みんなと東京
原宿を出発した私たちは、沙織さんに運転を任せると渋谷へと向かった。
沙織さんは、渋谷のお店に勤めていたため、渋谷は大の得意分野だというので、嬉々として向かった。
やはり初めての場所であるため、私にとっては戸惑いのある場所であったが、先ほど同様、唯花さんと朋美さん、そして、ちょくちょく来るという桃華さん、そして何と言っても元・地元民の沙織さんのエスコートで、不安なくスムーズに色々な所を見て回れた。
原宿が食べ歩きメインになったのに対して、渋谷ではお店回りが中心となり、また、フー子さんたちは、5人で渋谷に来るのは初めてという事もあり大いに盛り上がって、あちこちのお店を見て回った。
「私とトモは、単独でよく都内に行ってたけど、桃華はいつも来なかったしね、高校の頃含めて全員で来たことは無いねぇ」
「あたしは、ミサキとオリオリに会いに1回だけ来たことがあるくらいかな? 別に誰も知り合いいないから行っても仕方ないしね」
唯花さんとフー子さんが次々と口にしていた。
私は、初めての場所でも大いに盛り上がれるこの5人の順応力の高さに感心してしまったが、それを見た沙織さんから
「燈梨、大概あんたもあの5人と変わらないわよ」
と、言われて、少し嬉しいような信じられないような気持ちになった。
お昼は、沙織さんのおススメのカレー屋さんに入った。
沙織さんは、あまり長いこと渋谷にはいなかったと訊いているのだが、ここを含めて、あちこちのお店の人と顔見知りなのに私は驚いた。
沙織さん曰く
「まぁ、1度お店に来て貰ったりして繋がれば、その後も暇なときに連絡したり、沖縄に来た時なんかに会ったりしてたしね。ただ、舞韻の奴に捕まってた時は、手錠されてた上に、内容のチェックも入ったから、ちょっと頻度は減ったけどね」
だそうで、お店の人もサービスでラッシーや、デザートをつけてくれて、少しでも長く沙織さんと話したい様子だった。
原宿、渋谷と探索したが、まだ午後になったばかりくらいで、時間があるため、渋谷を更に探索するのかと思ったら、フー子さんと唯花さんがニヤリとして
「秋葉原に行きたい」
と、言い出したため、次は秋葉原へと移動した。
秋葉原と言うと、私にとってはサブカルチャー系のイメージが強いが、沙織さんから、昔は電気機器の街だと訊かされ、やはり、世代によってイメージの違いがあるものだと思わされた。
特に、コンさんの若い頃などは、まだ秋葉原が今ほど明るいイメージで見られていなかった頃なので、コンさんにあまり大きな声で秋葉原に行った……などと言うと、渋面を作られるかもしれないと言っていた。
「フォックスが、学生の頃、友達と秋葉原に行くのに、親に言うと凄く嫌な顔されるから『神田に行く』って言って誤魔化してたって言ってた」
車を降りると、フー子さんとミサキさんを先頭に駅前の混雑を抜けて、ずんずんと進んで行った。
「みんな、何処に行くの? 」
と、私が訊くと、先頭の2人が振り返り、5人全員が
「決まってるじゃん! 」
と、言うと、私の手をみんなで掴んで、目的地へと一直線に向かった。
みんなと行ったのは、メイドカフェだった。
「燈梨ぃ、やっぱり秋葉に来たからには、本場のメイドカフェこないとダメでしょー」
と、唯花さんに言われたが、私は、初めてのメイドカフェに戸惑うばかりであった。
それを知った他の5人は、やって来たメイドさんに耳打ちすると、メイドさんは頷き、直後にミサキさんと桃華さんが
「今日の主役はこの娘だから、思いっきりお迎えしちゃってぇ~! 」
「燈梨、あ・か・り・ん、行っけぇ~! 」
等と囃し立てたため、私は、メイドカフェのフルコースでのおもてなしを受ける事となった。
いつの間にか、お店の中があかりんコールで一色になってしまうなど、私が妙に目立ってしまう時間を過ごして、時間は過ぎていった。
メイドカフェを出て、ぐったりしている私を見たみんなは、私を捕まえると、唯花さんと桃華さんが
「燈梨、良かったな主役になれて、姉さんは嬉しくて涙が出ちゃうよ~」
「あかりん、ここでぐったりしている暇は無いんじゃない? 秋葉原の醍醐味はここからだぞ」
再び、みんなに掴まれると、私はあちこちのお店を見て回ることになった。
最初はグッズショップを中心に見て回った。私のイメージとは違って、結構私でも欲しいかも……と思うようなお洒落なものも多く、私が持っていた暗くて、怪しげなイメージはすっかりと払拭された。
「どうだー、燈梨、結構イイ感じのグッズとかあるだろー! 」
「うん、今まで私が持ってたイメージとは全く違って、凄くお洒落な感じだね」
フー子さんに言われて、私が思わず答えると、唯花さんと桃華さんが
「燈梨~、実は私もここで買ったものをつけてるんだぞ」
「あかりん、ちょっとこれ見て~」
と、言って唯花さんが腕を、桃華さんが首元を見せるので見てみると、それぞれ、お洒落なブレスレットとネックレスと思いきや、よく見るとアニメのキャラが打刻されているものだった。
「へぇ~」
私が感心していると、フー子さんが
「実は、ウチらも高校生になりたての頃とか、こういう趣味とかを毛嫌いしてたところがあったんだけどさ、ある日唯花と朋美がしてたオシャレなネックレス見たら、キャラの彫刻がしてあってさ。それ以降、半年に1回くらい秋葉原にみんなで来たよな」
と、言うと、ミサキさんも
「私は、装飾系じゃなくて、分かりやすいグッズを買うんだけどさ。でも、私たち5人の東京って言うと秋葉原なんだよね」
と言った。
そこで私は不思議に思ったことがあったので
「さっき、5人でって言いましたよね? でもって、桃華さんっていつも東京について来なかったんじゃ? 」
と訊くと、ミサキさんはぷぷっと笑いながら言った。
「桃華はね、例外的に秋葉原にだけは、3時間限定とかで来たのよ。神田に親戚の家があるとかで、そこに行ってる時にだけ、ちょっと抜け出してきたの」
「神田の伯父さんは優しい人でね。『友達が来てるなら行ってきなさい』って言って、パパたちを誘ってワザと美術館とか時間のかかる所に連れ出してくれたの。でも、時間的に秋葉が限界だったのよね」
桃華さんは、遠くを見ながら懐かしそうに言った。
「じゃぁ、ここは、みんなの思い出の地なんだね」
私が言うと、突然みんなに両手と両足を持ち上げられて、胴上げのように祭り上げられると
「よし!じゃぁ、燈梨の思い出にもなるようなところに行くか! 」
という、唯花さんの掛け声とともに、その体勢のまま、大通りを連行された。当然の如く、通行人の注目は私たちに向いた。
私は恥ずかしい思いをしながら、とあるビルのエレベーターを降りたところで降ろされた。
「もう! 周り中の注目の的だったじゃん!しかも、痛い方で。沙織さんも、他人のふりしてサイテーなんですけど」
「え!? もしかして、私の知り合いだった? ……燈梨じゃない、久しぶり~」
私が沙織さんに怒りをぶつけると、とても白々しくとぼけられた。
そして、私が沙織さんに注意を向けていると突然背後から
「だ~れだ? 」
と、目隠しをされた。
さっきから恥ずかしい目に遭わされて、ちょっと不機嫌だった私は
「唯花さんでしょ! もう、くだらない事はやめてよ」
と、言うと
「ぶっぶ~! 声が私だからと言って、私がやっているとは限らないんだな。未熟者め! わが軍の処刑場に連行してやる」
と、言われて後ろからグイグイと押されてどこかへと連れて行かれた。
そして、しばらく歩いて止まると
「それっ! 」
という声と共に目の前がぱあっと開けた。
そこには鉄道模型のジオラマが広がっていた。
「わあっ! 」
私は思わず声を上げると、隣にいた唯花さんが
「どうだ~、燈梨、ここは模型やホビーの店なんだぞ。今日のシメはここで、プラモや鉄道模型や、昨日のミニッツなんかを眺めて、英気を養うんだ」
私は、色々なプラモを見ていくうちに、この間の山の中にあった赤いのと同じレビンのプラモを見つけた。
朋美さんがそれを見て言った。
「燈梨ちゃん、この間の例の山のハチロクみたいにしたいの? だったら、これは後期型だからちょっと違うから、頑張らないといけないよ」
「ちょっとって、どんな違い? 」
「フロントグリルとテールランプ。テールランプは大きさが違うんだよね。それと、フロントのシートの形が違うんだよ」
「そうかぁ……」
私は、そう言えば以前に買ったRX-7のプラモデルに手をつけていない事を思い出して
「そうだ、前のRX-7作ってなかった」
と言うと
「じゃあ、今日帰った後、少し手をつけてみようよ」
と言われて、プラモのコーナーを出た。
次に入ったミニッツのコーナーで、私は色々とボディと共にキットを見ていた。
やはり、走らせられるマシンが無いと、みんなと遊ぶことも、ボディを取り替える事も出来ないので、なにか、私の相棒を探したいと思って見ていた。
すると、フー子さんが言った。
「燈梨は初めてやるんだから、こういうスタートキットみたいなのが良いぞー。これだけ買えば、今夜からでもはじめられるからさ」
私は、じっくりと考えてみた。
どのみち、今のところS14のボディは無いので、自分の車を再現するのは難しい。
でも、自分の中で、どのボディが、最も自分の相棒として相応しいんだろうと、今日になってからはじめてくらい真面目に自分に問いかけた。
そして
「これにする! 」
私は、ミニッツを買った。
お読み頂きありがとうございます。
少しでも続きが気になる、見てみたいかも……と、思いましたら、評価、ブックマーク等頂けると活力になります。
お気軽にお願いします。