かえりみち・東京
私は、悩んだ末に180SXのミニッツのセットを買うと、他のみんなとあちこちを探索した。
「あっ! 燈梨ちゃん。遂に買ったんだね、後で見せてよ」
ミサキさんは、私が手に持っている袋を見るとすぐに察して駆け寄ってきた。
「中身は何? 」
桃華さんが訊いたが、フー子さんが
「それは帰るまで教えられねぇな~」
と、言ったため、私も最後までみんなにとぼける事を貫いた。
みんなで鉄道模型や、プラモ、ラジコンの話で盛り上がり、桃華さんも何かミニッツが欲しいというので見て回ってあれこれと談義をして悩んだりした。
結局、桃華さんのミニッツは決まらず、みんなが
「でもって、桃華はさ、近いんだから、燈梨と一緒にまた見に来たりすれば良いんじゃね? 」
と言って、桃華さんも
「今無理に決めなくても、欲しいボディが出てから買えばいいかな」
と結論付けて終了となった。
東京探索を終えて、駐車場までやって来た。
サファリが出てくると、唯花さんが
「コイツを東京で見ると、そのデカさとのギャップに、ちょっと萌えちゃうねぇ~」
と言うと、ミサキさんが
「オリオリ、最後にこの車とみんなで記念撮影してもイイでしょ」
と、言ったので、私たちは沙織さんの勧める2ヶ所で撮影した。
みんなでの撮影は、通りすがりの人にお願いしたのだが、ここで会う人達はとても親切に応じてくれた。
そして、やはりサファリと女子だけの組み合わせ、更には東京の大都市となると、画になるのか、周囲の注目が集まっていた。
帰りの車に乗ろうとすると、沙織さんが言った。
「じゃあ、燈梨は3列目ね。フー子、燈梨と一緒に3列目」
「お~し、燈梨~。疲れたからって寝かせないからな~」
フー子さんは言うと、私を右奥の席に追いやって、自分は左側に座った。
今まで座席指定をしていなかったのに、何故急に指定してくるのかが分からなかったが、みんなが
「燈梨ぃ、コーラ取って」
「私はミルクティー」
「ピーチサイダーね」
と、声をかけてきて初めて気づいた。
私の座っている席の右には蓋があって、開けるとそこはクールボックスになっていたのだ。
つまり、ここに座っていれば、全員と繋がることが出来る場所だったのだ。
更に、フー子さんが
「燈梨ー。この席はな、2列目の連中の運命を握っている場所なんだぜ! 」
と言うと、私のすぐ脇にあるスイッチを弄った。
すると、1分ほどして2列目にいた桃華さんが、こっちに振り返って言った。
「ちょっと! ぷー子でしょ、後ろのエアコン切ったの! 」
「へっへ~んだ! つけて欲しくば『偉大な風子様、この私めに風のお恵みをくださいませ』って5回言ったら考えてやるぜ~」
「ぷーこのバーカ! 誰がそんなこと言うもんですか」
「だったら、灼熱地獄に耐えるんだな~」
と、フー子さんは言うと自分の横にある引き違いの窓を開けたが、桃華さんたちは、2列目のパワーウインドーを下げた。
フー子さんは、悔しそうに
「くっそ~、そっちの窓を開けるとは……オリオリ、ウインドーロックするんだ! 」
と、言ったが、沙織さんはこちらを向きもせずに
「フー子、いい加減にしないと、どこかの駅前で窓から叩き落すからね!」
と、怒鳴ると、桃華さんが
「さっさとつけろぉ! バカぷーこ」
と、フー子さんの方を向いて言った。
往路は、原宿へと行った事、私が道を知らずにナビに頼った事から高速を使ったが、沙織さんの運転による帰りは、一般道を使っている。
私は、都内の大通りをあまり知らないので、窓の外の景色は新鮮だった。車線も広くて複数あり、車も多く、バスやタクシーも、東京だなぁ~と、感じさせてくれるものばかりだ。
駅前になると、信号待ちをしている人の多さに、私は思わず眩暈を覚えそうになるほどだった。建物の多さ、その建物自体も、どこが違うのかと、訊かれると答えられないが、でも“東京”という雰囲気を放っているのだ。
その様子を見たフー子さんが、私の肩を叩くと言った。
「ほら燈梨、こっちサイドに駅が多いから見てみな。もう、この駅なんかターミナル駅だから、いかにも『東京の駅』って感じがするだろ~」
私は、言われる方向を見ると、駅前の交差点の脇を埋め尽くす人と、その向こうにある駅ビルが織りなす大都会感に、思わず引き込まれそうになるのと同時に、いつまでもこの輪に入れずに宙ぶらりんでいる自分に対する焦りと罪悪感のようなものを感じて、とても不安な気持ちに襲われた。
すると、私の肩に優しく回された手に気がついて、顔を上げるとフー子さんが、優しく言った。
「燈梨、不安に思う事なんかないんだよ。だってさ、この間、燈梨決めたじゃん。ウチらもみんな応援してるし、力も貸すからさ、燈梨はこちら側に戻れるよ。大丈夫! 」
「うん、ありがと……」
私は言って、顔を上げると、いつの間にか2列目に座っていた桃華さん、ミサキさん、唯花さんの3人が背もたれの部分から振り返って
「あかりん。不安になったら、近くにいるんだし、私を頼りなよ! ぷー子と違って力になれるからさ」
「燈梨ちゃん。そうだよ、メールとか電話とかでも良いし、誰かいないと……って思ったら桃華もいるからさ」
「燈梨ぃ、姉さんは、そんなに燈梨に頼りにされてないと思うと、悲しくて涙出てきちゃったよぉ。桃華は痛い奴だけど、頼って良いんだぞぉ」
と、私の様子を心配して声をかけてくれた。
そして、唯花さんが
「オリオリ~、ちょっとサンルーフ開けて良い~? 」
と、言って、スイッチ操作すると、屋根がスライドした。
私は、この車にサンルーフが付いていた事を初めて知った。
2列目から操作するタイプだったのと、ガラスルーフでなかったために気がつかなかったのだ。
そして、開いたのも、ほぼ2列目の頭上で、私の方から見るには、少し身を屈めないと見えなかった。
「あのさ~、燈梨。安くてクサいこと言うよ。……空ってさ、どんな遠くまで行っても繋がってるんだよ。だからさ、燈梨がもし孤独だって思っても、私らが、この先で応援してるからさ。そう思って頑張って欲しい! いつでもすぐに会いに行くことは難しいからさ」
唯花さんが言うと、他のみんなも、うんうんと頷いていた。
私は東京の夕焼け空を見上げながら、みんなとの絆を改めて感じていた。
「ところで、昨日までいた美羽って娘は? 」
フー子さんが突拍子もなく訊いてきた。
唯花さんが、はぁ~っとため息をついて言った。
「風子は、今頃気がついたのかよぉ……冷たい奴。拓兄が、昨夜遅くに迎えに来て帰ってったよ」
「えーー! なんでーー? 」
「元々、海に行くからって言って、拓兄に納得させたからね。それに、なんか今日から祭りの準備があるとかで、忙しいんだと」
「そぉなのかー」
そう、昨夜遅く、美羽は帰って行ったのだ。
私は一緒にいたけど、フー子さんとミサキさん、桃華さんはお風呂に入っていたのでタイミングが合わなかったのだ。
美羽は、3人に直接会って別れが出来ない事を悔やんでおり、くれぐれもその旨を伝えて欲しいと言われていて、実際伝えたのだが、フー子さんは風呂上りにビールを浴びるように飲んでしまって、覚えていない様子だった。
私は、唯花さんの口走った『祭り』というフレーズになぜか心が踊ってしまったのだった。
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