みんなの
今回からは、4人の車を燈梨が乗り比べるというお話です。
バカンスの、のんびりムードをお楽しみください。
地下の探索が終わると、みんなで昨日行った峠道へと出かけた。
頂上の駐車場に到着すると、唯花さんから
「燈梨ぃ。どの車から乗りたい?その間で、空いた人が燈梨のシルビアに乗せてもらおう」
と、言われた。私が、悩んでいると、
「じゃあ、私、風子、美咲、トモの順にしよっか」
と、言われ、私は唯花さんと共にランサーに乗り込み、私の車にはフー子さんとミサキさんが、フー子さんの車には沙織さんと、朋美さんが乗り込んで峠を一周した。
唯花さんの車は、内装の基本的な形などは、運転を練習した教習車と同じながら、明らかに雰囲気が違い、とても硬い感じがした。
最初に唯花さんが
「クラッチが激重だから、ちょっとコツがいるけど慣れれば平気だから」
と、言い、その通りに私は発進でエンストさせた。
クラッチが硬くて踏んでいる感覚が無く、また、遊びも紙一重で無いに等しかった。
前に乗った沙織さんのジムニーにも似た感覚だった。
「ハハハ……最初はやっぱりそうだよねぇ~。重さに慣れれば、繋がる場所が分かるから、うまく繋がれば、アクセル踏まなくても走り出しちゃうポイントがあるんだよ」
何度かトライしているうちに、そのポイントが分かり、上手く走らせられるようになった。
「よし!行ってみよっかぁ~」
と、言われて下り坂を走り始めた。
走り始めてすぐ、私は、この車から違和感を感じた。今まで乗ったどの車からも感じない走り方だ。
何と言うか、車が私を掴んで引っ張っていきつつ、適度に押してもいるような、それでいて、道路にがっちりと喰いついているような安定感と、包まれ感も感じる。
「唯花さん。この車、なんか、上手く言えないけど、凄く安定感があると言うか、道路に貼りついているような安心感みたいなのがあるんです」
「気付いたか。さっすが燈梨は敏感だねぇ。この車は4WDなのさ。だから安定感は抜群なんだよ」
しかし、私は疑問に思ったので訊いた。
「でも、私、沙織さんのジムニーや、コンさんのサファリにも乗ったんだけど、それとは違うような……」
「ああ、ジムニーや、サファリはパートタイム4WDだからね。燈梨が運転した時は、恐らく2WD状態で走らせてたんだよ。でも、このランサーはフルタイム4WDで、常に4WD状態なんだよ」
と、言われて、私はよく思い出すと、ジムニーにも、サファリにも、シフトレバーの横にもう1つレバーがあったように思うが、このランサーには無い。あのレバーで、2WDと4WDを切り替えていたのだろう。
そして、思うのは、シルビアよりも重さを感じる。軽快には曲がるのだが、なんか違和感があり、私がダイレクトに曲がっていると、いうよりも機械が曲げてくれているような感じを受ける。
その違和感が表情に出ていたのか、唯花さんが言った。
「この車は、当時のハイテクマシンだからね。色々なデバイスが働いて走りを成立させてるんだよ。だから、シルビアみたいな素直なFR車から乗り換えると、違和感の塊かもね」
麓に到着して、上り坂に入ると、私は、この車の凄さを思い知った。
最初は、勾配が結構きついので、2速に入れて、アクセルをちょっと深めに踏み込んだ次の瞬間、物凄い勢いで私の背中は、シートの背もたれに押し付けられた。
それがターボの加速であることは、私も知っているのだが、シルビアのそれよりも遥かに強く、シルビアが、後ろから蹴られる、とするならば、ランサーのそれは、なにかに引っ張られたかのような未知の加速感だった。
そして、目の前の景色が今までにない勢いで流れていく様に、私は、違和感と共に恐怖を感じてアクセルを緩めると
「えっ!?……えっ!?」
と、いうのが精一杯だった。
「驚いたかぁ。……このランエボって車はね。ラリーって言って、山道や市街地を走る競技に出るために作られた車だから、エンジンのパワーもさることながら、ギアも加速重視になってるんだよ。そして、4WDだから、パワーを路面に思い切り押し付けられるんだよ」
と、唯花さんに言われて、私は、なんとなく、この車の狙いが理解できた。
すべては、こういう山道を速く走るための技術なのだと、だから、それをうまく使ってやれば、この車は楽しくなる……と思えてきた。
それを自分なりに理解して走らせるようにすると、この車は段違いに楽しくなってきた。
カーブを曲がって、一気に加速し、次のカーブに近づいたら、ハンドル操作で、行きたい方向を定めてやる。そして、姿勢が決まったら、シルビアでは、タイヤが滑るため抜いていたアクセルを踏んでやると、その姿勢のままで、狙った方向に真っ直ぐ飛び出して行く。
凄い、同じ車なのに動きが全く違うし、速さも異次元だ。
教習車と同じ形の車なのに、教習車が柔和で、誰でも受け入れてくれるのに対し、この車は、頑固で、走らせる人間を選ぶが、それにハマると速さを提供してくれる。
「燈梨ぃ……コイツの走らせ方、分かったみたいだねぇ~。姉さんは嬉しいよぉ」
と、唯花さんが言うので、私は、嬉しくなりながら素朴な疑問をぶつけた。
「唯花さんは、なんでこの車にしたの?」
「私は、子供の頃から伯父さんに、走りに連れて行かれてたから、スポーティな車に乗りたかったの。ただ、親から『この辺は雪が降るから4WDにしなさい』って言われてさぁ、ホントはS15シルビア乗りたかったんだけど、インプレッサか、ランエボのどっちかになって、シルビアで乗りたかったのと、同じ黄色があったからエボにしたって訳」
私は、唯花さんの車選びにも理由があった事、そして、唯花さんが、実はシルビアに乗りたかった事を知って、なんか妙に嬉しくなった。
頂上に戻ってくると、後ろを走っていたフー子さんに
「燈梨ー。無茶するなよ、全然ついて行けなかったぞー」
と、言われたが、別に無茶なことはしていなかった。すると、唯花さんが
「燈梨は無茶なんかしてないぞ。風子が下手だったのと、私の車が速かったって事だよ」
と、挑発した。
「覚えてろ唯花。あとでやってやるからな!」
というフー子さんを尻目にそれぞれが車をチェンジした。
今度は、私とフー子さんが、ロードスターに、唯花さんと朋美さんがシルビアに、沙織さんとミサキさんが、ミサキさんの車に乗った。
「じゃあ燈梨、ちょっくら乗せてもらうね~」
と、唯花さんが車に乗り際に言うと、各車出発した。
フー子さんのロードスターは、新しく、新車特有の匂いがした。
操作系も、最近の車らしく癖が無く、さっきの唯花さんのランエボとは大違いで、教習車とまではいかないが、普通の車のように軽く運転できるのが良かった。
走らせると、現代の車なのに、芯がある感じと、野太いエンジン音が印象的だった。
野太いと言っても、唯花さんのランエボのような、社外品のマフラーで重低音が響くような感じではなく、外から聴くと静かながら、走らせていくと脳に響いてくるような野太さだ。
フー子さんのロードスターは、シルビアと同じ後輪駆動ながら、シルビアよりも、もっと軽快な感じがするのが特徴であり、私の好きな点だ。
シルビアに決める前の乗り比べでも、旧いモデルに乗ったが、やはり軽快さと、屋根がオープンになる爽快さは、魅力だが、やはり、私だと髪が乱れてしまうのが気になるので、自分で乗るなら、幌を閉めっ放しになるのかな……と思うが、それだと、ロードスターの意味が無いなぁ……とも思ってしまうところもあり、悩ましい車だと思った。
走りは、今まで乗ったロードスターと同じで、自転車に乗ってるかのような爽快感と、何度も言ってしまうが、軽快感が魅力だ。
それでいて、軽快なだけではなく、しっとりと地面に貼りつくようなしっかり感もあるので、走らせるのが楽しい車だと思った。カーブでも、スッと曲がってくれて、素早く立ち上がるので、パワーが無くても速く、楽しく走ることができる車だと素直に思った。
唯花さんのランエボが、4WDの路面を掴む力と、パワーで速いのとは対照的に、フー子さんのロードスターは、軽快さで、他の車がパワーと重さで、スピードを落とすようなところも、そのままの勢いで行ける事によるヒラリヒラリとした速さがある車だと思った。
「どうだ燈梨。シルビアと同じFRだけど、結構乗り方が違うだろ?」
と、フー子さんに言われ
「うん!何と言うか、自転車に乗ってるみたいな軽快な感じがして、他の車より、ちょっとブレーキが遅くてもカーブ曲がれる……みたいな感じがあるよ」
と、答えると、フー子さんはニッコリとして
「そう!それなんだよ。この車に乗ってると、スポーツしてるって感じになるだろ。それが良いんだよ」
と、言った。
そして、私は訊いた。
「ところで、フー子さんは、なんでこの車にしたの?」
「あたしは、元々MTBとか乗ってて、スポーツカーも好きだったってのもあるけど、オリオリのジムニーにいつも乗せてもらって、オープンに憧れてさ。そして、ウチの親が、新車じゃないとダメだって言うから、選択肢はコペンか、これしかなかったんだ。そしてFRで、軽じゃなくて、デザインも好みだったから、迷わずこれにしたんだ」
と、言われて、私はフー子さんのイメージにピッタリだなぁ……と、思わずにいられなかった。
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