第二の相棒
私は、唯花さんの言っていることの意味が分からずに
「えっ!?」
と、言うのが精一杯だった。
すると、唯花さんは、ラパンの向こう側にあるブルーシートをめくると
「じゃ~ん!用意しました!」
と、言った。
ブルーシートが完全にめくられて、その向こうにある物体を見た時、私は、唯花さんの企みが分かってしまった。
そこには、黒いボディのS14シルビアがあった。グレードは、黄色いサイドエンブレムを信じるならK'sで、屋根には、私のと同じくサンルーフがついていた。
恐らく、さっきの桃華さん同様、壊れたり、必要な部品があれば剥ぎ取って良いよ的な趣向だと思われるが、私の車は、前のオーナーの扱いが丁寧だった事と、完璧に整備して貰ったために、取り立てて取るような部品は無かったので
「唯花さん、有難いけど、今、特に取るような部品は無いよ」
と、申し訳なさそうに言うと、唯花さんは、人差し指を立てて、左右に振りながら“チッチッチ”と、舌打ちをして
「燈梨ぃ、姉さんを侮っちゃいけないよ。燈梨のシルビアが壊れてない事は、見れば大体分かるんだよ。これは、何かあった時用の部品取り車として、ストックしておくための車さ」
と、ドヤ顔で言った。
訊くと、このシルビア、きちんと動きはするものの、登録ができないために復活は不可能で、使い道としては私有地内で使うか、部品取りストックしか道が無くて、唯花さんが、ここのおじさんから、必要としてる人に心当たりがないか?と、相談されていたそうだ。
「シルビアも結構旧い車だからね、もうボチボチと製造中止で出ない部品があると思うよ。そんな時に役立つのがコイツって訳」
私は、ふと思い出したのは、ガレージの中に、S13型のライトやテールランプが幾つか揃えて置いてあったのと、コンさんが、シルビアのダッシュボードが割れやすい、ということを知って、スペアを買おうと思ったら、既に製造中止で手に入らなかった事を嘆いていたことだった。
すると、沙織さんが、
「実は、フォックスも何年か前まで、S13をもう1台ストックしてたの。だけど、お店を拡張するのに置き場所が無くなった上に、どうしても欲しいって人が現れて、泣く泣く手放したの」
と、私に言った。
しかし、私は
「……でも」
と、言うと、沙織さんが言った。
「フォックスに訊いてみなくちゃ……だけど、別荘に置いても良いと思うよ。ダメだってんなら、あたしが兄貴に頼んで、例の旅館にでも置かせてもらうし」
例の旅館とは、私が沙織さんに捕まった際に、コンさんに引き渡された場所で、確か、紘一郎さんが、趣味で集めたゲーム躯体や、車、オートバイを置くのに使っている場所らしい。
「じゃあ決まりだね。おじさんに言ってくる。きっと喜ぶよ~。潰すのは勿体ないって困ってたから」
唯花さんは言うと、向こうへと消えて行った。
すると、フー子さんが
「さしあたって、何か必要そうなものとかないのか?」
と、訊いてきたが、私には特に壊れている部分に心当たりが無かったので、首を横に振ると、沙織さんが
「アレとか、良くない?」
と、言うとフー子さんも
「あたしも、まずはアレかな~」
と、言うので、
「アレって?」
と、訊くが、2人共黙ってニヤニヤするだけだった。
すると、それを見た朋美さんとミサキさんも
「私なら、やっぱりアレから頂いておくかな~」
「そうね。今のと交換しておけば、困らないしね」
と、それに乗って続けてくるので
「なに、アレって?」
と、訊くと、沙織さんが
「その車、見回してみて、燈梨のと明らかに違うところがあるでしょ。それを見て、燈梨が良いな……と思うなら、今回、変えてくと良いんじゃない?と思う訳よ」
と、言うので、私は黒いシルビアを見回して見た。
まだ私も、みんなも室内を見てはいないので、外観だろうと思う。
よーく見回してみると、何か変わっているようには思えず、諦めて降参しようかと思った時に、ふと目についたのはタイヤだ。いや、タイヤ自体ではなくホイールだ。白い色で、足元が引き締まって見える。
私のシルビアが履いているものよりも、少し大きめに見えるし、更に、私のシルビアのタイヤとホイールが、少し引っ込んで見えるのに対して、こっちのは、ボディの外側ギリギリまで張り出していて、安定感があるように見える。
「分かったみたいだね。お洒落は足元からって言うし、それに、インチアップしたことによって走りも変わると思うよ」
と、朋美さんに言われてダメ押しとなった。
私は、このホイールを履く自分の車を想像すると、いてもたってもいられなくなってしまった。
その様子を見たミサキさんから
「でも、今日は燈梨ちゃん、車に乗って来てないでしょ。明日にでも、もう一度ここに来て交換していこうよ」
と、言われて、そうだった……と、ちょっとガッカリしたが、そこに戻って来た唯花さんに
「今から取ってくればよくね?……どのみち、私は1度ラパンの部品を置きにいかなくちゃいけないから、ここ離れるし、恐らく、燈梨はこうなったら今日中に変えたいと思っちゃっただろうしさ」
と、言われて、私は頷き
「できれば、今日、やっちゃいたい」
と、答えると、唯花さんは
「よし、決まり。私と燈梨は行ってくるから、他の野郎どもは、そのシルビアの隅々までチェックして、移植した方が良いものが無いかを探すんだ」
と、言うとフー子さんが
「あたしは、野郎じゃないぞー!」
と、言うと、唯花さんは
「訂正、他の野郎と、豚のぶーこは」
と、言った。
すると、フー子さんがこちらに向かって走ってきて、唯花さんに飛び掛かり
「バカヤロー!もっと酷くなってるじゃないかー!!」
すると、唯花さんが
「なんだよー!野郎は嫌だって言うから、ちゃんと雌にしただろ!!」
「そういう問題じゃないー!そもそも、なんで燈梨は、コイツを止めないでニヤニヤしてるんだよー!」
フー子さんはそう言うと、私に向かって飛び掛かって来た。
そのフー子さんを、朋美さんが背後から捕まえると、ミサキさんが
「フー子!みんなの邪魔しないの!」
「だって、コイツら、あたしを豚呼ばわりしたんだぞー!」
「ハイハイ。じゃぁ、牛にしてあげるから」
「バカにするなー!丼の話してるんじゃない!」
「じゃあ、羊にしようか」
と、寸劇が続いている間に、私と唯花さんは、そそくさとその場を後にした。
唯花さんの家は、広い敷地で家も新しかったが、裏の農機具入れの建物は、瓦屋根の結構、時代を感じさせる建物だった。
もう既にお祖父さんも、農家をやめており、農機具入れは、ほとんど唯花さんの物置代わりになっていた。
そこに、さっき外したラパンの部品類をしまうと、別荘に向かって、私はシルビアに乗ると、2台でさっきの工場へ到着した。
既に、黒い方はジャッキアップされていて、タイヤとホイールは外されて置いてあった。
「早速、始めちゃいますかー」
朋美さんが言うと、ジャッキで車の前を上げて、二手に分かれてタイヤ交換が始まった。
私は、右側を担当して、両方のタイヤを持ったが、元々ついていた方は、小さい割に重く、黒いシルビアについていたタイヤの方が軽かったのには驚いた。
「これが、軽量ホイールの威力なんだよ」
と、沙織さんに言われると、私は妙に納得をして、みんなが、替えた方が良いと言った理由にも納得した」
遂に、タイヤとホイールを交換した私のシルビアの作業が完了し、その姿を見て、私は思わずうっとりとしてしまった。
今までにない印象を放つ、シルビアを前に、私は本気で思ってしまった。
私の車は、カッコいいと。
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