中華と電脳
私たちは、モールの中華屋さんでお昼にした。
あの後、美羽は、シンプルなデザインながら、鮮やかな青が印象的なビキニに決めた。
「美羽っちは、変に凝った可愛さに走るんじゃなくて、基本の良さを伸ばしていくシンプルさが良いよね。そこは、燈梨にも言えるんだけどさ」
と、唯花さんは満足そうに語っていた。
みんなで、囲む中華は初めてだったが、やはり、フー子さんが
「あたしは、テーブル回し長野県最速なんだぞー」
と、言って回転テーブルを力一杯回して遊び、沙織さんから殴られていた。
「痛ぁ~……オリオリぃ、あたしの頭がバカになったらどうするんだよぉ~」
「それ以上バカになりようがあるの? 大体いい大人が、回転テーブルを回して遊んだ段階でバカ確定なの! 」
その様子を、私を含めたほかのメンバーは、冷ややかな目で見て、美羽だけが、どうしたら良いのかが分からずオタオタしていた。
今日の私は、五目かた焼きそばを食べていた。
すると、フー子さんが
「燈梨ぃー。あたしのチャーハン、一口あげるから、かた焼きそば、一口頂戴」
と、言うので食べさせていると、美羽が、じーっとこっちを見ているので
「美羽も、一口いる? 」
と、言うと、ニッコリして
「うん」
と、言うので、彼女の酢豚とトレードした。
それを見て思ったのだが、美羽にはいつもの図々しいまでの押してくる感じがないのが不思議だな、とは思った。
昼食が終わると、特に見る物もないので、帰ろうとしたが、車に乗ると、沙織さんが
「燈梨、最初にあたしと会った時に行った旅館に行くわよ」
と、言った。
そこは、私が沙織さんに誘拐された際、解放されて、コンさんに引き渡された場所だった。
バイパスを戻って、街を抜け、峠道を通って廃旅館に到着した。
旅館は、以前に私が沙織さんに連れて来られた時と変わり、周辺を高い鉄策で覆われており、中を窺えない状態になっていた。そして、その入り口も電子ロックになっており、沙織さんがカードで開けていた。
中に入って車を止めると、車から降りた唯花さんが
「なんか、出てきそうな雰囲気のある建物だねぇ~」
と、言うと、ミサキさんも
「オリオリ、なにするの? 昼間から肝試しとか言わないでよ」
と、心配そうな表情で言った。
すると、沙織さんは
「ふっふっふ~。中を見れば、あんたらの認識も変わって、またここに来たいって言うはずよ」
と、自信満々に言った。
私は、不思議に思ったことがあったので訊いた。
「なんで、周り中、柵で覆ったの? 」
「ここを廃墟だと勘違いして、肝試しに来たり、落書きしたりするバカが後を絶たなかったからね。最新の機械警備を導入する一方で、周囲を鉄柵で囲ったのよ」
沙織さんが言うには、私たちがやって来た後の1ヶ月だけで、ガラスを割られたり、外壁に落書きされたりする被害に数度遭ったそうだ。
幸い、機械警備が発報して、警備員が駆け付けたため、中に入られる被害は食い止め、落書きは当人に消させたのだが、中にある物の保護のために抑止効果として、周囲を高い柵で囲ったのだそうだ。
お陰で、この壁と警備システムの導入以降は、侵入被害はゼロになったそうだ。
中に入ると、電気を点けて空調を入れると、沙織さんは、正面の階段を上がって2階へと向かった。
以前、私の身柄の引き渡しは、1階のロビーで行われたため、私にとっても初めての空間となる。
以前の案内板を見ると、2階は宴会場がいくつかあるそうだが、上がった途端に、私たちの目の前にはたくさんのゲーム機が現れた。
ゲーム機といっても、家庭用のではなくて、ゲームセンターなどにあるアーケードゲーム機ばかりなのだ。
「おおー! オリオリ凄ぇー! 」
フー子さんが感動の声を上げた。
「どう? 兄貴が、趣味で全国からかき集めたアーケードゲーム機の数々よ。ちなみに、この階にあるやつは、全部実動機だから、遊べるわよ」
みんなが思い思いのゲーム躯体の前で立ち止まる姿を、私と沙織さんは眺めていた。
私には、ゲームに興じた経験がほとんどない。ほとんど、というのは、たった1回だけあるからだ。
それは、沙織さんと旅行に行った先、フー子さんとミサキさんのバイト先でもあるホテルでやったサイドバイサイドだけだった。
すると、沙織さんが
「燈梨は、やりたいんでしょ、アレ」
と、言うので、迷うことなく
「うん」
と、答えると、レースゲームの躯体が固まって置いてあるところに案内された。
そこには、サイドバイサイドと、続編エボルツィオーネ、更にはエボルツィオーネがもう1台あった。
沙織さんがニコニコしながら言った。
「ここには、エボルツィオーネのバージョンアップ版のRRもあるんだから、やってみようよ」
「望むところです! 」
スタートし、コースは超弩級の『亥の刻』が選択された。
「RRだと、隠しコース扱いの『亥の刻』も最初からできるんだから」
と、沙織さんが自慢げに言ってスタートした。
スタート画面を見て、私はしまった! と思った。この場所は某漫画の舞台の、とある峠だった。
私は、沙織さんがどのコースを選ぶか分からないので、中間パワーでバランスの取れた180SXを選択していたのだが、沙織さんはインプレッサWRXを選択していたのだ。
「ズルい! 」
「なんとでも言え~、このコースはハチロクかインプレッサの2択でしょ~」
始まる前から悔しさをにじませていると、背後から
「オリオリは、車で勝ってる分、油断するから、まずはオリオリのピッタリ後ろにつくんだ」
と、言われて見ると、私の後ろに唯花さんが立っていた。
私は頷くと、スタートと同時にアクセルをベタ踏みして、沙織さんのピッタリ後ろに付けた。
「燈梨のくせに、ちょこざいな真似をー! 」
コーナーが険しくなるにつれて、沙織さんの叩く憎まれ口のバージョンが少なくなっていった。
そして麓に近づいてきた時、唯花さんが私の耳元で囁いた。
「オリオリに外から仕掛けるんだ。すると外に膨らむから、燈梨はその隙にインを狙え! 」
私は頷いて、インプレッサを外から抜くように仕掛けてみた。すると、沙織さんが反応して
「燈梨ぃー、行かすかぁー!! 」
と、外に膨らんで外寄りのラインを潰しに来た……隙を狙って、私は内側を突いて沙織さんをかわした。
「燈梨ぃー、これで勝ったと思うなよぉ。このまま並んで立ち上がれば、2速全開の加速でこっちは前に出られるんだぁ……EJ20の底力を見せつけてやるぅ! 」
と、沙織さんが言っている中で、私は、アクセルを深く踏み込んでいった。
すると、沙織さんが立ち上がりからアウトに吸い込まれるように膨らんで行ってよろつき、その隙に直線道路を思いきり加速して逃げ切って勝ちを収めた。
「やったー! 」
「よくやったぞー、燈梨ぃー」
私は唯花さんとハイタッチで、喜びを分かち合っていた。
その後ろに沙織さんが来て、悔しそうに一本調子で言った。
「唯花ぁー、燈梨に入れ知恵してインチキして勝ちやがったなぁー! 」
「んな訳ないじゃん。入れ知恵したところで、実力がないと勝てないし、オリオリが下手になったんじゃね? 」
と、言うと、沙織さんは悔しそうに地団太を踏んでいた。
すると、唯花さんが
「サイドバイサイド系の後継機の『バトルギア』シリーズもあるんだぜ。オリオリと3人でやらない? 」
と、言うと、その隣に何台かあるバトルギアシリーズの中で3を選んだ。
「ぶっちゃけ、サイドバイサイドの頃って、燈梨はおろか、オリオリも生まれてない頃だからね。馴染み無いっしょ。燈梨だと、バトルギア4の頃にようやく生まれてるくらいだからね……このくらいから始めたいねぇ」
と、唯花さんが言った。
確かに、以前にコンさんにサイドバイサイドの話をしたところ、コンさんが、日本に帰って来て、高卒検定を取り、大学進学をしようと予備校に通っていた頃に、そこの近くのゲームセンターで、毎日やっていた……と、言っていたくらいなので、相当古いのだろう。
しかし、何故バトルギアの中でも3なんだろう? その答えは起動して分かった。
「あっ! このエボは」
「そう、私と同じVIIなのさ。一応、S14もここまでは登場してるんだ……後期だけどね」
唯花さんの言う通り、S14も登場していることはしているが、やっぱり私の乗る中期ではなく、後期になっている。
それぞれ自分の車で対決……と、いう事でやってみたが、唯花さんは速く、やはりもう1つのところで勝てなかった……。
すると、沙織さんが
「よぉーし、燈梨じゃここまでかな。今度はあたしが正々堂々、インチキ無しで唯花に勝ってやるからー」
と、私に選手交代をせがんで、交代する事となった。
沙織さんは、今度はBCNR33スカイラインGT-Rを選んできた。
「オリオリー、汚ねーなー。パワーに物言わすなよ」
「何言ってんのよ。エボ選ぶやつに言われたくないね」
「これは、私の車だもん」
「こっちも、兄貴の車だもん」
と、言い合って、すっかり火花を散らしながらのスタートとなった。
お読み頂きありがとうございます。
少しでも続きが気になる、見てみたいかも……と、思いましたら、評価、ブックマーク等頂けると活力になります。
お気軽にお願いします。