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水着とクレープ

 朝が来た。

 昨夜は、コンさんが


 「折角、みんなが来てるんだから、寝る時も一緒が良いんじゃないか」


 と、言って私の布団も隣の部屋に敷いてくれたので、みんなと一緒に寝ることになった。

 すると、発生するのが私を襲ってくる人間の存在なので、私は一番端に陣取り、隣を朋美さんにして寝た。

 作戦は成功して、最も危険なミサキさんとフー子さんは遠くなったため、何も手出しされることは無く、会話だけを楽しむことが出来た。


 朝食は、お店に降りて舞韻さんが昨日焼いたという色々な種類のパンだった。

 その中には、クロワッサンがあったのを見て、昨夜のことが思い出されて、チラッと、舞韻さんを見たが


 「昨日は、久しぶりにオーナーの隣で寝て、物凄く懐かしい気分がした系ね~」


 などとケロッとしていた。

 しかし、私の視線に気付いて


 「なぁに、燈梨。私の焼いたパンに何か問題でもある系? 」


 と、ニコニコしながら訊いてきたので、慌てて視線を逸らした。

 

 朝食が終わると、みんなとガレージに行き、私のシルビアのオイル交換を行った。

 元々、私のシルビアが止めてある場所が、床下が開くスペースになっていたので、車を動かす事もなくすんなりと作業は進んだ。

 

 フィルターの位置が、やはり昨日のラパンとは全く違う位置についていたのと、手が届き辛いのが、ちょっと苦労したが、昨夜のうちにコンさんが、フィルター用のレンチを用意してくれたため、あっさりと交換することが出来た。

 フィルターのある場所は、レンチが入るスペースがなさそうなくらい狭い空間だったが、ミサキさんと唯花さんがレクチャーしてくれた。


 「日産車は、フィルターレンチを入れられるルートが1つだけあって、そこにドンピシャにハマるようにスペースがあるのよ」


 と、ミサキさんが言いながら、レンチを知恵の輪のように、クルクルと向きを変えながら入れていき、外すと、すんなりと出してくれた。

 今度は、それを見よう見まねで、私が入れていって、新しいフィルターを取り付けた。ちなみに、外す時はレンチを使ったが、取り付ける時は、手で取りつけるように言われた。


 「レンチで締めると、締めすぎで壊す可能性が高いんだ。手で締めていって、回りが止まったな……と、思ったところから更に半回転くらいがベストだよ」


 と、唯花さんが説明してくれた。

 

 昨日、桃華さんのラパンでの作業を手伝って、手順が分かっていることもあって、今日の作業は本当に10分程度で終了できた。


 「これで、燈梨ちゃんも、自分でオイル交換できる女子認定だね~」


 と、朋美さんに言われて少し嬉しくなった。

 

 終了したところに沙織さんも降りてきて、美羽を迎えに行き、水着を買いに行く事となった。

 何故、沙織さんもついてくるのかが、ちょっと疑問だったが、深く考えずに、シルビアと、ローレルで神社へと向かった。


 「どう? 走った感じは? 」


 隣に乗った唯花さんが、ハンドルを握る私に訊いてきた。


 「うん、本当にオイル交換しただけなのに、凄く走りが変わったね」

 「そうだろ、これが本当に変わるから痛快なんだよねぇ~」


 唯花さんの言う通りで、交換後の私のシルビアの動きは、交換前に比べて別物とまではいわないが、明らかに立ち上がりや、伸びは良くなっており、交換しただけの実感は感じられるものだった。

 本当に、自分で苦労して交換した甲斐があったなぁ……と、思わせるものだった。


 神社に到着すると、昨日と同じように、家の前まで入って行った。

 到着すると同時に、美羽が家の中から出てきた。


 「いやぁ~、ワクワクして早く起きちゃったよ」


 と、言って玄関に鍵をかけると、鞄を持っていたので、私はトランクを開けた。


 「じゃぁ、早速行こうか」


 私は言うと、美羽は


 「うん」


 と、言って頷くとトランクに鞄を入れた。

 私は、美羽を見ると言った。


 「後ろ、乗って」


 美羽は嬉々として後席に乗ってきたが、後席の奥に、沙織さんが座っているのを見て、驚いていた。

 私は、出発して目的地へと向かった。


 バイパス沿いにある、ファッション系の店舗が多く入るモールへとやって来た。

 私や、沙織さんが水着を買ったのもここだったのだが、価格が手頃なのもさることながら、店舗も多くてアイテムが豊富なのも注目すべきポイントだった。


 桃華さんが


 「なんか、作りとかが、ウチらの地元にあるアウトレットに似てね? 」


 と、言っていたが、確かにその通りだと思った。

 すると、沙織さんが


 「ああ、それは無理もない。元々ここはアウトレットだったんだけど、業態変換して、衣料系ショッピングモールになったのよ」


 と、言ったため、私たちの疑問は解消すると共に、なるほどな……と、思った。


 私たちは、その中で水着の品揃えが多かった、お洒落系なお店と、スポーツ用品を専門に扱うお店の2店を中心に見て回った。

 美羽は、色々な水着を手に取ったが、何かが決まらない感じで、ソワソワし始めた。


 「どうしたの? 」


 私が訊くと


 「いやさ、今まで水着なんて買った事なくてさ、正直、何買えばいいのかってのが分かんなくて」


 と、言った。

 それには、私にも思い当たることがあった。

 数週間前の私がそうだったのだ。海に行く事が決まり、買わなければならないのだが、今まで授業以外で泳いだことなどなく、高校ではプールの授業がなかったために、水着など選んだ事もなければ、持ってもいなかったのだ。


 しかし、私の時には、沙織さんも買うために一緒に選べた事と、コンさんも一緒にいて選んでくれたので、何とかなったのだ。

 なので、ここでは、私が美羽をリードしなければ、という思いが沸き上がってきて


 「じゃあ、ここにあるのは大体、今流行ってるやつだから、その中から好きそうなデザインのを、幾つか選んでみようよ」


 と、言って、一緒に探してみた。

 やはり、お洒落系の店だけあって、私が選んだのも含めて外れがない可愛いものが多く、それだけに悩んでしまう気持ちも分かるのだ。

 しばらく選んでいると、思案顔の美羽が


 「ちなみに、燈梨はどんなのにしたの? 」


 と、訊いてきたので、答えようとしたところを、背後から伸びた手に口を塞がれて、次の瞬間、背後から


 「燈梨はね、乳首がはみ出るくらい際どい、紐みたいなビキニだよ。実際、一昨日はみ出てたし」

 「ユイ、出鱈目はダメだよ! 燈梨ちゃんは、中学の時のスクール水着だったじゃん」


 と、唯花さんと朋美さんの寸劇が始まったので、私は必死にもがきながら


 「ううーー!!むうううーー!! 」


 と、抵抗したが、もっと強く押さえこまれてしまった。

 すると、次の瞬間


 「美羽っちは、仕方がないなあ、じゃあ姉さんたちが選んであげよう」


 と、唯花さんと朋美さんが、美羽の所に行って、一緒に水着を選び始めた。

 私は、自分を拘束してるのは、唯花さんか朋美さんのどちらかだと思っていたので、必死に後ろにいるのが誰なのかを見ようと暴れたところ


 「燈梨ぃ~、暴れるなよぉ。あたしたちと一緒に、あっちでクレープでも食べようぜぇ」


 と、フー子さんの声がして、私はそのままフー子さんに連行されて、ミサキさんと、沙織さんが待つベンチに座らされた。


 拘束を解かれると、私は


 「一体、なんてことするのよー! せっかく一緒に選んでたのにー! 」


 と、抗議したが、沙織さんは言った。


 「さっきから見てたけど、ここに来てからの美羽って娘には、主体性がないのよ。あたしのショップ店員の勘としては、選んで欲しいと思ってるのね。でも、燈梨もさ、この間選ぶとき、あたしとフォックスの意見に左右されまくってたでしょ。だから、2人に任せても迷うだけ迷うパターンだと思ったの」

 「でも! 」


 私が尚も抗議の目線を向けると


 「騒がないの! 挙句、美羽って娘は、燈梨がどんなのにしたのか、訊いてきたでしょ? もう、それって、燈梨と同じようなものにしておけば、外れはないでしょ……的な消極的意見だから、ここはアドバイザーチェンジが必要だと思ったわけ、意地悪でしてるんじゃないの。分かる? 」


 と、言うと、フー子さんが


 「そうだぞー、燈梨。このままだと、オリオリと、燈梨と、美羽が同じ水着の色違いとかになるだろ……そうなるとオリオリの貧乳が際立って……ってイテテ」


 と、言ったが、余計な事まで言ったため、沙織さんに背後から殴られていた。

 そこに、ミサキさんが、クレープを抱えてやって来た。


 「ゴメンね。燈梨ちゃんのリクエスト訊けなかったから、おススメのやつにしちゃった」


 と、言うと、みんなにクレープと飲み物を渡して


 「どう? ユイとトモのコンビのコーディネイトは、上手くいきそう? 」


 と、沙織さんに訊くと、沙織さんはクレープを一口食べると


 「上手くいってるわよ。あの2人は、元々、高校生の頃からファッションリーダーだったから、人に選んであげたり、好みを引き出したりするのも上手いのよね」


 と、言って、2人の手腕を絶賛していた。

 私は、美羽の役に立てなかった事に寂しさを覚えて、クレープをかじりながら、視線を下に向けていると、桃華さんが


 「あかりんさ、別に気に病む事じゃないからね。2人きりで来てれば、あかりんが選んであげるのもいいけど、みんなで来てるんだからさ。その中から、得意な連中がその分野をやった方が、良いものが選べるじゃん」


 と、言うと、ミサキさんも


 「そうよ、この分野は、あの2人に任せておけばいいのよ。得意な分野は任せる。それが私たちのスタイルなんだよ」


 と、言って、私の肩を抱いてくれた。

 私は、そう言われて、以前に川に遊びに行った際に、朋美さんの言った言葉が、思い出されてきた。


 『無理に何処かを狙って入って行く必要はないわよ。そのうちに、川にある石みたいに、自然と自分にハマるポジションに形作られていくから』


 そうか、私は分かったつもりでいて、まだこの言葉の意味するところが分かっていなかったな……と、思わされた。

 この言葉には、無理せずに得意分野は、得意な人間に任せろという意味も含まれていたんだ。私は、このグループの6人目のメンバーでありながらも、まだまだ分かっていない事だらけだな……と、思い知らされた。

 

 すると


 「燈梨ぃ~、美羽っち試着中だから、チョロッと見に来てよ~」


 と、唯花さんが手招きしながら、私を呼んでいる声が聞こえた。

 私は、クレープを沙織さんに託すと、声のした方へと走り出した。

 

 

お読み頂きありがとうございます。


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