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みんなと山

 午後からは、再び練習場に行って、みんなでレビンで遊んだ。


 特にフー子さんと唯花さんの乗り方が激しかった。

 唯花さんは、振り返しと言って、左向きにドリフトしてる状態から一気に右向きのドリフトに切り替えてみたり、直ドリと言って、直線走行中に左右に振り出してドリフトに持ち込んだりという技を繰り出していた。


 フー子さんは、停止させた前輪を軸に後ろをぐるぐると回してターンしながら、360度の円を描く走りをしていた。

 私は、2人共の隣に乗ったが、2人とも安定させて動かしていたので、思ったよりも怖さは無かった。


 私は、唯花さんに


 「唯花さんのランサーと、このレビンは動きが全く違うのに、なんでこんな凄いことができるの?」


 と、訊くと


 「ああ、私は昔から伯父さんに、あちこちで特訓させられたからね。最初はスタリオンで、スカイライン、180SX、ロードスター、フェアレディZって、ほとんどFRばかりでしごかれて、ハチロクにも乗ってたことがあるから、私にとっても慣れたもんって訳」


 と、事も無げに答えた。

 そして


 「ハチロクなんてさ、猿でもドリフトできるからさ。燈梨も横向けて、スピンさせて、悔しい思いしながら上達していけばいいんだよ」


 と、言って私の肩をポンと叩いて


 「じゃあ、姉さんたちと一緒に、燈梨も特訓、しちゃおうか」


 と、いうや否や、私を羽交い絞めにすると、フー子さんと朋美さんが、私の足を掴んで、私はレビンの運転席へと押しこまれた。


 ……数時間が経過した。

 私が、コンさんとの練習のおかげで、殊の外、コントロールができていたので、その応用をみんなから教わり、その後は、みんながそれぞれにレビンで遊び、日が暮れる前に終了し、グラウンド整備と、今日2度目になるレビンの洗車を行って終了となった。


 「へぇ~、本当にこのハチロク、頂上のところに捨ててあったんだな」


 アルバムを見たフー子さんが、ちょっと意外そうに言うと、唯花さんが


 「昔は、ハチロクなんてゴミ同然だったからね。拓兄とか、フォックスさんとかの年代の人が免許取った頃は、そんな感じ、S13買えない人が乗る代用車的なポジションだったからね」


 と、言いながら写真を見て


 「……に、してもこのハチロクは酷かったんだねぇ。ここに置かれてる事を知った連中にハゲタカにされたんだと思うし、DQNまで来て殴る蹴るされたんだろうねぇ」


 と、言った。

 朋美さんは


 「よくこの状態から、ここまでに直したよねぇ……」


 と、言うので、私は


 「さっき訊いたら、3年くらいかかったって言ってた」


 と、言うと、みんなは感心しきりだった。


 「なんか、楽しそうなんだけどな。ここまでボロボロの車を、みんなで直していくのって、でも、さすがにそこまで時間が掛けられるかっていうと……ね」


 と、唯花さんが言い、みんなも頷いていた。


 練習場の整備を終えると、みんなで頂上まで移動した。

 とても自然の流れで気付かなかったが、この移動に使ったワンボックス車に、私は見覚えが無かった。


 「これは、倉庫の中にしまってある車だぞ。人数が多い時に、車を下に置いて、コイツに乗って上まで上がってくるんだ」

 「へえ~」


 私は言って、思い出したことがある。

 頂上にはレビンの他に4台車が捨てられており、うちレビンを含めた3台は、この山で使う事にして直したと、いう話を。

 確か、レビンと、ジムニーと……


 「バネット」


 私が言うと、運転席にいた朋美さんが


 「そう。よく知ってるね、燈梨ちゃん。この車はバネットっていうの。昔、伯母さんの家で乗ってた」


 と、言うと、フー子さんは


 「そうなのかー。ワンボックス車の車種なんて、あんま知らないんだよねー」


 と、言っていた。

 みんなは、なんで私がそんな物の名を知っているのか、不思議そうな表情で見たため、私は、その事情を話した。すると、


 「凄いなー。ハチロクに限らず、コイツも、あのジムニーも、山に不法投棄されてたのを直したのかー」


 と、フー子さんが感心して言うと、唯花さんが


 「なんかさ、この山で使っている物の大半が、ここに捨てられてた物を直したって訊くと、なんか、この山にあるものを無駄にしない精神とかを感じて、凄く師匠に感動しちゃうんだよね」


 と、同調して感心していた。


 私は、師匠は、この山を、みんなが集まるためのツールにしたかったのではないか?と、思うようになっていた。

 

 コンさんの話では、師匠がこの山を買ってしばらくしてから、コンさんが頻繁に呼び出されるようになったとの事だった。


 それまでのコンさんは、師匠とは一定の距離を保っていたそうだ。

 それは、1つにはコンさんが、師匠と関わっている事で、まだ()()()()世界との関わりが断てていないと、世間から見られる事を嫌ってのこと。

 そして、もう1つには、師匠が、コンさんをもっと早くこの世界から足を洗わせられなかったことに対する負い目があった事で、遠ざけていたことがあったそうだ。


 しかし、コンさんが、仕事に悩むようになった頃、師匠がこの山を買ったのだと言う。

 そして、コンさんに山の清掃や開拓をするからという名目で、週末ごとに別荘に呼び出していたとも訊いている。


 そんな中で、頂上に捨てられている車を見つけ、その修理と整備という名目も付け加えて、コンさんに断れない状態にした上で、練習場まで作ったのだと思う。

 この山を息抜きに使って、なんとか日本で、まっとうな暮らしを営んで欲しい……と、そして、それに挫折しかかっているコンさんに、日本での暮らしの糧になる何かを見つけて欲しい……と思ったのではないか。


 しかし、その思いも虚しく、コンさんは海外へと傭兵として旅立って行ってしまった。

 それからと言うもの、この山は再び荒れてしまったそうだ。


 そして、再びこの山を整備するようになったのは、コンさんが、舞韻さんを連れて日本へと戻った7年ほど前からだそうだ。

 コンさんが驚いたのは、あれほど情熱的に師匠が手を入れていた山が、全くの手つかずの荒野に戻っていて、師匠のサファリでも、ウインチを使って脱出するような道なき道になっていたそうだ。


 そこを、舞韻さんと3人で、元の姿に戻すのに半年以上かかったそうだ。

 その間、師匠は、ほぼ別荘に住み込み、コンさん達も、お店が休みの前日夜に出発して、休みの日の夜に家に戻る……という生活を繰り返していたそうだ。


 そして完成したこの山に、師匠は、きっとみんなとの楽しいひと時を、夢見て、実際に楽しんだと思う。

 頂上では、バーベキューや川遊びが楽しめて、お風呂を沸かして景色も楽しめれば、蛍も見られる。

 麓には、車の動きを練習できる広場があり、途中には、ヒルクライムが楽しめるエリアも作って、色々な車趣味が楽しめるエリアがあり、更にはサバイバルが楽しめる野戦のエリアもある。

 この山に、みんなとの絆を繋ぐ思いを込めたのだと思う。


 現に、舞韻さんが大学を卒業するくらいまでは、みんなで、この山によく来ていたそうだ。

 コンさんは、別荘の温泉と、練習場でのドリフト練習、舞韻さんは、野戦エリアでの訓練を目的に。

 そして、沙織さんは別の日に、フー子さん達の相談に乗ったりする目的と、ジムニーでヒルクライムを楽しみ、また、別の日は、師匠と野戦訓練をしたり……と、色々な目的で、この山が、人と人を繋いでいたそうだ。


 そして、師匠と、フー子さん達、コンさんという繋がりも、この山で、できたのだそうだ。

 それは、沙織さんが姿を消した後も続いていたとのことで、フー子さん達に、沙織さんは沖縄で暮らしているので安心して欲しいと、この山で伝えたのは師匠であり、コンさんだったそうだ。


 そして、師匠は、再びみんながこの山に集まることがある、と信じて、この山を整備し続けていたのだと思う。たとえ、そのみんなの中から、自分が外れてしまったとしても、いつか舞韻さんと沙織さんが、和解をし、杏優がコンさん達と上手くやっていく事、再び沙織さんとフー子さん達が、ここで遊べる事を願っていたと思う。

 その象徴が、バラエティに富んだ遊び場であり、外装変更が途中になったプレハブ小屋であり、この

8人乗りのバネットなんだと思う。


 きっと、師匠は今日の日を夢見ていただろうし、今日のこの光景を天から見下ろして、今、とても喜んでいるのではないかと思いながら、私は、外の景色を楽しんでいた。


 頂上に行くと、コンさん達も屋根のペンキ塗りが完了していた。

 それを見て、私は感心して


 「凄い!屋根も色が変わると、本当の山小屋っぽく見えるね」


 と、言うと、舞韻さんが


 「結構シックな色合いのものを、探して用意していた系みたいだから、本当にそれっぽい系ね」


 と、ちょっとドヤっとして言った。

 ただ、内装はそのままなので、そこは今後の課題となりそうだ。


 山を下って、買い物をしてから別荘に帰りつくと、到着していたミサキさんが、私たちを迎えた。


 「取り敢えず、ちょっとしたものしか作ってないけど……」


 と、言うが、既に美味しそうな匂いが、辺りには漂っていたので、そんなことは無いことは一目瞭然だった。


 中に入ると、既にテーブルには『ちょっとした』では済まない量の料理が乗っていた。


 「バイト先から貰ってきたのもあるんだ……へへへ」


 と、照れ笑いしながら話すミサキさんを見て、フー子さんが言った。


 「ミサキのやつはホールの人たちと仲いいからなー。色々と貰ってきたりするんだよ」


 私は、そのメニューを見ると、沙織さんと共にキッチンに入り、さっき買ってきた食材で手早くできるメニューで3品ほど追加すると、パーティの席に着いた。

 すると、コンさんと舞韻さんが地下からボトルを持ってやって来て、パーティーの開始となった。


 

お読み頂きありがとうございます。


少しでも続きが気になる、見てみたいかも……と、思いましたら、評価、ブックマーク等頂けると活力になります。


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