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逆転と微笑み

 ミニッツ大会は、やはりというか、散々なものであった。

 私と美羽、桃華さんは、ラジコン未経験者だったので、コントローラーの使い方からして、おっかなびっくりだったし、まず、まっすぐ走れなかった。


 そして、ラジコン慣れしていないので、ハンドルを切って、自分の正面から向かってきた時に、思わず逆にハンドルを切ってしまうため、壁に向かって一直線に向かって行ってしまい、気付くと周回遅れになっていた。

 私と美羽が交代で使っていたニュービートルは、壁にガシガシとぶつかって、ゴールを切ることなく棄権となってしまった。


 途中、美羽から


 「燈梨は、車運転できるのに、ラジコンはまともに走らせられないんだね」


 と、言われて、恥ずかしさと悔しさが同時にこみあげてきて、体が熱くなるのを感じた。


 大会の結果は、唯花さん、フー子さん、朋美さん、ミサキさんの順で、そこに桃華さん、美羽、私の初挑戦組が、賞典外だった。

 唯花さんが


 「今日が初めてなら、それが普通だよ。気にしない……って、桃華は、兄ちゃんのラジコンやったことあるって言ってたじゃん」


 と、言うと


 「でも、コントローラーが、こんなんじゃなかったもん。縦横のレバーがあってそれで動かすやつだったからさ……きっと、車がいけないんじゃないの? 」


 と、桃華さんが反論した。

 すると、フー子さんが


 「オイオイ桃華ぁ~。負けたからって、マシンのせいにするなよ。そもそも桃華、真っ直ぐだって、まともに走れなかったじゃん」


 と、言うと、沙織さんが


 「じゃあ、ホントにマシンが悪いのかどうか、あたしと誰かでやってみればよくね? 」


 と、言ったので、フー子さんが


 「あたしとやろうぜ! オリオリ」


 と、自分のマシンであるロードスターを出してきた。

 フー子さんのロードスターは、自身が乗っている実車のそれによく似せてあり、フー子さんの愛情を感じられるマシンであった。


 「いっくぞ~オリオリ」


 序盤はフー子さんが飛ばしていったが、中盤の立体交差の辺りから徐々に差が縮まっていき、最終的には、ほぼ同着ながら、鼻先でフー子さんの勝ちという結果だった。


 この結果にぐうの音も出なかった桃華さんは、以後、フー子さんから


 「桃華はヘタクソのくせに、マシンのせいにする奴だからな」


 と、言われ続けていた。

 1回目の大会の後は、私たち初心者組に対して、1人に1人がついて基本操作のレクチャーが行われた。

 ちなみに、桃華さんは


 「私は、ぷー子は嫌、ミサ、お願い」


 と、言ってミサキさんが指名されて行った。

 美羽には朋美さんがついて、私には唯花さんがついた。


 「ラジコンは、基本操作と感覚さえ掴んじゃえば、後は慣れだからさ。その点、燈梨は、練習場所がある分、これからの練習次第で、伸びると思うよ」


 と、言いながら、唯花さんのマシンである黄色いランエボで、徹底的に基本動作を学んだ。

 唯花さんのマシンも、自身の車と似た仕様に仕上げてあって、愛情が垣間見えるものとなっていた。

 唯花さんのマシンを動かしながら、私は訊いた。


 「こういうのって、ボディに着せ替えとかできるの? 」

 「うん。結構色々なボディが売ってるよ。シルビアもあるんだけど、S13と15で、14は無いんだよなぁ」


 と、ちょっとばつの悪そうな表情で言った。

 やはり、幅広いニーズに合わせようとすると、マニアックなところにまでは、なかなかラインナップが充実しないとのことで、ちょっと残念な気がした。


 「トモのだって、元々鉄仮面なんてなかったから、西部警察仕様のボディを改造して、無理矢理通常の前期RSに仕上げたし、美咲もローレルなんてないから、R34GT-Rだしね」


 と、唯花さんは補足した。

 朋美さんのボディは、元々35年以上前にやっていた刑事ドラマに出ていた同型のスカイラインの改造車のボディを買ってきて、元々ついていた回転灯や、エアロパーツを外し、穴を埋めて色を塗り直したそうだ。

 しかし、後期型の顔には出来ずに、前期型の顔周りが違うバージョンになっているそうだが、朋美さん的には満足しているとのことだ。


 「まぁ、凝り出すとプラモ使ってボディ自作したりする人もいるからねぇ~。どこまでやれるかだよ」


 と、言っていた。


 私は、ボディを何にしようかで、悩み始めている自分がいる事に気がついて、やはり、この世界にどっぷりはまり込んでいる事に気がついた。

 それに気づいた唯花さんが


 「今度さ、ウチらのところに来た時に、色々なボディが売ってる所に行ってみようか? 実際に見てみると、気に入るのがあるかもよ」


 と、言ったので、私は頷いて


 「うん、ぜひ行ってみたいな」


 と、自然と笑顔で答えた。 


 すると、唐突に桃華さんが言った。


 「ちなみに、ラパンはある? 」

 「無いな」


 唯花さんが即答した。

 すると、朋美さんが言った。


 「ハスラーのプラモでも使って自作するしかないんじゃね? 」

 「それって、ちょっと難しくない? フロント周りの造形が結構違うよ~」


 と、ミサキさんも話に入ってきて盛り上がっていた。


 みんなの話に混ざりながら、基本動作を教わっていくと、まっすぐと、曲がる事、そして、パイロンを置いての8の字走行などは出来るようになった。

 あとは、逆向きになった時の、ハンドル操作が自然にできるようになれば、一応完走は出来そうなところだが、そこに悩んでいると、唯花さんが


 「まずは燈梨、このコースをゆっくりでいいから走ってみる事から始めようよ。そうすれば、感覚も分かってくるからさ」


 と、言って、コースの端にマシンを置いた。

 普通には走れるようにはなっていたが、やはり逆向きになると、ちょっと不安が頭をよぎった。

 すると


 「ゆっくり、別に誰かと競ってる訳じゃないんだからさ」


 と、言われて少し気が楽になったような気がして、落ち着いて


 「思う方と逆に」


 と、言い聞かせて遂に曲がれるようになった。

 すると、後ろから同じようにゆっくりとR30がやって来たので、ふと横を見ると、美羽が朋美さんにコーチを受けて走らせていた。


 「オイ燈梨ぃ、美羽っちに負ける気か~」


 と、唯花さんがさっきと逆のことを言っているので


 「なんか、言ってる事おかしくない? 」


 と、言うと


 「速さを競ってるんじゃないよ。正確さの話をしてるんだよ」


 と、言われて気がつくと、私のエボは、直線コースの端の方へと吸い寄せられるように、よろよろと進んで行っていた。

 私が、色々考え事をしたり、余所見をしているうちに注意力が疎かになっていたのだ。


 「燈梨は、車運転してるのにそれじゃあ、姉さん、先が思いやられるよぉ」


 と、唯花さんに呆れられたように言われてしまったので


 「そんな事ないもん」


 と、必死になってコースの中央に復帰した途端、後ろから勢いよく来た影に弾き飛ばされた。

 唯花さんが、ちょっとマジに抗議した。


 「オイ桃華、ふざけんなよー! ヘタクソのくせに、スピード出すなよー! ぶつかったじゃないか」

 「ゴメン」

 

 慌てる桃華さんに、ミサキさんが


 「もう、桃華ったら、なんでそんなに、スロットル開けたがるの? ラジコンでこれだけ運転が荒いと、実際に車の運転も荒いんじゃないの? 」


 と、追い打ちをかけるように言った。

 そこに、離れたところで沙織さんと話していたフー子さんが、やって来て


 「やーい、やーい、桃華のヘッタクソ。胸も無くて、運転もヘタで、ラジコンもヘタじゃ、いいとこ無しじゃんかー」


 と、桃華さんのトリガーを思いっきり引いたため、次の瞬間


 「ぷー子は関係ないでしょ! コイツ、昼間からどさくさに紛れて私のことをバカにして、マジぶっ殺すから」


 と、言うや否やフー子さんに掴みかかった。

 暴れる2人と、止めに入るみんなで、すっかりがらんとした中を、私と美羽のマシンは、ゆっくり、そして着実に走ることが出来、2周目に入ると、苦手だった逆転現象にも慣れて、ヨタヨタしながらもぶつかる事なく走ることが出来た。


 私は、美羽と互いを見ると、美羽はニコッとして


 「楽しいね」


 と、満足そうに言った。

 私は、思わず


 「うん」


 と、答えていた。

お読み頂きありがとうございます。


少しでも続きが気になる、見てみたいかも……と、思いましたら、評価、ブックマーク等頂けると活力になります。


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