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盆と折り返し

 家に入ると、リビングにコンさんと舞韻さんの姿があった。


 「燈梨、おかえり」

 「ただいま、コンさん、舞韻さん」


 と、言うと、舞韻さんが言った。


 「あれ、沙織は?」

 「今、車を片付けて貰ってます。帰りは、沙織さんに運転して来て貰ったの」

 「そうなんだ」


 ふと見ると、リビングに他に誰かいたような雰囲気がしたため、訊いた。


 「お客さんが来てたの?」

 「ああ、電話があってな。俺と舞韻の知り合いだから、燈梨達がいると気を遣っちゃうだろうと思ってな」


 コンさんの答えで、私は何となくの来客の想像がついた。

 つまりは、()()()()世界の人なんだろう。だから、私とは会わせたくなかったというところだろう。


 なので、私もあえてそれ以上追及することはせずに、家事をしようと台所に向かうと


 「燈梨、ゴメンね。夕飯は作っちゃった系なのよ」


 と、舞韻さんが言った。


 「お客さんは、1時間くらいで帰っちゃった系だからさ、燈梨達が遅くなったのに、夕飯の準備させるのも悪い系だし、明後日からの仕込みのついでだったしね」


 私は、することが無くなり、まずは荷物を片付けた。

 唯花さんと、朋美さんに買って貰った服に、フー子さんとミサキさんに買って貰ったサングラスと靴をそれぞれの場所に仕舞ってきて、模型屋さんで買ってきたプラモデルは、取り敢えず部屋の机の上に置いてリビングに戻ると、沙織さんが上がってきており、ぐてーっとしていたが、舞韻さんに


 「ここはあんたの家じゃないの!シャキッとする系」


 と、蹴りを入れられて、渋々起き上がった。

 そして、起き上がった沙織さんは、奥の部屋を見て


 「本当に片付けたんだ。……へぇ~結構広いのね」


 と、驚きの声を上げていた。


 「最初は、和室にしようと思ってた系なのよ」


 と、舞韻さんが言った。

 当初は、コンさんのたっての希望で、和室にするつもりでいたのだが、当時はこんな広大な和室を作っても、誰も使わないため、そのまま他と同じフローリングの洋室になったらしい。


 「これだけ広かったら、アイツらが海に来た時にもし、泊めなきゃならなくなっても大丈夫そうね」


 と、沙織さんが言った。

 私は、そう言われて思い出した。確か、唯花さんの伯父さんの家に泊めて貰う話で、計画は進んでいるが、万一ダメだったら、コンさんがここにみんなで泊まればいい……と、言っていたことを。


 そして、再来週は、みんなで海に行けるということも思い出して、私は旅行の疲れなど吹っ飛んでしまっい、今から妙にワクワクしてきた。

 それを察した舞韻さんから


 「燈梨、嬉しいのは分かるけど、今日は落ち着いて休む系よ。なんだかんだ言っても、旅の疲れが出てくる系なんだから。お店は、明後日からだから、明日は、ゆっくり生活のリズムを取り戻す系よ」


 と、注意されてしまった。


 夕飯の時間となり、4人で食卓を囲んだ。その席上でふと言った。


 「なんか、今になって気付いたんだけど、こっちの夏は暑いんだね。帰ってきた途端に、汗が出てきたよ」

 「そうか、燈梨は、ずっと北海道だったもんな。しかも、1週間近く別荘にいたから尚の事か。燈梨、夏の間は遠慮しないでエアコンかけっ放しにしておいていいからな」


 と、コンさんが胸をドンと叩いて言うので


 「いや、さすがに、かけっ放しにはしないよ……」


 と、返すと、舞韻さんが表情も変えずに言った。


 「いや、燈梨、かけっぱで良い系。ちなみに去年までのオーナーは、1日中かけっ放しで、仕事に行ってる最中も誰もいない部屋でエアコンが20度に設定されてたから、一度お説教したくらいなの」

 「そうだぞ。燈梨が我慢して熱中症にでもなったら、それこそ一大事だ。だから、くれぐれも遠慮するな」


 と、コンさんも言うので


 「うん、分かったよ」


 と、答えた。

 コンさんが、夕飯を食べながらふと


 「そう言えば、お盆かぁ……」


 と、感慨深そうに言ったので、私は訊いた。


 「コンさん、お盆に帰ったりするの?」

 「燈梨達に合流する前日に帰ってきたぞ」

 「そうなの!?」

 「ああ。俺の実家は、ここから近いしな、半日で終わる」

 「そうなんだ。他のみんなは?」

 

 と、訊くと、コンさんが言った。


 「沙織は、両親と断絶しているから元々帰らないしな、舞韻の両親は海外で死んでるから、舞韻も帰らないな」

 「ええっ!?」


 私は、コンさんがしれっと言ったことが、あまりにもとんでもない事だったので、思わず目を丸くして絶句してしまった。

 すると、舞韻さんが


 「別に燈梨が気にすることでもないし、私自身、気になってない系。両親は駆け落ちに近い状態だったらしくて、勘当状態だったから、行った事もない系よ」


 と、これまたしれっと言うので、私はビックリしてしまった。

 コンさんと舞韻さんは、海外の戦地で出会ったという話は訊いたことがあるが、それ以前に、舞韻さんは、海外で両親と死別して、以後ずっと海外で生活することを余儀なくされたようだ。


 そんな私の疑問を察したのか、舞韻さんが


 「私の両親は、特派員と、カメラマンだったらしいわよ。戦地の状況を生で伝えることを絶対としたジャーナリスト魂溢れる人だった……って地元の誰かが言ってた系」


 と、言い、それから少し下を向いて続けた。


 「だから、長生きできなかった系ね。私が7歳の時だったと思う。1人ぼっちになったのは」

 「……」


 私は、あまりの壮絶な話に、何も言うことができなかった。


 「それで、生きるために、子供なりに考えて、地元ゲリラ部隊に参加して、傭兵へと転向し……ってところね」


 舞韻さんは、笑顔を浮かべて言っていたが、恐らくその頃も、壮絶な生活を送っていたのだろうと思う。

 以前から、舞韻さんの言葉の中に、戦地で、自分はこうしていた……的な言葉が訊かれたが、それは、この体験あっての事だったんだと分かった。


 私は、舞韻さんの中に、こんな暗い過去があった事、そして、それを全く表面に出さず過ごしていることに驚きを隠せなかった。


 てっきり舞韻さんは、以前からミリタリーや格闘技などに興味があって、その結果、海外に渡って軍事訓練を受けて、傭兵として活躍したと、ばかり思い込んでいたが、舞韻さんも、コンさん同様、海外の紛争地に1人残されて、生きていくためには、戦いに身を投じなければいけなかったんだ……と、思うと、今までの自分との違いを感じて、恥ずかしくなった、そして、みんながとても頼もしく思えた。


 そんな恥ずかしいと思っている私の様子を見たのだろう、舞韻さんは


 「燈梨。私と、燈梨とのギャップが大きくて、燈梨が恥じることは無いの。逆に、私は、燈梨が受けて来たみたいな仕打ちには耐えられない系だから」


 と、優しく言った。

 そして


 「なんで、こんな湿っぽい話になった系?……違う話題にしましょ」


 と、言うと、この話の根源となったコンさんの方をチラッと見た。


 コンさんは、慌てた様子で違う話題を探した結果、師匠の山の大半を占める手付かずの野戦エリアを今後、違う用途にできないか?という話を始めた。

 あそこが転用できれば、遊びの幅が広がるし、そもそも、今後野戦訓練をする必要もないだろうから……と、言い、その夜は、その話題が最後まで続いた。

 

 結局、フー子さん達のサバゲや、本格的なキャンプなどに使うかも……という事で3分の1まで縮小することが決まったが、残りを何にするかは、今後の課題になった。


 こんなことを考えられるようになった今年の夏は、私にとっても、みんなにとても大きな夏だった。そして、師匠という人の大きさを感じられたという意味でも大きな夏だったと思う。

 私は、山の事で頭がいっぱいになりながら、夏の前半を終えた。

お読み頂きありがとうございます。


少しでも続きが気になる、見てみたいかも……と、思いましたら、評価、ブックマーク等頂けると活力になります。


お気軽にお願いします。

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