な局面なのだ。
なので、しっかりと下調べが必要になるのだ。その鍵を握る舞韻が、あんな状態のまま、ここにいても話にならないからだ。
恐らく、ここにいたら、フォックスに接触することが出来てしまうので、雑念が、舞韻の目を曇らせてしまう。
「それで、具体的にはどうだったんだ?」
フォックスは、ようやく正気に戻ったようで、あたしに、状況について尋ねてきた。
「あたしが、原宿に行った段階で、燈梨をマークしている人間がいたので、割って入って、
散らしました。その後、渋谷には来なかったので、撒けてたと思ったんですが、秋葉原に再び現れたので、帰り道で、再び撒きました。ただ、方角は勘付かれた可能性ありですね」
「そうか、方角が探られてるとなると、時間の問題かもしれないな」
私の答えに、フォックスは的確な一般論で答えた。
そこで、最初に知っておくのは、敵の戦力を把握することだ。どの程度の規模で、どの程度の腕の人間が、調べて歩いているのかを見極めて、それに対応した戦闘プランを立てる必要がある。
それが分かったところで、今度は兄貴との連携を、再度確認しておく必要がある。
この計画に関しては、フォックスサイドと、兄貴のサイドが、両輪で同時攻撃を掛けないと、効果が薄れてしまうのだ。なので、こちらの状況が分かった段階で、兄貴へと状況を報告する必要があるのだ。
それによって、動きを擦り合わせて、実行日を決する必要があるからだ。
本来であるならば、明確なXデーがあって、そこをピンポイントで狙いたいのだけど、それだけは、現在の状況を鑑みると、叶わない可能性がある。
なんとか、ここまでは粘りたいというのが、あたしの……いえ、チーム燈梨の本音である。
すると、フォックスが、いつもの表情に戻ると言った。
「そうだな、これからの動きと、戦い方のシミュレーションを、いくつか作成する必要があるな。2人共、燈梨たちが寝たら、ちょっと集まってくれ。そして、舞韻は、向こうの武器の確認と、情報収集のため、別荘に行ってくれ」
「ラジャー」
「分かりました」
あたしと舞韻は答えて、再び夕飯の準備へと戻った。
夕飯を作っている、舞韻の横に立ったあたしは、言った。
「舞韻、アンタが、女として、魅力あることは認めるけど、今は燈梨の正念場なの、この期間だけは我慢しなさいよ」
舞韻は、黙って頷いた。
あたしは更に言った。
「あたしにとって、燈梨は妹なの。それは、アンタも同じはずよ。あたしは姉として、今回の作戦だけは、絶対失敗できない闘いだと思ってる。もし、邪魔するなら、アンタでも容赦しないから!」
舞韻は、黙って頷くと
「分かってる。だから、私は明日から向こうに詰める」
と、力強く言った。
良かった。
これで明日からの闘いにブレが無くなる。
あたしにとって、これだけは負けられない闘いになるんだ。
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