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焼きそばと罠

 お昼は、生まれて初めて入った海の家のメニューを食べた。

 みんなで、海の家に行って、思い思いのものを頼んでいる中、私は何を頼んで良いのかが分からなかった。


 さすがに、この暑い浜辺でラーメンを食べる気にはならず、とは言え、かき氷だけを食べるのも、お腹を壊しそうな上に、違う気がする。


 その様子を見た沙織さんと朋美さんが


 「燈梨は、なに頼んで良いのかが分からないの? 」

 「そうか、燈梨ちゃん初めてだもんね。……だったら」


 と、言うと幾つかのメニューを頼んでくれた。

 そして、それらが来ると


 「燈梨、少しずつ食べてみて、好きな物があったら食べなさい。あたしらは、残ったのを食べるから」


 と、言ってくれたので、私はイカ焼きを半分と、焼きそばとカレーをそれぞれ半分ずつ貰って食べた。

 焼きそばや、カレーは、いかにも市販のものをそのまま調理しただけ……と、いった感じだったが、何故かここで食べると、とても美味しく感じられた。


 普段なら、これほどの量は食べないのだが、午前は、色々と動き回ったこともあって、気付かないうちに空腹だったので、完食してしまった。

 ふと気がつくと、その様子を見ていたみんながニコニコしながら、私の様子を見ていた。


 唯花さんが


 「燈梨ぃ、それだけ食べられるって事は、それだけ動いたって証拠なんだよ。午後も、また遊ぼうね」


 と、言うと、カレーを完食した桃華さんが、おずおずと言った。


 「ユイさ、少し休まない? ちょっとお腹いっぱいで」

 「桃華は、喰いすぎなんだよ。でもって、確かに食休みは重要だな。よし、午後はまず桃華を砂に埋めてみよう」


 と、言ってニヤリと笑うと


 「ちょっと待ちなさいよ! 私を砂に埋めてどうしようっての? 」

 「あんたたち、埋めるんなら、アイツよ。午後一でやっちまおう! 」


 と、沙織さんが、ニヤリとしながら小声で言った。

 

 私は、ここで食べるかき氷はどんな味がするのか、興味があったので食べようかと思っていると、沙織さんから


 「燈梨、かき氷はやめといた方が良いわよ。今日はお腹壊しちゃうから」


 と、先回りするように言われた。

 私は、その時は、その意味が理解できなかったが、その確信めいた言い方と、朋美さんの


 「だって、家に帰ったら、また食べられるよ。ねえオリオリ? 」


 と、言う言葉に素直に従っておくことにした。


 食後に、みんなとパラソルで休んでいたが、トイレに立った。

 トイレから出ると背後から


 「あかりぃ~、トイレは終わった系? 」


 と、いう声と同時に、舞韻さんに、背後から肩を抱かれた。その力は普段より強いような気がした。


 「午前は、色々とぉ、お世話になった系ね。ちょっとぉ、話がある系だから、付き合って頂戴」


 と、言われて見ると、ニヤニヤしている舞韻さんの目の奥が、全く笑っているようには見えなかった。

 その時、近くにあるハンドメガホンが、ハウリングを起こして不快な音が鳴り響いた。私は、その隙に舞韻さんの腕から抜け出して、全速力で駆けだした。


 「あっ! 燈梨、待ちなさーい」


 舞韻さんの体力から逃れられるとは思えないが、この周辺は、人気がないため、舞韻さんに捕まったら、とんでもないことになる事だけは予想できる。舞韻さんは、私が1人になるチャンスを待っていたのだ。


 「待てえー、逃げても無駄系よ。大人しく捕まって裁きを受けなさーい」


 声の大きさで、さっきより近付かれていることが分かるが、振り向いている余裕はない。

 体力の限界が訪れつつあるが、とにかく必死で、使われていないシャワー小屋を通り過ぎると、角を曲がった。


 「待てえー……えっ!? 」


 次の瞬間、私を追って角を曲がった舞韻さんの足元に敷かれたレジャーシートが、力一杯引っ張られて、舞韻さんはバランスを崩した。


 「ああっ!? 」


 舞韻さんは、仰向けに倒れたが、そこには舞韻さんの身長に合わせた幅の、深い穴が掘られていて、舞韻さんの体はすっぽりと収まった。

 すると、周辺から、みんなが姿を現した。


 「な……なんなのよ、あんたたち! 」


 舞韻さんが震える声で言うと、小屋の陰から現れた沙織さんが言った。


 「舞韻。どうせ、あんたの事だから、燈梨が1人になるところを狙って復讐しようとか考えてると思ってたわよ。そういう悪い娘は、こうしてやるわよ! 」


 沙織さんがクイッと顎を上げて合図すると、みんなが一斉に舞韻さんの体を埋め始めた。


 「ちょっ……やめなさい、やめろー! 」


 舞韻さんは騒ぐが、みんなは無視して続け、あっという間に、舞韻さんは埋められてしまった。


 「騒いでも無駄よ。この辺り、人こないから。燈梨を1人でトイレに行かせたら、あんたは絶対この辺りに追い込んで、そのシャワー小屋の中にでも連れ込んで、燈梨を泣くまでくすぐったりするだろう、と思ってたからね。だから、ここに罠を張ったって訳」

 「ぐっ……」


 沙織さんに言われて、舞韻さんは悔しそうに唸った。


 「舞韻さん、こんなの持ってたよ」


 と、フー子さんが、タオルを沙織さんに手渡した。

 沙織さんはそれを眺めながら


 「ふーん、どうせ、燈梨をそこに連れ込んだ後、コイツで猿轡でもするつもりだったんでしょ。よし、燈梨にするつもりだった猿轡を、自分でされる気分を味わわせてやろう」


 私を含めたみんなが、埋められて、顔だけになっている舞韻さんの周りを取り囲んだ。


 「やめなさい……ホントに怒るわよ……」

 「何言ってんのよ! 怒りたいのはこっちよ、ねぇ、燈梨? 」


 舞韻さんの強がりを、沙織さんが一喝し、私に意見を求めてきたので


 「そうよ! 参ったって言うから、午前は許したのに、復讐だなんて、サイテーなんですけど」


 と、不機嫌な表情を作って言うと、みんなが、一斉に舞韻さんに襲い掛かろうとしたが、それを制した沙織さんが、かがみ込んで舞韻さんの目線に近くなると、舞韻さんを見下ろしながら


 「あんたの作戦を洗いざらい話しなさい! そしたら、コイツらは、あたしが抑えておくから。ちなみに嘘言ったら、コイツら、何をするか分からないからね! 」


 と、言って舞韻さんに迫った。

 舞韻さんが話したのは、恐ろしい計画だった。


 沙織さんの読み通り、私を捕まえてシャワー室で復讐した後で、私を閉じ込め、あとは1人ずつ『燈梨が呼んでる』と、言って呼び出して、私を人質に抵抗させないようにして復讐を果たす。そして、夕方までここに閉じ込めておく算段だったそうだ。


 それを訊いた朋美さんは


 「ひっどいなー! ねえ、オリオリ、波打ち際に近いところに掘って埋め直そうよ」


 と、言って、みんなも同意するように無言で頷いた。

 すると、沙織さんが、みんなを制して


 「まぁ、待ちなさい。そんな野蛮な事をしても、コイツと同じレベルに堕ちるだけだから。今回は、あたしがゲストを呼んでいるから、任せましょう」


 と、言って手を大きく振ると、小屋の陰からコンさんが出てきた。


 「あ、オーナー……」


 舞韻さんは、埋まったまま着実に青ざめていた。


 「舞韻! お前は、どうして大人気ない行動ばかり取るんだ。年下の人間に諭されて恥ずかしくないのか? しかも、燈梨に対して復讐だなんて……お前の馬鹿さ加減には、俺は情けなくて涙出てくるわ! いいか、罰として帰るまで埋まってろ!! 」

 「そんな……」


 舞韻さんは、すがるように、コンさんに言ったが、コンさんは物凄い形相で、舞韻さんの方を見ると、舞韻さんの表情は引きつったものになり、以後は静かになった。

 その後、舞韻さんを掘り起こして、パラソルの脇まで連行したコンさんは、そこに穴を掘って舞韻さんを埋め直していた。


 その間に、私たちは、思い思いの場所で遊び始めた。

 私は、美羽と、フー子さんの3人で、波打ち際に行った。フー子さんも、このくらいまでなら行けるというので、そこで出来る遊びを考えていた。


 すると、フー子さんが砂でお城を作り始めた。


 「コツは、濡れた場所にある砂を使うんだけど、波がかかるところは、完成前に壊されるからな、砂を運搬すると、いいんだぜ~」


 と、言って多量の砂を掻き込んで、こちらへと運んできた。

 それを固め、嬉々としながら城を作るフー子さんは


 「燈梨も、美羽もやったことないのか? 」


 と、訊くので、私たちは頷いた。


 「私たち、海から遠いところに住んでたから……」


 と、私が言うと


 「まじかー、あたし、北海道って聞いたから、てっきり行ったことあるのかと思ってた」


 と、全く説得力も根拠も無いことを言って驚いていた。

 すると、美羽が訊いた。


 「燈梨も、やったこと無いの? 」

 「うん、海で遊ぶのって、今年が初めて……」


 と、言うと美羽は、一瞬だけ驚いた表情になったが、すぐさま元に戻って


 「じゃあ、一緒だね」


 と、言うとニコッとした。


 すると、フー子さんは


 「燈梨の家は、変な母ちゃんだからなー。行かせてくれるわけないか。ちなみに美羽は? 」

 「ウチもかな……」


 と言うと、フー子さんは突然、途中まで出来上がっていたお城を自ら壊して


 「忘れちまえよ……そんな時の思い出なんて」


  と、吐き出すように言った。


 

お読み頂きありがとうございます。


少しでも続きが気になる、見てみたいかも……と、思いましたら、評価、ブックマーク等頂けると活力になります。


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