舞韻とフォックス
舞韻の動きで目が覚めた。
片手で舞韻の手を握り、もう片方の手で肩を抱いて寝ていたので当然だが、気がつくと、仰向けに寝ていたはずの舞韻が、こちらを向いており、目が合った。途端に恥ずかしくなって互いに目を逸らした。
今までは舞韻と目が合っても、何も感じなかったが、昨夜の出来事を見ると、意識してしまう自分がいた。
それは舞韻も同じようで、耳まで真っ赤になって、俯いていた。
舞韻は布団に正座すると、膝の間に手を入れて、もじもじしながら言った。
「あ、あの……オーナー」
「な、なんだ? 」
「私、あの、昨夜は疲れた上に酔っていて……」
「み、みたいだな」
「それで、昨夜の事なんですけど……」
「昨夜の事って、どの事だ? 」
俺は思わず、ストレートに疑問をぶつけてしまった。
昨夜の舞韻は、本人の自覚の有無は別として、随分と色々な事をしていたので、どのことについての事かを知っておかないと、色々地雷を踏み抜きそうなので、無意識に訊いてしまったのだ。
すると、舞韻は更に真っ赤になりながら、恥ずかしそうに言った。
「あっ……あのっ、オーナーに、その、胸を……触らせたり……その、しゃぶらせたり……とか」
「舞韻、確かに触りはしたが、しゃぶってはないぞ」
俺は、舞韻の心的負担を軽くしてやろうと、正確に指摘したところ、舞韻はぽかんとした表情になっていたが、すぐさま作り笑顔を浮かべて
「そうなんですかぁ、良かった。取り返しのつかない事をしちゃったんじゃないかと思って……あははは」
と、言うと、立ち上がって布団を片付けようとした。
しかし、立ち上がろうとした瞬間、カクンとなって、俺の方へと倒れ込んできて、俺は舞韻もろとも布団に倒れ込んだ。
「オーナー、大丈夫ですか? 足が痺れてる事に気付かなくて、立てなかったです……」
舞韻は、そう言ったきり、静かになった。
他方、俺は、舞韻もろとも倒れ込んでから、視界が塞がって真っ暗になっていた。
俺は、その状況下で、舞韻の事が真っ先に頭をよぎった。
昨夜から、疲れと酔いで、言動に乱れがあり、その上でさっきから何度も真っ赤になっている上、足の痺れも感じない程、感覚が鈍っていて、言葉が途中で切れた。
体が本調子でないのに、無理して起きたために、途中で意識が途切れたのではないか? そう考えれば、真っ赤な顔にも説明がつく、熱があったんだ。
そう結論付け、急いで起き上がって舞韻を介抱しなければ……と、思い目を凝らして周囲を見回すと、俺は今、自分がとんでもない状況になっている事に気がついた。
……それは、今、俺は倒れてきた舞韻の胸をしゃぶっているという事だ。
事故とはいえ、それはあってはならない事態だと思って、慌ててこの状況から抜け出そうとすると、上に乗っかっている舞韻から、強く押さえこまれた。
「うぶぶ……うむー、むむうー! 」
声を出そうとするが、口全体が舞韻の胸に塞がれており、声にならない。
すると、上の方から舞韻の声がした。
「ぁん……フォ……クスぅ。ダメぇ、喋っちゃ。なんか……変な気分に……なっちゃいそう」
周囲が見えてくるようになると、とんでもない状況であることに気がついた。
舞韻は、昨夜寝ぼけていたり、寝相が悪かったせいで、パジャマの前ボタンが開けており、俺は昨夜とは違い、舞韻の胸を直に咥えてしまっている。
俺が口を動かすと、舞韻の乳首は直に刺激されてしまうのだ。
そして、昨夜の件で分かったことだが、舞韻は乳首で感じやすいので、俺が喋ると取り返しのつかない事になってしまう。
俺は、自由になる腕で、舞韻を軽く叩いて、解放するように合図をしたが、次の瞬間、舞韻から
「フォックスぅ。そんなこと言わないで、続き、しましょうよぉ」
と言う耳を疑う言葉が飛んできた。
「フォックスは、昨夜の私の言葉を訊いちゃったんでしょう? だったら、ここでやめないで! 続き、しましょうよぉ」
俺は、一瞬の隙を突いて顔を上に向けて、舞韻の胸から解放されると
「何言ってるんだ? 舞韻、お前は俺の娘同然の存在だぞ。そんなことが……」
すると、その言葉に途中から被せるように舞韻が言った。
「私とフォックスに、血の繋がりなんて無いですよね! フォックスは勝手に『親子だ』なんて言いますけど、勝手に線引かれて、女扱いされなかった私の気持ち、考えた事あります? 」
舞韻の言葉は、穏やかではあるものの、確実に怒気を含んだものだった。
しかし、舞韻は、セックス恐怖症なはずだ。
舞韻は、俺の部隊が、急襲して敵部隊を全滅させるまでの4日間、昼夜を問わず輪姦され、その度に、自分の部下を目の前で殺される光景を目にしていたのだ。
そして、残ったのが舞韻だけになったその日、午前中にも散々犯された後で、午後一で処刑される予定になっていたのだ。
救出の際、全裸だった舞韻を見かねた俺が、上着を貸そうと脱いだ際も、舞韻は、俺に犯されると思い、石を投げつけて威嚇してきたのだ。
それほど、嫌っていたので、昨夜からの積極的な姿勢は、俺には信じられないのだ。
「しかし、舞韻。お前は確か……」
俺が言うと、舞韻はまた俺の言葉に被せてきた。
「私がセックスに対して、恐怖心がある事は本当ですよ。今でも、でもね、それは時と場合によるでしょ! そりゃあ、私だってしたい人とだったら、できますよ! セックス、できて嬉しいですよ! 分かります? 」
言い終わると、再び胸を俺の口の中に入れてきた。
「フォックスが、胸好きなのは、最初から知ってましたよぉ。だから、嬉しかった。今まで兵士として邪魔で仕方なかった、大きな胸が、初めて私の武器になるって事を知ったから。だから、あの日から、この胸には誰も触らせなかった」
そう言うと、更に胸を押し付けてきて
「あふぅん……そう、もっと刺激してくださいよ。じゃないとぉ、私の胸が大きい意味がないじゃないですかぁ」
と、言いながら、今度は逆の胸を俺の口に含ませてきた。
「ほらぁ、私、今こうやってフォックスと、こういう事しても、全然怖くない。むしろ、嬉しいし、もっともっと、したいと思う。ホントですよ」
舞韻の声は、喜びに満ちていた。
俺は、複雑な心境と罪悪感で、何も出来ずに、舞韻にされるがままになっていた。
舞韻のセックス恐怖症が、克服できているというのは喜ばしい限りだった。
舞韻を初めて見た時から、不幸のどん底で拾い上げたこの娘に、世界一幸せになって欲しいと願っていたからだ。
しかし、その相手が唯一俺でなくてはいけないのだ、というのが正直複雑なところだ。
正直、舞韻は可愛らしいし、スタイルもいい。ちょっと筋肉が付きすぎている気もしなくはないが、それは軍人出身なので致し方ない。
好きなタイプかと訊かれれば、そうだ、と迷いなく答えてしまうほどだ。
だから、即ち舞韻を迷いなく抱けるかと言うと、それは必ずしもイコールではない。
俺の注いだ愛情は、父親としてのものであり、師匠としてのものであって、男としてのそれではなかったからだ。
その舞韻と、そういう関係になるという事は、それは、傷ついた小鳥を拾って、手塩にかけて育てた後で、焼き鳥にして食べてしまうような、そんなとてつもない罪悪感に囚われてしまうのだ。
舞韻は、俺の心の葛藤を知っているのだろう。
さっきから体をくねらせて、積極的に俺の体へとアプローチして来るのだ。
俺が動かなくても、感じさせてしまうように、もう、そうせざるを得ないようにしている。
「あぁ……フォックスぅ、悩んでるんでしょ? フフ、でも、大丈夫。フォックスが悩んでる間に、そういう事、私がしちゃいますからねぇ……。もう悩む必要、無いですよぉ」
舞韻は、とてつもなく積極的になって、俺に馬乗りになると、パジャマを脱ぎ捨てて、再び俺に覆いかぶさると、俺の下半身をまさぐり始めた。
「ほぉら、フォックスの身体だって、正直じゃないですかぁ……あぁ、嬉しい。昨夜夢で見たんです。フォックスと結ばれる夢。……良かったぁ、夢で終わりじゃなくて」
舞韻は昨夜、寝ながら見せた恍惚の表情を浮かべて、まさに、それは始まろうとしていた。
その時、部屋のドアをノックする音がして、我にかえった。
「コンさん、舞韻さん、起きてる? 」
燈梨の声がした。
俺と舞韻は慌てて音のする方を見たが、燈梨は続けて
「コンさん、ちょっと入って良い? 」
と、訊いてくるので、俺は
「ちょっと待て、着替え中だったんだ」
と、言うと、慌てて2人で着替えを済ませて、燈梨を部屋に入れた。
燈梨は部屋にある物を取りに来ただけのようで、用が済むとさっさと出ていったのだが、さすがに着替えも済ませた後で、続きをする気にもならずに、俺達はリビングへと向かった。
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