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乙女

 私は、家事を終えるとコンさんの部屋から数冊の本を借り出した。

 いつもは、コンさんが集めていた漫画を読むのだが、今日はそれを中断して違う本を持ち出した。


 以前に見たいと思ったシルビアの本だ。

 正直言って車には詳しくない。

 何となく形が分かる程度にしか判別がつかない。


 セダンとワンボックスとトラック、あと、えすゆーぶい?が見分けられる程度だ。

 ナンバーが黄色ければ軽自動車だと分かるが……。

 なのに、なぜ読もうと思ったのかと言えば、コンさんが16年も乗り続けるこの車はどのような車なのかを知りたくなったのだ。


 まずは、発行年のかなり古い本を手に取って読んでみる。

 冒頭は、新型が出たばかりの時期らしく、コンさんのとはちょっと違うシルビアが特集されていて、次に、レース場で、新型と、コンさんの乗る古いタイプの改造されたものが何台も出てきてはチェックされている記事、そして、タイヤや部品類のインプレッションや、こうやって改造するのがお勧めだ……。

 と、いうような記事が続いて、終わりの方に、コンさんの乗る古いタイプのシルビアを買う際、中古車なのでここをチェックして、こういう目的ならこういうタイプを狙えば安く買える……。と、いうようなものや、街で見かけた持ち主へ声をかけてみた……。というような時代を感じさせる内容になっていた。


 特に私の興味を惹いたのは後半の2つで、シルビアの買い方を『走りで選ぶなら』と、いうのと『デートカーとして選ぶなら』という切り口でアプローチしている点と、街行く持ち主の中には意外と若い女の子の比率も高かった。

 と、いう点が意外な発見で、面白かった。


 女の子がオートマで乗り、こだわっているのはクッションと車内のコロン……と、答えているような手軽な車だった一面、走り屋さんが、給料をつぎ込んで速く走るために選んでいる一面、そして、チャラい人が、ナンパに使うために女の子受けがいいという理由で乗っている一面もある。という色々な一面を持つ車だということが分かった。


 それから、発行年の新しめの物を読むと状況は一変し、ドリフトに使うためのツールとしての面だけがクローズアップされ、地面スレスレの低さで前のタイヤは開き、派手な色で目立つシルビアばかりが目につくようになっていた。室内もがらんどうで、気軽く乗れる乗り物でないことがありありと出ていた。


 そして、他にあった本を見ると、総合的な事が書かれていたので読んでみた。

 それによると、シルビアは7世代続いて2002年に生産終了したそうだ。

 コンさんの乗るのは5代目のモデルとして1988年から93年まで販売され、空前の大ヒットを記録した世代で、その特集の中でも大きくページを割かれていた。


 そこに当時を知る編集者のコラムがあったが、やはり、デートカーとしてヒットした半面、クルマ好きとしては走りに注目していた……と、いう回顧があり、やはり、当時は色々な顔を持っていたアイドル的な性格の車だったんだなぁ……と、知ることができた。


 他に、5代目シルビア開発についてまとめられたビジネス書も本棚にあり、これもじっくり読んでみた。

 ……この車はかなり思い切った開発方法を取った車だということが書かれていた。

 今まではベテラン設計者が、縦割りで行っていた開発を新入社員や女性も取り入れた若いチームで、“自分が乗りたい車”を作ることを考えたので大変だったけど楽しかったそうだ。


 当時は2ドアの車というとすぐにスポーツという考え方がなされる中で、この車はその汗臭さやスポーツの公式を極力排除して、高性能を涼しい顔でお洒落に乗りこなすといったスタンスを採っていたのが感じられた。


 確かに、コンさんの車もちょっと改造がされているが、基本はこのスタンスを尊重しているように思える。室内も、余計なものは極力付いていないので、ダッシュボードのなだらかな曲線美が落ち着いた印象を与えるし、シートもふんわりと身体を包み込んでくれる感じが心地よかった。

 外装も、曲線の美しさが感じられ、それに輪をかける薄いラベンダー色とグレーのツートンカラーが、華を添えているように見える。


 シートの生地やグレード数を決める際にも、実験や販売から懸念の声が上がったが、それが持ち味なので……と押し通したと、そのグレードもトランプの絵札からJ’s、Q’s、K’sと遊び心ある3つにしたなど、結構面白いエピソードが載っていた。


 ……確か、コンさんの車にはクラブの絵柄とQ’sというマークが付いていたので、最も販売の中心となるグレードのようだ。

 クルマのグレードにクラブのクイーン……って考え方が面白いし、私個人的には、シルビアなんて女性的な名前の車なので、ジャックやキングではなく、クイーンが一番似合っているように思う。


 他に、興味を惹いたのはこの車のカラーコーディネートをしたのは女性で、当初のイメージカラーとなったライムグリーンはあちこちで反対されたものの、自分としては一番イメージに合っていると、開発責任者に直談判し、その熱意を認められて、採用になった……。など、色々なドラマのある車なんだと分かり、その面白さについつい読みふけってしまった。


 私は今まで車なんて移動さえできれば良くて、室内は広い方が寝そべることもできるし、屈まずに室内を移動できるから良い、という程度しか思っていなかった。


 しかし、コンさんが3台の車に対して注いでいた愛情を垣間見ると、とても興味が湧いてきたし、とても楽しそうだな……と、初めて興味を持ってしまったのだ。特に、今までの私が触れることも興味を持つこともなかったシルビアに触れることができた。幸い、書籍やDVDがまだまだたくさん部屋にあるので、また、色々と調べてみようと思わされた。



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