探索と原宿
朝が来た。
明日の昼過ぎにみんなは帰るため、今日が、みんなと1日過ごせる最終日となった。
今日は、みんなと都内探索に出かける予定になっていた。
渋谷や、原宿に行ってみんなと流行りのお店を探索する。
今までの私が、出来なかった楽しみなので、私は、今日の探索をとても楽しみにしていた。
沙織さんも同行する予定だったが、朝食前に、沙織さんがコンさんに呼ばれていき、出発寸前になって、2人が来ると言った。
「燈梨、申し訳ないんだが、沙織と重要な話があるんだ。沙織だけ遅れて合流になるけど勘弁して欲しい。ホントにゴメン! 」
「燈梨、あたしは電車で後を追うから、順番だけ教えてくれる? 」
私は、2人の緊張した面持ちを察して、不安にさせないように表情を変えることなく言った。
「うん、分かったよ。都内はあんまり分からないから、早く来てくれると嬉しいな」
この話が、昨日の舞韻さんの態度と関係あるのかどうかが気になったが、訊ける状況ではなかったので、言葉を吞み込んだ。
移動は、コンさんのサファリに乗って行った。
渋谷や原宿なので、電車の方が良いのでは? と、私は思ったが、コンさんも、沙織さんも、そしてみんなも、ごく自然の流れで車で行く話になっていた。
沙織さんがいないため、サファリの室内は2人-2人-2人で乗れ、少し余裕があった。
私は、大人数のサファリを運転するのは初めてだったが、あまりにもいつもと変化が少なく運転できることに驚いた。
私のシルビアは論外だろうが、マーチにしても、エクストレイルにしても、普段1~2人で乗ってる時と、4人乗った時では、アクセルに対する反応や、ブレーキの効き具合などが全く違っていて、全く別物のような動きを示すのだ。
まぁ、人数が違えば、その分の重さやバランスも変わってくるのだから当然だが、このサファリは懐が広い、というか、余裕があるというか、いい意味で鈍感なのだろう。普段と変わぬ走りだった。
恐らく元から重いので、この程度の重量は誤差の範囲内なのだろう、と勝手に判断した。
そして、この車が都内に向かない事を、まざまざと実感させられた。
小回りがきかないし、車線内いっぱいいっぱいで、身動きがとり辛い。
しかし、この車が憎めないのは、私たちが乗っているのはかなりミスマッチらしく、私たちがこの車から降りてくると、周囲から注目の目線を一斉に浴びるのだ。
最初に原宿へと行った。
この選択が後で正解だったと思ったのは、この日に回った3ヶ所のうち、最も運転の難易度が高いのが原宿だったことに痕から気付いたからだ。
最初に最高難易度に慣れたおかげで、後からの運転がかなり楽になった。
唯花さんと朋美さんが、車から降りると私の両脇に、それぞれ腕を組んで歩き出した。
「燈梨は、原宿は初めてかい~? 」
「うん」
「だったら、姉さんに任せとけ~! 最高のエスコートをしてやるぞー」
私は、唯花さんのハイテンションに驚いて、目を白黒させていると、朋美さんが笑顔で言った。
「ユイはね、昔から、流行りに置いていかれないようにって、ちょくちょく私を連れて東京に行ってたんだ。私が、そういうのにちょっと疎いって知ってたからさ、『トモは強制参加だからな~』って」
「へぇ~」
「大変だったんだから、ユイったら、変な外人について行こうとしたり、怪しいクスリ売ってる所に連れて行かれたりしてさ……」
「はははは……」
私たちは、唯花さんのおススメに沿って、食べ歩きをした。
唯花さんは流行りのところから、知る人ぞ知る……というスポットまでしっかり押さえてあり、私たちは驚きの連続の中、お腹を満たすことが出来た。
「今日は車だからさ、テイクアウトも心置きなくできるのが良いよなー」
唯花さんの言う通り、私がコンさんや、舞韻さんの分も、と言って買ったり、唯花さんや桃華さんが「コレ、帰ってからも食べたくなるからさ~」と言って買った分が、結構な量になっていて、電車で帰るのであれば、確実に負担になる量になっていた。
このB級グルメが、家でも楽しめるとなれば、車で来た甲斐があったなぁと思えた瞬間だった。
突然、肩を叩かれて振り返ると、私の頬に誰かの人差し指が刺さった。
その指の主を見ると、沙織さんだった。
「お待たせ~。ようやく追いついた」
「おぉ~、オリオリぃ、ちょうど良かったぞ。これからシメに原宿クレープ行こうと思ってたんだ」
唯花さんが応えると、沙織さんが、私が持っていたテイクアウトの荷物をひったくると喚いた。
「お前ら! 運転手の燈梨に、荷物持ちまでさせるなよー! 」
「だってー、燈梨はじゃんけんで負けたんだもん」
フー子さんが喰い下がった。
実は、そうなのだ。
沙織さんが来る10分くらい前に、荷物がちょっと負担なので、私が休んでいたところ、ミサキさんが提案して、荷物持ちを決めるじゃんけんをして、結果、私が負けたのだ。
しかし、沙織さんは言った。
「そもそも、燈梨が重そうだからって、じゃんけんしてるのに、そこに燈梨を参加させてる事自体、おかしいってなんで気がつかないんだよー」
言われて、みんな初めて、それがおかしいという事に気付いたようで、みんなが少しずつ荷物を持って目的のクレープのお店へと移動した。
みんなで頼んだものを待ってる間、沙織さんが訊いてきた。
「車、遠いの? 」
「うーん……近くは無いけど、そこまで遠くも無いよ。10分以内かな」
「都心は、結構無いからね」
「いや、それ以上にサファリのロングボディのハイルーフが入れる場所が、少なかったんだよ」
「確かに~」
私は周囲を見回して確認すると、へらっと笑う沙織さんに訊いた。
「コンさん、何の話だったの? 」
沙織さんは、ちょっと真面目な表情になったが、それでも笑顔を浮かべて言った。
「燈梨にも関係するから、先に話しとくね。あたしが、週明けから、舞韻の家を出てフォックスの家で暮らすって話」
「えっ!? 」
「舞韻も、住んでるマンションの更新月でさ。そこで住んでる人数の変更とかやると、お金も手間もかかるし、フォックスの家にも空き部屋があるし、そういう事」
私は、唐突に取ってつけたかの理由で、言ってきた事と、昨夜の舞韻さんの事が気になって訊いた。
「それって、舞韻さんの事も関係あるんじゃないんですか? 」
沙織さんは、鋭い目つきで私をチラッと見た後、ほぉ~っと驚いたような表情になって言った。
「鋭いわねぇ~……って言いたいところだけど、理由はそれだけよ。むしろ、舞韻の何が関係あるの? 」
私は探ろうとしたが、逆に沙織さんに探られそうになって気がついた。この人たちは、プロだという事に。下手に掘り返そうとすると、逆に根掘り葉掘りこちらの掴んでいることを訊き出され、抜き取られる事になりかねないのだ。
私が、警戒していることに気がついたのか、沙織さんは
「いやだぁ~、燈梨が舞韻の何を調べてるのかは知らないけど、私はアイツに何か言ったりしないわよぉ~」
と、派手なリアクションで言った。
恐らく、沙織さんは本当に舞韻さんの昨日の妙な動きに関しては知らないようだ。
私は、沙織さんと情報共有をした方が良いのかを考えようとした時、クレープがやって来たので、それを中断した。
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