花火と心と
あれから数時間が過ぎた。
一時はどうなる事かと思った花火は、無事開催された。
あの後、当事者の3人と沙織さんで、地下室へと行き、1時間ほどが経過してから戻ってくると、沙織さんが
「花火、始めるわよ」
と、ニコッとして言うと、ミサキさんと朋美さんは、それが分かっていたかのように既に準備がされていて、すぐに始まった。
今日は、昨日のと違って、打ち上げタイプのものも結構あったので、それを最初にみんなで眺めた。
私は、気になったので唯花さんの隣に座って
「花火できないんじゃないかと思って心配しちゃった……下で、なにがあったの?」
と、訊くと、唯花さんは
「ああ、ゴメンね。色々あってね。……あぁ、下でオリオリが、桃華を裸に剝いて磔のカッコに縛り付けて、私らが、泣いて謝るまで、徹底的にくすぐったのさ。オリオリが言ってたよ、この間、燈梨も同じカッコにされたって……」
と、言われ、私は、あの時の事を思い出して、恥ずかしさで真っ赤になった。
唯花さんは、それを見てからニヤリとして言った。
「あんなカッコにされてたら……そりゃあ、犯人に腹立ってもしょうがないよな~」
「……も、もう、ビンタもしたし、あの人も、沙織さん達に酷い目に遭わされて反省してるし、今は気にして……ないもん!」
「それは、私らも同じなのさ。何のかんの言っても、桃華も仲間であり、友達でもある訳さ。だから、わだかまりがあっても、素直になって、腹を割って話せば元通りって訳よ」
私は、桃華さんを探すと、フー子さんとミサキさんと、一緒に花火をしていた。
時より
「チクり野郎のせいで、花火が消えたよ~」
と、嫌味を言うフー子さんに
「ゴメンって何度言えばわかるのよ!」
と言うと、フー子さんに
「今からあと100万回だな~」
と、言われて
「100万回分、絞めてやるー!」
と、首を絞めて反撃する……と、いう元通りの関係の2人がいた。
それを見ていた唯花さんが言った。
「燈梨の話を訊いてると、こういう事をし合う友達ってのは、いなかったみたいだから、分からないんだろうけどさ、本当の友達ってそういうもんだよ。言いたいことを言い合って、そりゃあ、険悪な事にもなる。でも、仲直りできて、元通りの関係に戻るのも早い」
私の心の中は、唯花さんに覗かれていたようだ。
私は、ついさっきまで、あんなに険悪だった2人が、こんな短期間に、元に戻ったことが信じられなかった。私自身があそこまでになったら、恐らく、一生その人と話すことは無くなるレベルの状態になってしまうように思う。
すると、その様子も分かっていたのか、唯花さんは、新しい花火に火をつけて、私にくれて、自分も新しい花火に火をつけながら
「そりゃあ、桃華はさ、プライドが高いから、オリオリがショック療法使わなかったら、今夜の事だって、明日の夕飯くらいまで引きずるかもしれないよ。でも、その時は恐らく、ミッキーが桃華に怒ってビンタして『桃華。いい加減にみんなに謝ってよ!!誰のせいで、みんながこんな雰囲気になってると思ってんの!!』とか、言って謝らせると思うよ。大体、桃華を躾けるのはミッキーの役割だから」
と、言った。
私は、ミサキさんと桃華さんの関係が、いまだによく分からなかった。
桃華さんは、ミサキさんをクラスから孤立させて、フー子さん達3人に物を隠させたり、休み時間や放課後に、ミサキさんをみんなで囲んで暴言を吐いたりしていた張本人だったはずだ。その2人の関係が、逆転するとは思えないので不思議でならないのだ。
すると、その様子も唯花さんには分かったようで、沙織さんが上げた、打ち上げ花火を見ながら言った。
「私らと、桃華の関係って、高2の夏までは、桃華と奴隷が3人っていう関係だったんだよね。みんなが、グループから抜けるのが怖くて、桃華の言いなり。でも、オリオリに壊されてからは、個人個人が主体になったの。桃華が、しばらくクラスでハブられてた時期があって、その時に手を差し伸べたのがミッキーで、それ以降、あの2人は仲良しで、桃華は、ミッキーに頭が上がらなくなったの」
「……」
私が、今一つ納得しかねていると、朋美さんがやって来て
「美咲はさ、桃華の事、本当に守ってたからね。正直、私らは、このまま桃華をハブにしたままでも良いかな、って思ってた。元々、桃華の命令でみんな嫌々やってたからね。
でも、美咲だけは『そんな事したら、桃華がやってた事をみんなで仕返ししてるだけでしょ!私、そんないじめの連鎖みたいなことはしたくない』って、頑強に桃華のグループへの復帰を主張してたからね。だから、今の桃華があるのは、美咲のおかげなの」
と、説明した。
それを訊いて、私は、この5人の間に、私の知らないドラマがあり、そのおかげで今の関係があることを知った。
「ちなみに……」
唯花さんが言った。
「もう、その中に燈梨もいるんだからね。だから、変な遠慮しないで、何でも訊いていいんだぞ。『ミッキーは、なんで胸が大きいのに、そんなに男にフラれるんですか?』とかね」
すると、唯花さんの背後にミサキさんが音もなく近づくと、唯花さんをヘッドロックして
「さあ、大きな花火拾ったから、今から火つけなきゃねー」
と、唯花さんの頭を抱えたまま、花火着火用の蝋燭の方へと近づいて行ったところで、唯花さんがパンパンとミサキさんの腕を叩いてギブの合図をした。
すると、ミサキさんが、唯花さんに向かって
「燈梨ちゃんになんて事、教えるの?それじゃ、まるで私がフラれまくってるみたいじゃない!」
と、言うと、唯花さんは
「でもって、この間、一般教養の授業で、知り合った男にフラれたんだろー。桃華からメッセで訊いたぞ」
と、答え、朋美さんも頷いた。
ミサキさんは、真っ赤になって一瞬、下を向いたが、すぐさまキッとした顔で、桃華さんの方へと向き直ると、桃華さんは
「私は、風子からメッセで訊いたんだもん」
と、言った。すると、ミサキさんは、フー子さんの背後から、両頬を思いきりつねって
「フー子!!あんたのせいで、私のイメージがメチャクチャじゃないの!!」
と、怒鳴った。
すると、フー子さんが
「ゴメンゴメン。でも、事実じゃん。あたしは、授業が一緒の娘から訊いたんだもん。ミサキが、フラれて呆然自失で立ち尽くしてたって。……だから、あの日、お昼に牛丼、奢ったじゃん」
と、言うと、ミサキさんは、フー子さんを睨んで
「フー子のバカ!デリカシー無し!」
と、吐き捨てると、フー子さんが応戦して
「バカって言った方がバカなんだぞ……だいたい」
と、言いかけたところに唯花さんが割って入って
「風子!事実がどうであれ、拡散させちゃったんだから、言い訳しないで謝っとくんだよ……って美咲が泣いちゃったじゃないかよー!」
と、言ったところで、お酒も入ってか、ミサキさんが泣き始めてしまった。……どうやら、思い出してしまったようだ。
泣いているミサキさんを、フー子さんと、唯花さんがフォローに入った。すると、私のすぐ横にいた朋美さんが
「こうやって、美咲と風子が揉めだすと、風子をいさめて、止めるのが唯花の役目なの。みんな、それぞれ役割があるんだけど、最初からこうだった訳じゃなくて、みんなでいて、自然に揉めたり、喧嘩が始まったりして、何度かやっているうちに定位置というか、私にできるのはここかな……みたいな立ち位置が自然と出来てくるのよね」
と、言った。私は、それを訊き、みんなの様子を見ているうちに、この中に入るとして、自分はどこのポジションにハマるのか全く測りかねてしまった。
すると、朋美さんが
「無理に何処かを狙って入って行く必要はないわよ。そのうちに、川にある石みたいに、自然と自分にハマるポジションに形作られていくから、今は、何も考えずに、みんなの中に飛び込んで来て」
と、言われ、私は気負うことなく、リラックスして、桃華さん、朋美さんと花火を楽しむことにした。
今日の花火は、色々な事を学んだ花火になった気がした。
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