ダイヤとダンス
沙織さんと唯花さんの、意地のバトルギアは、接戦を繰り広げて、ある時は、沙織さんの勝ち、そして、ある時は唯花さんの勝ち……と、勝敗がハッキリつかないまま、続いていた。
私は、みんながどんなゲームをやっているのかを見ると、美羽と、桃華さんは意外にもDDRをやっていた。特に、桃華さんはノリノリで、時にジャンプやターンを決めながら、踊りに興じていた。
「あかりんもやろうよぉ、凄く楽しいよぉ」
「燈梨。ここ、最新のもあるよ」
と、言われて見てみると、このコーナーのゲーム躯体は、数十台はあり、それだけ歴史を重ねてきたシリーズであることが分かった。
私は、桃華さんや美羽と、パートナーを変えながら、何度もプレイしたが、桃華さんのノリノリでキレのあるダンスには敵わずに、美羽と、少しテンポのゆっくり目の曲を選んで踊るのが、丁度良かった。
何度も踊ってちょっと疲れてきたので、まだまだノリノリの桃華さんに驚きながらも、同じく疲れてヘロヘロの美羽を連れて、他の人たちを探していたところ、
「ああーーーー!! 」
と、言う声が聞こえてきたので、そちらの方へと向かうと、ミサキさんが、電車でGo!の目の前で仁王立ちになり、その脇に立ってる朋美さんが
「美咲、ダメだよ! 踏切に車が入ってる時は、非常ブレーキだって! 」
「だって、ちゃんと制限速度以内で走ってたのにさぁ」
「それでも、すぐ止まれるようにしてないとダメなの」
などと、熱くなっていた。
ミサキさんが運転する電車は、踏切内に侵入した車と衝突したようだ。
しばらく見ていたが、その後もミサキさんは、ダイヤ乱れを気にしての速度超過や、オーバーランを繰り返していた。
「美咲は、電車の運転手には向かないね」
と、朋美さんにダメ出しをされていた。
交代した朋美さんが
「美咲、見てみなって、私は、鉄人モード、中央線でクリアするから」
と、言うと新宿駅からスタートして、予告通りに、ほとんど減点無しで東京駅に到着した。
「この路線の場合、大抵は終着の東京で、ATS確認忘れるんだけどね。そこもばっちりだから」
と、ドヤ顔で言っていた。
すると、ミサキさんが私に
「トモはね、高校生の頃から、電車でGo!をやり込んでてね。私たちが、エアホッケーとか、みんなでやってる横で、1人指差し確認とかしてたんだから。ウケる」
と、耳打ちした。
確かに、朋美さんの動きは、完全にこのゲームに慣れた人のそれだった。
更に、ミサキさんは
「私たちの街のゲーセンで、トモは結構有名だったのよ。……だって、電車でGo!をやり込んでるJKなんてトモだけだったから」
と、笑いながら言っていた。
そこに、朋美さんがやって来て
「マジでここ凄いよ! 超稀少な『電車でGo!3通勤編 ダイヤ改正』があるんだよ、これがプレイできるなんて、マジで夢みたいだよ」
と、感動していると、沙織さんがやって来て
「そうなのよ。ここには、兄貴が直に見に行って仕入れた、お宝級のアーケード機が、唸ってるのよ」
と、言うと
「マジ凄い! 1日中いてもやりきれないくらいあるじゃん」
と、桃華さんも感激していた。
沙織さんの話では、紘一郎さんの事業の中には、旅館やホテル業の他に、廃業した旅館やホテルの再生事業も力を入れて行っており、そんな廃業した旅館やホテル等には、こういったアーケード躯体が放置されていることが多いそうだ。
そんな中から、紘一郎さんのお眼鏡にかなった躯体は、ここに運ばれて保存されているそうだ。
その話が終わった頃に、唯花さんが現れて
「でもさ、ここ惜しいね。折角のゲームだからさ、ウチらだったら、風呂あがりとか、飲んだ後とかに楽しみたいじゃん。だけど、ここじゃ……ねぇ」
と、ちょっと残念そうな表情で言った。
すると、沙織さんが、人差し指を立てて横にチッチッチと、振ると
「何を言ってるの。そのための、この旅館跡なんじゃない。事前に言っておけば、大浴場で温泉も入れるし、泊まることもできるわよ。ただ、この大きな旅館に2人だけとかだと、さすがにちょっと怖いじゃない」
と、言った。
確かに、この旅館は大規模とは言えないが、それでも、案内板を見る限り、地上4階、地下1階の、それなりに広大な施設だ。
そんな広大な施設に、夜2人きりとかで泊まるのは、さすがにちょっと怖い気がする。客室から1歩も外に出なければ良いのだろうが、それじゃあ、何のためにここに来たのかが分からなくなってしまう。
すると、唯花さんが
「じゃあ、オリオリー。冬になる前に、みんなでここに泊まりに来ても良いの? 」
と、訊いた。
すると、沙織さんはニコッとして
「いつでもOKよ」
と、言うとみんなの表情がぱあっと明るくなった。
すると、フー子さんにいきなり肩をポンと叩かれて
「良かったな、燈梨。燈梨もここに泊まるんだぞ」
と、言われてビックリした。
「でも、ほら、私は近くだからさ」
と、言うと
「ビビってるのか? 燈梨、嫌だって言っても、ふん縛ってでも連れてくるからな~」
と、私を脅かすように言ってきたが、直後にミサキさんに
「フー子、燈梨ちゃんを困らせると、今度泊まりに来た時に、ここの池で泳いでもらうからね~」
と、言われて、私への追及はここで止んだ。
すると、みんなが集まったので、またレースゲーム躯体があるコーナーへと、向かって行き、みんなでレースゲームを楽しんだ。
しばらく楽しんで、休憩をしていた私は、隣で休憩していたミサキさんに
「なんか、ゲームの世界になると、S14は後期ばっかりになっちゃうんですよね~」
と、愚痴をこぼすと
「しょうがないよね。最近は、旧車扱いで前期型にもスポットが当たってるけど、昔、前期はほとんど無視されてたし、中古で買ってもすぐに後期仕様とかに改造されちゃったし……」
と、言って、更に
「燈梨ちゃんは、まだ後期型でもあるだけ良いと思うよ。私なんて、ケータイのアプリゲームでしか、C35ローレルなんて出てこないもの」
と、嘆いた。
ミサキさんが言うには、ローレルに関しては、新車時は普通の車として、この手の人たちから注目されず、中古車になってから、主にドリフト目的での需要で人気が出たために、当時のゲームなどには登場してこないのだそうだ。
すると、朋美さんがやって来て
「大丈夫だよ、燈梨ちゃん。R30だって、アーケードゲームだと出てこないから、自分の車にぴったりハマる方が珍しいんだって」
と、言うと、私たちは、顔を見合わせて
「それじゃぁ、マイナー車オーナー同士でトーナメントといきますかぁ」
と、私が言うと
「燈梨ちゃんだけ、厳密に言えば例外だからね」
という、朋美さんの言葉を背に受けながらゲームに向かった。
ちなみに、選んだ車は、私がFD3SのRX-7、ミサキさんがレガシィB4、朋美さんがランエボIIIと、誰1人として、自分の車と車種すら被らない対決を楽しんだ。
その後も、一番パワーのないクラス対決で、私は、コンさんが作った元ネタになったマーチ12SRで走ったり、クラス縛りで、みんながイコールコンディションで戦うゲームで楽しんだ。
すると、沙織さんが乱入してきて
「これ、あたしが沖縄で乗ってたんだから」
と、丸っこい車を選ぶと、唯花さんが
「オリオリ、ニュービートル乗ってたのかー、なんかイメージ通り」
と、言うと朋美さんも、隣で頷いていた。
そしてフー子さんが
「オリオリ、あたしらJKから、むしり取った金で、外車なんか乗ってたのかよー」
と、言った。
私はその車が初めて外車だという事を知ったので、朋美さんに訊いてみると、その車はドイツのメーカーが作った、昔の製品のオマージュモデルだそうだ。
確かに、パオもそうだが、沙織さんのイメージにはぴったりに見える。
「フー子、なによ、その人聞きの悪い言い方は、それに、フー子はほとんど買い物してないから、そもそも客じゃないし」
と、フー子さんにドロップキックを決めながら言った。
私は、その後もとても楽しい時間を過ごした。
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