5人目の……
当初の設定では、桃華は思い出話の中にのみ登場して、現実には一切登場しない予定でしたが、ゴーストタウンの話中にメッセでの登場を皮切りに、登場人物として昇格しました。
桃華が、今後メインの登場人物となるのかは、反響次第というところでしょうか(笑)
ミサキさんの車の助手席から降りて、一緒にこちらにやって来たのは、ミサキさんと同じ年頃の女性だった。
背は唯花さんやミサキさんよりは高いが、フー子さんや朋美さんよりは低く、黒髪のロングと、白い肌が印象的だ。
顔は美人なのだが、目元がシャープな印象で、それだけに、クールな感じと、一見冷たい印象を受ける。
唯花さんが
「桃華じゃん!いつ帰って来てたんだよ!」
と、言ったのを訊いて、私は、以前にその名前を聞いたことがあるのを思い出した。
確か、ミサキさんをクラスから孤立させた、フー子さん達3人が属していたグループのリーダーの名前だったはずだ。
確か、今は大学に通うために、東京に住んでいて、あまりミサキさん達と会う機会が無いと、言っていたはずだ。
「さっきよ。駅の近くで偶然、ミサと会ったから、そのまま来たのよ……って、なんでぷーこがいる訳?あんた、水が苦手なはずでしょ」
と、相変わらずピクニックテーブルから微動だにしていないフー子さんを見てから言った。
「うるさいなー。インチキ東京人の桃華め。一緒に居たら、唯花がここに来るって言い出したから、仕方なく来たんだよー」
と、答えると
「風子、マジしつこい!ちょっとミサ、ゴムボート持ってきてたでしょ。コイツをボートに乗せて川に流してやろうよ!」
と、さっきの朋美さんと同じことを言っていたので、朋美さんに訊いた。
「なんで、フー子さんに対して同じこと言ってるの?」
「高校生の頃、みんなで川遊びに来た時、風子が1人でボートに乗ってたら流されて、遭難しかかったことがあったの。元々泳げなかったのに、そんなことがあったから、余計、水が嫌いになったって訳」
すると、私たちの方を見た桃華さんが
「ミサ、トモと話してる娘、誰?」
と、言うと、ミサキさんが
「この娘が、燈梨ちゃん。ほら、前にも話したオリオリのところの……」
と、言いかけたところで
「桃華!あたしをスルーしてんじゃないの。燈梨に面会する時は、マネージャーのあたしを通してもらわないと」
と、沙織さんが割って入ってきた。
すると、桃華さんは、沙織さんの方へと駆け寄って言った。
「オリオリじゃん~!久しぶり。そうだ、この間のゴーストタウンの情報、役に立った?」
「ええ、とっても!」
「そうなんだぁ。でも、あの後、大変だったんだよ。一番奥にあった家が爆発して全壊しちゃうし、清掃ボランティアの窓口やってた、市役所の元木さんって女の人は、事故で左手の爪が2枚も剥がれちゃって手伝いができなくなっちゃうしさー」
なんか、会話の端々に妙に既視感があるため、私は、桃華さんが、唯花さん達と話し始めたタイミングを見計らって、沙織さんの方へと行くと小声で訊いた。
「あの、ゴーストタウンの家が爆発とか、左手の爪の剥がれた女の人とか、もしかして……」
「そう。燈梨が誘拐された例の事件のこと。爆破されたのは、燈梨が最初に監禁されてた家。杏優は、市役所で働いてて、あそこの管理を担当してたから、自由に行き来したり、家に入ったりできたって訳」
それで、全てが納得いった。杏優は、仕事の関係であそこの一帯が全て空き家だと知っていたから、私をあそこに監禁して、コンさんを呼び出し、大掛かりな罠で殺そうと企んだのだ。
それと同時に、あの杏優が、まさか昼間は市役所で働いているとは、全く想像もつかなかったので意外な一面を見た気がした。
すると、考え込んでいた私のすぐ目の前に、桃華さんの顔があったので驚いていると
「あなたが、燈梨ちゃんね。私は桃華。コイツらとは……」
と言った。しかし、それが終わりきらないうちにフー子さんが
「燈梨は、もう知ってるぞ。桃華」
と、言ったので、桃華さんは不機嫌そうな表情になって
「ぷーこは、マジでせっかちだね!アンタだと、絶対に話盛って、ありもしない事とか教えてそうで、安心できないから説明してるのさ」
と、言った。そして、また私の目の前に顔をつけるようにしてから
「昔は、ガキで、ろくでもなかったから、気に入らないことがあるとさ、ぷーこやユイ、トモ使ってなんとかさせてたんだけど、オリオリに、それが虚しいことだって教えられてからは、何が大事なのかって事が分かったんだよね。昔と違って、今はみんな大事な友達だよ」
と、言った。その表情は、どこか懐かしいものを見るようながらも、嬉しそうだった。
それを見て、私は思わず
「私も、皆さんに大事な事を色々、教えてもらいました。皆さん、1人ぼっちの私のことを、友達だって言ってくれましたし、その後も、何度も助けてもらって、私にとっても大事な友達です」
と、言っていた。
すると、次の瞬間、桃華さんは私のことをぎゅっと抱きしめて
「そうか……あの娘達がそう言ってるなら、私も……って事で、いいかな?」
私は頷いた。
桃華さんは続けて言った。
「分かるよ。あなたのこと、昔の私なら気に入らなくて、潰しにかかっただろうね。影がありそうなクールビューティで。でも、今は違う。私も、あなたも。今の燈梨ちゃんは、明るくて、可愛い娘」
私も思わず
「私も、分かります。昔の私なら、クラスに桃華さんがいたら、交わらずに避けました。高校生活を謳歌していて、それでいて薄っぺらいものを追い掛けてる。高校生活をそれなりの物で終わらせなければならない私には、その安いガラス細工のような薄っぺらい輝きが眩しくて、ウザかった」
と、言うと、互いに笑顔になっていた。
桃華さんが言った。
「私達って、似た者同士なのかな?」
私は、黙って頷いた。
ふと、誰かの咳払いで我にかえった。
見回すと、バーベキューの設営を終えたみんなが、ジト目で私達2人を見て
「そろそろ、始めたいんだけど……いいかな?絶賛青春ドラマ中、悪いんだけどさ」
と、ミサキさんに言われて、私達は恥ずかしさを思い出して、真っ赤になりながら
「……うん」
「……はい」
と、答えていた。
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