表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/178

駄々っ子と背中

 隣の部屋は、一面カーペット敷きの部屋だった。

 そのカーペットが敷かれた部屋の半分くらいが、低い壁のようなもので仕切られて、その中は迷路状に作られていた。

 一部立体交差になっていたりして、なにかのサーキットのように見えなくもないが、ここで車を走らせることは無理があるので、考えていると、唯花さんが言った。


 「ここで、私らと燈梨の熱い思いが戦わされるんだぜぃ」

 「えっ!? ここで、何をするの? 」


 私が言うと、唯花さんはニヤッとしながら、片手は拳銃を打つような仕草で、もう片手で、さっきの拳銃の構えの手の上の方のダイヤルを回すような仕草をしたので、ここで、動く標的を拳銃で撃つのかと思った。

 なので、私は


 「いや、私は撃ったことがないから遠慮するよ」


 と、言いながら、そそくさと元いた部屋へと戻ろうとしたが、唯花さんに肩を掴まれると同時に、背後から何かが足にぶつかった。

 後ろを振り返ると、部屋の隅の椅子に座っていた舞韻さんが、手に何かを持っていた。


 「燈梨ぃ、何言っちゃってる系よ。こんなところで銃を撃ったりしない系よ。ここでやるのは、コ・レよ」


 と、手に持ってる物をこちらに向けて見せてくれた。

 それと同時に私の足にぶつかった物を見ると、ミニカーと、プラモデルの中間くらいの大きさのニュービートルだった。


 それに、私は何となく見覚えがあった。

 確か、この間、みんなと行ったアウトレット内にあった模型屋さんのコーナーで見た記憶がある。

 確か名前は、ミニッツと言ったはずだ。

 そして、これはみんなも持っていると言っていたので、と思っていると、私の表情を見た唯花さんが


 「燈梨ぃ、思い出したみたいだね。みんなも持って来てるから、今夜練習して、明日の夜もやろうぜぇ~」


 と、私の背中をポンポンと叩きながら言った。

 しかし、私は本体もコントローラーも持ってないので、唯花さんを見つめて口をパクパクさせていると


 「私のは貸さない系よ」


 と、訊いてもいないのに舞韻さんがニヤニヤしながら言った。

 今日の舞韻さんは、妙におかしい。恐らく昼間のことがあったからだろうと思っているが、妙に私に絡んでくるのだ。


 すると、私の後ろからやって来た沙織さんが


 「ちょっと、舞韻、使わせてやりなさいよ。そもそもそれ、新しいのを買ったからって、ここに放置してたやつでしょうが」


 と、言うと、お酒のせいか妙に目の据わった舞韻さんは、私たちを見下ろすように


 「置いてあるけど、ヤダ! なんで、今日酷い目に遭わされたあんた達に、してやる必要あるのよ。せっかく海で遊びたかったのに、半日埋められててさ、後半なんて、目隠しと猿轡されて、何も見えないし喋れなくて……せっかく水着新調したのに……うぅ……うぅぅぅぅぅ」


 と、言い、後半は泣き始めてしまったので、私は舞韻さんの肩を抱いて、介抱しようと近付いた。

 すると、次の瞬間、舞韻さんがニヤリとしたかと思うと


 「スキありぃ! 」


 と、言う言葉と共に、あっという間に私は床に押さえつけられてしまった。


 「ぐっ……」

 「フフ、燈梨。プロ相手に隙だらけで近づいてくるなんて、自殺行為系ね。本気なら殺せた系よぉ……って、あんた達は動かない! 」


 その言葉で、沙織さんと唯花さんの行動は規制されてしまった。


 「分かってる系ねぇ、動くと燈梨の首がへし折られる系よ! 」


 と、言うと私を立たせて、自分も立ち上がると、私を羽交い絞めにして、入口の方に移動した。


 「どうするつもり? 」


 沙織さんに言われた舞韻さんは


 「そうねぇ、せっかくの海を台無しにしてくれたお礼に、燈梨を全裸に剝いてイタズラしちゃおうかなぁ、私の水着脱がせたんだから、それくらい当然よねぇ。それから、目隠しと猿轡して、全裸でお出かけしようかぁ。どこに置いていかれるのかは、お・た・の・し・みでねぇ」


 と、ニヤニヤしながら言って、私に顔を近づけてきた。

 舞韻さんからは明らかに分かるほどお酒の匂いがしていた。


 「あんたが悪いんでしょうが! 燈梨達に復讐なんて考えるから。だから埋められたんでしょ! 」


 沙織さんが言うと


 「そもそもの原因は、燈梨が私にイタズラしたからでしょ! なのに、なんで私が降参したり、挙句埋められて目隠しされなきゃならないのよ! そんな理不尽ある? 」


 と、舞韻さんは震える声で叫んだ。

 私の背後ですすり泣くような声が聞こえてきており、今日の舞韻さんはいつもとは様子が全然違うのだ。


 正直、怖い。


 いつもの舞韻さんは、みんなのお姉さんとして、理性的に、且つ模範的に行動していたのだが、それがまるで駄々っ子のようになっている。

 普段模範的な行動をしている人の幼児退行を見るのは、なかなかにインパクトがデカいし、また、舞韻さんの場合は、身体能力も飛び抜けているため、暴れると手が付けられないのだ。


 怖くて目を瞑って運を天に任せたその時


 「やめろ! 舞韻」


 と、コンさんの声が聞こえた。


 「……」


 舞韻さんの無言の時間があったが


 「もう1度言う。やめろ! 」


 すると、次の瞬間、私の身体は、拘束から解かれて自由になった。

 私は沙織さんたちのいる方にヘロヘロと崩れ落ちていった。


 コンさんは、私の元へやって来ると


 「ゴメンな燈梨、ちょっと今日の舞韻は、色々疲れてるんだ」


 と、言ってから沙織さんに目配せをした。

 そして、座り込んでいる舞韻さんの腕を掴むと言った。


 「ほら、舞韻、立つんだ」

 「ヤダ! 」

 「なんで」

 「私も遊びたいんだもん。海で遊べなかった分、ここでみんなと遊ぶんだ! 」

 「お前がいると、みんなが不愉快な思いをするから駄目だ! 」

 「いやだあ~」


 コンさんに対して、舞韻さんは駄々をこね始めた。

 その間、沙織さんがみんなを主導して、ミニッツの準備を始めていたため、私以外は、声がする以外はすっかり舞韻さんから関心が薄れていた。


 次の瞬間


 「ひゃうっ! 」


 と、言う声が聞こえたので、私は部屋の外を覗くと、コンさんの背中におぶられている舞韻さんの姿があった。


 「わぁ~い! 」

 「今日は、疲れてるからもう寝ような」

 「一緒に? 」

 「ああ」

 「お風呂は? 」

 「ああ」


 と、問答しながら階段の方へと向かって行く2人の姿を見送った。


 「舞韻は、普段は気を張ってるから、なんかの拍子にその糸が切れると、ああなるのよ」


 沙織さんが、いつの間にか私のすぐそばに来て、言った。

 私は、舞韻さんがあんな行動を取った原因が自分にあると思うと、罪悪感を感じたが、沙織さんは


 「燈梨が気にする必要ないわよ。舞韻だって、分かってるから。燈梨はあたしにとっても、舞韻にとっても、妹なの。妹の無邪気に応えてあげられなかったのは、舞韻自身だっていけない事だって分かってる。だから、大人しく埋められてたのよ」

 「えっ!? 」

 「言っとくけど、あたしも舞韻も、あれしきの浜辺に、あの程度の深さで埋められた程度なら、30分もあれば脱出できるわよ。それに、猿轡や目隠しだって、すぐ外せるわよ。舞韻の中に罪悪感があるから、帰るまで大人しくしてたの」


 私は、舞韻さんの心中を察しかねていた。

 そこまで、分かっていたのに、どうして帰ってからも意地の悪い態度を貫いていたのだろうかと。

 すると、沙織さんは


 「ただね」

 「えっ!? 」

 「舞韻は期待してたんじゃないの? 燈梨が『舞韻さんが可哀想だ』って言って、ある程度のところで掘り出してくれるんじゃないかって。その期待が外れたから、頭で分かっていても意地の悪い態度を取っていたんじゃないの? 」


 私は、沙織さんの話に、言葉を失った。

 舞韻さんは、そこを期待していたからこそ、そうならなかった時に、分かってはいても、ついつい意地の悪いことをしたくなってしまったのだろう。

 やはり、私にも責任が無い訳ではなかったのだ。


 すると、沙織さんが


 「燈梨。舞韻の件は、改めて言うけど、なんにも気にしなくて良いわよ。悪いのは舞韻だし、アイツの今夜の様子を見てると、フォックスにお風呂に入れて貰って、一緒に寝れば明日の朝にはけろっと忘れてそうだから」


 と、言ったので気にしてると、それを察した沙織さんが


 「風呂に入れて貰うとか、一緒に寝るって言っても、フォックスと舞韻は、()()()()関係には、一切発展しないから」


 と、断言した。

 確かに、ここに来たばかりの頃、舞韻さんに訊いたが、長く一緒に暮らしていても、そういった関係には、一切なったことは無いと、訊かされていたので、信じられるのだ。


 すると、その真剣な表情を見たのだろう。沙織さんは


 「それじゃ、みんな、第1回、ミニッツde対決。いっくわよ~! 」


 と、言うと、壁に貼られたトーナメント表を見て、私も第一試合の準備に入った。

お読み頂きありがとうございます。


少しでも続きが気になる、見てみたいかも……と、思いましたら、評価、ブックマーク等頂けると活力になります。


お気軽にお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ