桃華と下りと
私の人生で初めてとなるバーベキューがスタートした。
私は、今まで同じ食材を使っても、微妙な調味も出来るし、温度も安定している室内で調理した方が、ずっと美味しくできるのに……としか思っていなかったが、今日改めてその部分は間違っていなかったと思った。
しかし、やはり、みんなで1つの事を一緒にやりながら、楽しい話題と共に食べると、その味が大きく変わっていくということは感じて、何故みんながやりたがるのかは、分かった気がした。
バーベキューでの話題は、桃華さんの東京での生活や、フー子さん達の地元の最近の様子などについてがメインとなった。
そんな中で、フー子さんが
「みんな、騙されんなよ!桃華は東京に住んでないくせに、東京人気取ってるインチキ東京人なんだ!」
と、言うと、みんなの反応は二分された。
あまり地元から出る機会が無いというミサキさんは
「ええーーー!!桃華、東京に住んでるんじゃないの?」
と、驚き、唯花さんと朋美さんは、元々知っていたのか
「別に、1人暮らしで東京に通うなら市川とか、川口とか、川崎とか普通じゃん」
「桃華が痛いことは認めるけど、驚くような事実でもないかな」
と、冷めていて、2人はそちらより、いかに肉を多く取るかの方に夢中だった。
すると、桃華さんが語気を荒げて言った。
「ぷーこは、いちいちうるさいのよ!別に私は東京に住んでるとも言ってなければ、東京人を気取ってもないし!……それと、トモ、私のどこが痛いのよ!」
「んー?……そんなどうでもいい事に、いちいちマジになるところかなー?」
朋美さんは、桃華さんの追及をほぼスルーして肉を頬張っていた。
「あの……」
私は、隣にいたミサキさんに訊いた。
「みんな夏には、こうやって川で遊ぶの?」
「毎年、2~3回は来てるんじゃないかな?私らの県って、海なし県だからね。免許が無い高校生の頃なんて、夏と言えば川……ってのが定番だったよね」
と、言うと、唯花さんが言った。
「ウチらは、高2の夏に、どうしても……って、オリオリを拝み倒して、ジムニーで3時間かけて海に行ったんだけどさ。滅多に行けない海だったから、超興奮したのは覚えてるんだ」
私は、以前にミサキさんに見せてもらった携帯の画像を思い出した。
あの画像は、その時に撮ったものなのだと、今更ながらに分かって嬉しくなった。
そこで、唯花さんが、はたと気づいたように
「そうだ!今度は、ウチらが燈梨のところに行くよ。それで、みんなで海に行こうよ!」
と、言うと、ミサキさんも
「うん、いいんじゃないかな?……ただ、みんなで泊まるところが無いんじゃない?」
と、言って、後半で露呈した問題に唯花さんが
「大丈夫大丈夫、私の伯父さんの所にみんなで泊まれば。燈梨のところからも近いし、去年、伯母さん夫婦が、別のところに引っ越して、伯父さんしか住んでないから部屋余ってるし」
と、答えた。
すると桃華さんが
「私は、男の人がいる家に泊まるのは嫌なんだけど……」
と、言ったが、唯花さんに
「大丈夫。桃華は、そもそも頭数に入ってないから」
と、素っ気なく返されて
「なんで、私だけハブにしてんのよ!」
と、喰ってかかると
「高校の頃から、いつもどこか行こうとすると、桃華だけ理由つけて行かないじゃん!誘うだけ無駄だし、それに、どうしても来たければ、現地集合でもすればいいじゃん!」
と、言われてしまった。
バーベキューが終わると、私は、ミサキさんが持ってきたビーチボールで、ミサキさん、唯花さん、朋美さんとバレーに興じた。
最初は、ミサキさんと、トスだけを延々繰り返していたが、人数が増えてきたので、ランダムにパスしてみたりと楽しみの要素を入れていき、最後はチーム戦となった。
チーム分けは、サバゲーの反省から唯花さんと朋美さんのコンビを解体し、私と唯花さん、ミサキさんと朋美さんのチームになって開始となった。
試合は、均衡したものとなったが、初戦は僅差で私たちのチームが勝ち、2戦目は僅差でミサキさんチームの勝利となった。
……それにしても、水に入らないバレーをしていても、フー子さんは、一向にこちらに近づいてこようとせずに、ピクニックテーブルから微動だにしなかった。そこに、桃華さんがつき合って話をしていたが、ミサキさんの
「これから、川下りやるよ~」
と、言うと、桃華さんがこちらへとやって来たが、フー子さんは表情が凍り付き、その場へと固まってしまった。
その他のメンバーについて、私も少しだけ上流に移動して、ミサキさんはそこで大きめのゴムボートを膨らませた。そして
「ここから、さっきの場所まで下るよ。このルートだと特に危険なところは無いけど、弾んだりするから、しっかり捕まっててね」
と、私に向けて説明すると、乗り込んだ。そして、みんなも慣れた様子で乗り込み、朋美さんが乗り込む前に
「燈梨ちゃんはここに」
と、前側の左側の空いているスペースに座らせ、私がグリップにしっかり捕まったのを確認すると
「スタート!!」
と、言ったかと思うと、ボートは川の上を勢い良く滑り出した。
川は、高低差があって若干バウンドしたり、流れが一部早いところがあったり、カーブしているところなどがあり、適度にスリリングなコースを滑りながら、数分で元いた河原へと戻って来た。
「どうだった?」
ミサキさんに訊かれ
「スリルがあって面白かった!」
と、答えると
「そうなの!私達みんな……ってフー子だけ対象外だけど、これに病みつきなのよ」
と、嬉しそうに言って、再びさっきの場所までみんなで歩いた。今回は、膨らんだ状態のゴムボートを持って行かなければならないので、さっきよりちょっと面倒だったが、それもさほどでもなく、再びボートに乗った。今度は後ろ側の右だったが、スタートすると、さっきとは違うスリルが襲い、正直、さっきとは違う面白さにワクワクしてしまった。
3回目に向かう途中で、私は疑問に思うことを訊いてみた。
「なんで、フー子さんは流されちゃったの?」
すると、唯花さんが
「風子のやつ、本来は、今私らがゴールした地点をゴールにしないといけないのに、上るのが面倒だって理由で、そこからスタートしちゃったのよ。あそこより下流は、流速が速い上に、中州的な場所もないし、1人で乗ったから止めようもないし……で、流されちゃったって訳」
と、説明してくれた。
私は、それで納得した。正直、フー子さんの話を訊いてからは、流されてしまうのではないか?と、最初の2回は冷や冷やしたのだが、その原因を知って、その心配が無いことが分かったので、安心して楽しむことができるようになった。
何度も川下りをしても飽きず、なるほど、みんなが、これに病みつきになる理由が分かった。
「ふーん。あたしも乗せなさいよ」
と、何度目かが終わった後で、沙織さんがやって来て言ったので、唯花さんが
「よーし、オリオリ、タッチー」
と、沙織さんにタッチすると、ボートを降り、そこに沙織さんが乗って更に川下りは続いた。
私は、色々なポジションで試したのだが、前にいる方が、修正などが少しだけできる分、自分で操っている感じが強い一方、後ろにいると、視界が狭まるのと、自分でコントロールできる幅が狭いので、操る楽しみは無いが、スリル感という面では、前にいるのとは比べ物にならないものがあり、違った楽しみがあるのも、面白さを感じる点だった。
川遊びは、桃華さんの登場と、川下りの鮮烈な印象を残して、日が暮れるまで続き、私は、夏の遊びの醍醐味を存分に味わった気分で、別荘へと向かった。
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